最終話 愚かなる炎
敵に突っ込んだ佐藤大尉の機体は、槍の一撃で、敵のファランクスを貫く。
バゴオォォン!
爆発炎上する敵ファランクス。 爆風を避けるため、姿勢を低くする佐藤大尉の機体。
その後、敵味方が入り乱れて乱戦が始まった。僕も操縦席で叫び、
「うおおぉぉーっ!」
重機関銃を乱射しながら、
ドドドドドドオォン。
槍を突きまくったが、敵機の撃破には至らない。
ドドドドドドオォン。ドドドドドドオォン。
敵機に囲まれ、至近距離で弾丸が飛び交う激闘のなか、佐藤大尉が槍で二機、柴田伍長が重機関銃で一機の敵機を撃破する。
敵も、重ファランクスの高性能を目の当たりにして、逃げ腰になった。だが、その時、一機の敵ファランクスが前に出てくる。
盾に『雪の結晶』のエンブレム『雪の悪魔』だ。
サッと飛ぶように、雪の悪魔は柴田伍長の機体に接近すると、次の瞬間、
ズサンッ!
槍の矛先が、柴田伍長機の胸部を貫いた。 槍を引き抜くと、血がベッタリと付いている。おそらく柴田伍長は即死。
ドゴオォォン!
爆発炎上する、柴田伍長の機体。
「し、柴田!」
「伍長!」
僕と佐藤大尉は呼び掛けたが、当然、応答はない。佐藤大尉は、
「この野郎!」
と、重ファランクスを急発進させ、雪の悪魔に体当たりさせた。
ガツンッ!
強烈な体当たりに吹き飛び、地面を転がる、雪の悪魔。止めを刺すように、佐藤大尉機の槍が飛んだが、
ガゴリッ。
盾で受ける雪の悪魔。奴も素早く立ち上がり、ファランクス同士の格闘戦が始まる。両者が槍と盾で、激しく戦った。
ガツン、ガツン、ガツン、ガツンッ!
凄まじい金属音が響いたが、その時、雪の悪魔の背中に、僅かな隙が見える。
僕は、その隙を逃さず、槍で突いた。
グサリッ!
卑怯な気もしたが、これは戦争だ。充分な手応えがあり、槍は雪の悪魔の機体を貫いた。 操縦席の『戦果判定器』が『ファランクス1』を表示する。
バゴオォォン!
爆発炎上する『雪の悪魔』
「よくやった!」
通信機から、佐藤大尉の声が聴こえる。だが、まだ敵は九機も残っていた。しかし、驚いた事に、残りの敵は一斉に逃げ去る。
「に、逃げるのか?」
「追うな」
と、佐藤大尉。
「俺たちも、ここから離脱する。西南方向へ走れ」
重ファランクスで走りながら、佐藤大尉が歩兵小隊へ通信機で呼び掛けた。
「こちら佐藤大尉。歩兵小隊の現在地は?」
「こちら歩兵小隊。もう、目の前にヘリが見えます」
「俺たちも、そちらへ向かう」
市街地を出ると、広い草原があり、一気に川原まで駆け抜けた。
しかし、この作戦は、いったい何だったのか。皆、無意味に死んでいったのか。柴田伍長や泉大佐、そして、多くの味方と敵が命を落としたのだ。
この作戦は、あまりにも愚か過ぎる。いや、この作戦だけではない。世界大戦、自体が『大いなる愚行』だ。
それでも僕は、今、生きている。川原に到着すると、重ファランクスを乗り捨て、汎用ヘリコプターに乗り込んだ。
乗り捨てた機体は、敵の手に落ちないように自爆させる。地上で爆発炎上する重ファランクスを、僕は上空から見下ろした。 赤い炎と黒い煙は、戦争の『愚行の象徴』のように、いつまでも燃え続けている。