第5話 ブラックポーク・ダウン
大型ヘリコプター『ブラックポーク』は、重ファランクス分隊を積載して、青空を飛行する。
先導するのは、泉大佐の乗る戦闘ヘリコプターだ。
空路の途中、他のヘリコプターとも合流して、合計六機の編隊でB海町を目指した。この作戦の僕たちの任務は『今居恵里子』の身柄の拘束だ。
B海町の奪還は、地上から攻撃するファランクス大隊が担当する。
ヘリコプター編隊は、ファランクス大隊に先行して、空からの強襲を仕掛けるのだ。今居拘束の実行部隊は『即応機動連隊』の歩兵小隊三十名。重ファランクス分隊の任務は、歩兵の援護だった。
B海町は牧畜と乳製品製造の町である。広大な面積を誇るが、人口は少ない。大きな建物も、乳製品の工場ぐらいだ。敵は素人同然の民兵である。ファランクス大隊で攻めれば、一気に制圧できるだろう。
だが、ヘリコプター編隊が、町の上空を飛ぶと、十数発の対空ミサイルが矢のように飛んできた。
「何だ、マウンテン・ウルフの連中は、こんな物まで持っているのか」
ブラックポークのパイロットが驚きの声をあげたと同時に、ミサイル一発が機体に被弾する。
バゴオォン!
爆音と共に激しく揺れる、ブラックポーク。急激に高度が下がった。
ピー、ピー、ピィーッ。
「ブラックポーク、操縦不能、操縦不能」
ピー、ピー、ピィーッ。
通信機から警報音と、パイロットの悲鳴のような声が聴こえる。墜落するのか。
その時、 佐藤大尉が分隊に指示を出す。
「墜落するぞ、操縦席で身体防護の姿勢をとれ!」
「了解!」
僕は返事を返すと同時に、操縦席の中で丸まり、首の骨を防護する姿勢をとった。
直後。凄まじい衝撃と爆発音が襲ってくる。
バゴオオォォォオーン!
僕は一瞬、気を失いかけたが、
「無事か?」
との佐藤隊長の問いかけに、 何とか応答した。
「無事です」
「俺も、無事です」
と、 柴田伍長も無事のようだが、ブラックポークは地面に墜落して、爆発炎上している。急いで、炎の中から飛び出る、三機の重ファランクス。
「しかし、この状況で無傷でいられるとはな」
重ファランクスの頑丈さには、佐藤大尉も驚いているようだ。
「ブラックポーク、応答せよ。ブラックポーク」
上空から、泉大佐が通信機で呼び掛けているようだが、応答はない。おそらくパイロットは即死だろう。
「こちら佐藤大尉。重ファランクス分隊は無事です」
「こちら泉大佐、了解した。歩兵小隊の援護を頼む」
「了解」
歩兵小隊の乗り込んだ汎用ヘリコプター三機は、町の学校のグラウンドに着陸したようだ。そこから西へ200メートルの交差点で、重ファランクス分隊と歩兵小隊は合流した。
目的地は、この町に一軒だけある小さなホテルだ。今居恵里子は、B海町が攻撃を受けた場合『そのホテルの地下室に隠れる』というのが、内通者からの有力な情報らしい。
しかし、街角からウジャウジャと、マウンテン・ウルフの構成員が『普段着』のまま出て来ては『極東共和国の銃』で撃ってくる。
ババババババーン。
ババババババーン。
泉大佐が上空から言った。
「五分後には、町の南からファランクス大隊が来る。持ちこたえろ」
「了解!」
佐藤大尉は、力強い声で応答する。