第4話 マウンテン・ウルフ
戦争の真っ只中、戦闘地域になっている北K道で、道内の反政府組織『マウンテン・ウルフ』が武装決起した。
マウンテン・ウルフは、北K道東部のB海町を武力制圧する。そこへ、野党である国民共和党所属の国会議員『今居恵里子』が入った。
今居は、武力制圧したB海町を『真・北海共和国』と称して独立を宣言する。即日、極東共和国のウラジミール大統領が、真・北海共和国を『同盟国』として承認した。
「マウンテン・ウルフとは、何者なのですか?」
勉強不足の僕は、佐藤大尉に質問する。
「北K道内の反政府組織だよ。元々の始まりは、第三次世界大戦だ」
第三次世界大戦は、今から約二十年前に起こった戦争で、この大戦で我が国は『徹底的に戦わない方針』を貫いた。
結果、北K道は極東共和国に占領されてしまうのだが、終戦の二年後には、外交努力で領土の返還を受ける。
大局的に見れば、この第三次世界大戦を我が国は、一人の戦死者も出さずに乗り切ったのだが、一時期でも占領を受けた北K道の住民は『見殺し・切り捨て戦略』であると、政府に大反発した。
「その反発した住民の中でも、より過激な連中がマウンテン・ウルフを結成したんだ。今では、その支部は北K道の全土に点在していて、構成員は1000人を超えているらしい」
「警察は、取り締まらないのですか?」
「彼らマウンテン・ウルフは、普段は善良な一般市民として暮らしている。犯罪行為は一切しないから、警察も、手を出しにくい。だが、銃や爆薬を調達する極秘ルートがあるようで、時にはテロ行為を行うのだ」
そのマウンテン・ウルフが、敵国の極東共和国と結託して『独立国』を造ってしまったのだ。
その翌日の事である。一機の戦闘ヘリコプターが真K内駐屯地に飛来したのは。搭乗者は強襲飛行群・群長の泉大佐だ。
僕が、初めて泉大佐に会ったのは、この日、ファランクスの格納庫の中だった。彼は一人で格納庫に入って来るなり、入口の近くにいた篠原中佐に、親しげに話し掛けた。
「量子、久しぶりだな。息子さんは元気か?」
「ええ、もう中学生よ」
「あのまま俺と付き合っていれば、シングルマザーになって苦労することもなかったのにな。優男の美容師に惚れるからだよ」
「よく言うわね。あなたも、あの後、地方局の女子アナと結婚したんでしょう」
「昔の話だ。俺も、今は独身だよ」
そう言った後、彼は僕たち三人の方へ視線を向けた。そして、威厳のある足取りで、近づいて来る。
「強襲飛行群の泉だ。君たちが、重ファランクス分隊か?」
「はい、そうです」
佐藤大尉が、立ち上がって答えた。
「次の作戦では、私が、君たちの指揮官になる。よろしく頼むよ」
「佐藤大尉以下三名。了解しました」
佐藤大尉は敬礼し、柴田伍長と僕は、直立不動の姿勢をとった。
「まだ、詳しくは話せんが、近日中に制圧されたB海町を奪還する。同国人同士の内戦になるが、覚悟を決めてくれ」
そして、この日から二日後、僕たち重ファランクス分隊に出動命令が下り、三機の重ファランクスは、大型ヘリコプターに積載される。
この大型ヘリコプターは、黒い機体とユーモラスな丸みのある形から『ブラックポーク』の愛称で呼ばれていた。