第3話 防衛改造
人は、なぜ『生き』そして『死ぬ』のか。戦場にいて、多くの死を目の当たりにすると、死は身近なものになる。 そういう 僕も、戦闘で負傷して、心臓、左肺、左腕が機械の『改造人間』になって生きていた。
「あなたは運が良いわ。近くに衛生大隊がいて、腕の良い医官がいたから、助かったのよ」
そう言う彼女は篠原中佐。僕を改造人間にした医療チームの責任者らしい。
本当に、僕は『運』が良かったのだろうか。もしかすると、あのまま死んだほうが、良かったのかもしれない。この先、もっと苦しい思いをして、死ぬかもしれないのだから。
だが、何れにせよ『人間は何時か死ぬ』これだけは、確定している事実だ。
「あのう、自分のいた小隊はどうなりましたか?」
「全滅したらしいわ」
そうか、皆、死んだのか。
「自分は、どれくらい意識がなかったのでしょう?」
「そうね。二ヶ月くらいかな」
窓の外の景色は、木々の葉が紅葉して美しい。僕が負傷した、あの日は真夏だった。
「君の『専用機』になる重ファランクスも用意されているのよ」
「重ファランクス?」
「通常機より、一回り機体が大きいわ」
「自分の専用機ですか」
「そう『防衛改造』された君は、重ファランクスと連動できる身体になったのよ。これから格納庫に案内するわね」
こうして僕は、篠原中佐に引率され、真K内駐屯地の格納庫へ向かった。
格納庫には、二人の隊員がいた。重ファランクス分隊の隊長・佐藤大尉と、その部下の柴田伍長だ。僕も 今日から、この分隊に加わることになる。
佐藤大尉は左足が義足であり、その部分を防衛改造されたようだ。左足の負傷は、今次大戦ではなく、数年前にPKOでアフリカに派遣されたさいに、地雷で吹き飛ばされたらしい。
柴田伍長は、この戦争の戦闘で右目を負傷して、防衛改造のカメラを取り付けている。
「俺の右目は60倍の望遠・暗視機能つきだぜ。駐屯地の女性防衛官の部屋も覗きたい放題だ」
柴田伍長は冗談を言いながら、明るく笑った。
「とりあえず、搭乗してくれないか」
そう言ったのは、後から格納庫に入ってきた技術士官だ 。
僕たち三人は、重ファランクスの胸部の操縦席に乗り込む、と同時に重ファランクスと『連動』した。驚いたことに、連動すると、重ファランクスの機体が、まるで『自分の身体』のような感覚になる。
「あっ!」
僕は思わず、声を出してしまった。
「どうした。何か異常でもあったのか?」
技術士官が格納庫内にあるブースから、通信機で問いかけてきた。
「いえ、少し、驚いただけです」
「そうか、データを取りたいので、駐屯地の中を歩いてみてくれ」
「了解した」
と、佐藤大尉。僕たち三機の重ファランクスは、格納庫を出て、駐屯地の中を歩いた。柴田伍長が退屈そうな口調で、こう言う。
「佐藤隊長、こんな散歩で、何のデータを取るのでしょうか」
「まあ、歩行のデータでも、欲しいのだろう」
二人の会話は通信機による、やり取りなのだが、まるで普通に喋っているように聴こえた。
だが、その日、大事件が勃発していた。北K道東部のB海町で、道内の反政府組織『マウンテン・ウルフ』が武装決起して、町を制圧したのだ。