第2話 ロンリーソルジャー
僕は今、北の大地の戦場にいる。
二足歩行の装甲兵器『ファランクス』に搭乗した僕は、初の戦闘を経験していた。
小隊長の号令で、各機が、敵に向けて突撃する。
ドドドドドーンッ。
ドドドドドーンッ。
敵味方双方のファランクスが、重機関銃を乱射しながら、突進した。敵は四機、こちらは、小隊編成十二機。圧倒的に有利なはずだったが、
「まずい、あれは『雪の悪魔』だ!」
と、小隊長が叫んだ。
敵のなかに、盾に『雪の結晶』のエンブレムを施した機体がいる。その敵機は『雪の悪魔』との異名で呼ばれる『エース・ファランクス』だ。
叫んだ小隊長の機体が、真っ先に餌食となった。重機関銃で蜂の巣にされ、爆発する小隊長機。
バゴオォーン!
その赤い爆炎を見て、僕は、なぜか、朱実のことを思い出した。 朱実は、僕の同級生で、小学校三年生から中学一年生まで、同じクラスだった。
僕と朱実は、学校の中で行動を共にする『仲良しグループ』の一員で、いつの頃からか、僕は朱実に恋心を抱くようになっていたのだが、
別々の高校に進学して、朱実に彼氏ができてからは、当然ながら、疎遠になっていた。
そんな朱実の『明るい笑顔』を、僕は戦闘の最中に、脳裏に思い出している。その記憶は鮮明で、まるで少し前の出来事のようだ。
「どうして、僕は、ここにいるのだろう」
そう思った瞬間、すぐ近くにいた味方の機体が爆発した。
「どうして、こんな事に、なったのだろう」
僕は操縦席の中で、なぜだか、涙が止まらなくなる。
雪の悪魔は、戦場を駆け巡り、次々に小隊のファランクスを撃破していく。爆発が起こるたびに、仲間の命が消えて無くなるのだ。
「 そのうち僕も、消えてしまうのだろう」
そう思った、瞬間。雪の悪魔から『槍』の攻撃を受けた。
ガツンッ!
辛うじて『盾』で受けたが、機体は転倒してしまう。死を覚悟する僕。
操縦席のモニターには、青い空が映っている。そこには白い雲が流れていた。次に『雪の悪魔』の機体が映り、
槍が、真上から降り落ちてくる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
僕は、夢を見ていた。夢の中での僕は、まだ小学五年生で、夕暮れの公園に友達と集まり、テレビ番組の話題で盛り上がっていた。
当然、そこには朱実の姿もあり、僕は、この頃からだろうか、朱実を異性として、意識するようになったのは。
やがて、日は沈み、辺りは暗くなる。夜空には巨大な満月が浮かび、もう、すでに死んでいる、お祖父さんとお祖母さんが、川の向こうで、僕を待っているようだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
目を覚ました僕は、真っ白の空間にいた。
いや、ただ、ベッドに寝て、白い天井を見ているだけだ。微かに良い匂いがする。香水の匂いか。白衣を着た女性がいた。
「やっと、目を覚ましたのね」
そう言う彼女は、制服の上に白衣をまとっている。防衛医官なのだろう。階級章は中佐のようだ。年齢は、おそらく四十代前半か。
「ここは、どこですか?」
「真K内駐屯地の北部方面病院よ」
そして、ベッドから起き上がった僕は、自分の体を見て、驚愕した。上半身の左半分が、機械になっていたのだ!