第1話 地上の兵士
第四次世界大戦が勃発したのは、僕が高校一年生の頃だった。
この戦争の発端は、東ヨーロッパでの『偶発的な軍事衝突』だったのだが、戦火は瞬く間に世界各地に広がり、数ヶ月後には世界大戦に発展したのだ。
僕の住むN列島も、北から『極東共和国』の侵攻を受け、北K道が戦場となる。そして『戦時特別法』が立法され、僕は高校三年の十八歳の誕生日と同時に『国土防衛隊』に徴兵されてしまった。
今、僕は『ファランクス』に搭乗して、真夏の戦場にいる。
ファランクスとは、現代の陸戦の主力兵器だ。全長は約3メールで、長大な槍と、強固な盾を持つ、二足歩行の装甲兵器である。
操縦席は胸部にあり、頭部にはカメラやセンサーが付けられていた。
火器は、左肩に重機関銃、右腰部に対人用の機関銃が装備されている。
人類は、なぜ『戦争』をするのか。人類の歴史は、この戦争という『殺し合いの歴史』だ。だが、人類の、この『好戦的な性質』が『種』を自然の淘汰から守ってきたのかもしれない。そんな事を考えていると、
「聞こえるか、新兵」
小隊長が通信機で語りかけてきた。
「はい。聞こえています」
「今回は、激しい戦闘になりそうだ。お前は無理をするな、自分の身を守っていろ」
「りょ、了解しました」
僕は、まだ、実戦は未経験である。これが初戦闘になりそうだ。恐怖をジワリと感じ、手が震えた。
「どうして、こんな事になってしまったのだろう」
戦時特別法により、僕のような『高校生徴兵組』は、二年間の兵役が終われば、推薦枠で大学に進学できるらしい、が、生きて帰れる保証はない。
その時、斥候班からの報告が、通信機から聴こえた。
「北北東の林に、敵のファランクスを確認した」
「第二小隊、了解」
小隊長が応答すると、直後、その林から敵の銃撃。
ドッ、ドドドドオンッ。
ドドッ、ドドドオンッ。
重機関銃だ。敵の姿は林の木々の陰に隠れて見えないが、激しい火花だけが目視できる。
僕も、そこへ向けて、重機関銃のトリガーを引いた。
ドドドドドオンッ。
照準は『自動照準』だが、おそらく、弾は一発も当たっていないのだろう。操縦席の『戦果判定器』は反応しない。
銃撃戦の最中、 後方から、ミサイル攻撃の支援があり、 敵の隠れる林をナパーム弾で焼き払う。
ドゴオォォォオッ!
激しく燃える林から、敵のファランクスが這い出てきた。だが、その機体は炎に包まれ、バタバタと倒れては爆発する。
バゴーン、バゴオーン、バゴオォーン!!
敵の動けるファランクスは、三機、いや四機か。その姿は、まるで、誇り高い『中世の鎧騎士』のようだ。やはり、右腕が槍、左腕が盾の形状をしている。
残存した敵機は、逃げずに、こちらに向かって来た。 すかさず、小隊長からの指示が飛ぶ。
「格闘戦だ。第二小隊、突撃!」
「了解!」
小隊長の号令で、小隊十二機が、一斉に飛び出した。
「こ、これが戦場」
僕はファランクスの操縦席で、戦慄に身を震わせながら、機体を敵機に向けて走らせた。とてつもない恐怖が襲ってくる。それでも僕は、決死の覚悟で突撃した。