俺、生まれ変わったら【船】になれました…
……俺は、船。
全長約200m、幅約25メートル、航海速力24.00kt、旅客定員600名の、日本で人気の客船。
昔、俺は人間だった。
名前は忘れたが、海辺に住む男だった。
何らかの事故で命を落としたとき、俺は願った。
「生まれ変わったら、船になりたい」
そう願ったのには、理由がある。
俺は水平線付近をゆっくり移動する船を眺めるのが、大好きだったからだ。
遠くの海に見える小さな船を毎日目で追いながら、いつか乗りたいと思っていた。
あんなに小さく見えるのに実はめちゃめちゃ大きいのだと知って驚いた事と、乗船するためにはバイト代二月分をつぎ込まなければならないことを知って諦めてしまった後悔だけが、いつまでも心に残っていた。
願いが叶ったのだと喜んだ事は、確かにたくさんあった。
だが、しかし。
―――なんだあ?しょぼいなあ、おい!!海外の一流客船を知らんのか!!
たまに俺を罵倒する客がいた。
俺は願った。
「できれば、生まれ変わりたい」
そう願ってしまったのは、残念だった。
たくさん喜んでくれる人はいるのに、ごく一部のわがままな客のことが気になって…豪華客船への憧れが強くなってしまったからだ。
たくさんの笑顔と感謝の言葉をもらっているのに、自分の存在価値に疑問しか浮かばなくなってしまい…地獄でしかない。
安易に願ってしまった事と、願いが叶ってしまった事は、いつも心をえぐり続けた。
……願いが叶って、もう…どれくらい、たっただろう?
―――これが最後のクルーズだ!皆…よろしく頼む!!
コロナ過で乗客数が減り、運行の存続が難しくなった俺は、引退することになった。
……無念だ。
俺は願った。
「最後は、思い切りお客さんを楽しませてあげたい」
そう願ったのには、理由があった。
バブル期のように強気で尖った人の乗船が減り、最近は優しくて穏やかな人の乗船が増え…ヤサグレていた気持ちが緩和されていたからだ。
全国のファンがSNSで繋がって盛り上がりを見せてくれたので…満足している。
どうしようもないことなのだと…あきらめなければいけないのだと、自分に言い聞かせるしか、ない。
……お客さんの喜ぶ顔を目に焼き付けておこう
―――寂しくなりますね、船長…
長年共に海の上を移動した仲間が…涙をこらえている。
懸命に笑顔を作って、お客さんたちを迎え入れている。
俺の願いも…むなしく。
俺に向かって笑顔を向けるお客さんはたくさんいたが、笑顔を向けないお客さんも少なくなかった。
ありがとうという声がたくさん届いて感無量にはなったが…、気の毒そうな顔、泣いている人、悲しそうな表情をする人たちが気になって・・・。
ああ、次に・・・生まれ変わったならば。
おれは・・・
・・・
こちらのお話とわずかにリンクしております(*'ω'*)
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なお、2024/2月の投稿作品はすべて生まれ変わりをテーマにしています。
他にもおかしなモノに生まれ変わってしまった人のお話を書いているので、気が向いたら見てね!!
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