(後編)
「……やだ。死にたくない。死にたくないよ…………」
セバスの死を目の当たりにして、途端に恐怖が襲ってくる。
体中がカタカタと震え、立つことすらままならない。
そんな、絶望的な状況の中で──。
「あらあら? 怯えちゃって、まあ? なんだか可愛そうになってきちゃうわね。殺人鬼もこうなってしまっては型無しね。早いところ終わらせてあげるのも、教師としての努めかしらねぇ」
あっ、この声は……。歩く爆乳フェロモンと言われた四大ヒロインのひとり。フェロモンむんむんのジャス・ミンミン先生だ!
「まーじありえないっしょ。どの口が死にたくないとか言っちゃってんの? ラクに死なせてもらえるだけ、レオン先生に感謝なさいっての!」
あっ、この声は……。ツンデレ最前線と言われた四大ヒロインのひとり。金髪ショートツインテールがキュートでチャーミーなエリリン・シンフォニーだ! 属性はギャル!
「先に手を出してきたのは、お爺さんのほうです。指をポキポキして威嚇していましたからね。こればかりは仕方がありません。殺らなければ、レオン先生が殺られていました」
あっ、この声は……。ロリ神降臨と言われた四大ヒロインのひとり。カシス・オ・レンジちゃん。
唯一の中等部キャラクター!
「そんなことよりランチまだー? お腹空いちゃったぁ! ねぇレオーン! はーやーくぅー♡」
あっ、この声は……。最も太ももがそそるキャラと言われた四大ヒロインのひとり。ヒメナス・クラリネットちゃん。
王位継承権、第八位のお姫様属性持ちのチートキャラ!
そっか。主人公さまはハーレムルートを進んでいるのか。
終盤とも言える殺人鬼成敗イベントに四人のヒロインズを引き連れいているのだから、確定だろうな。
絶妙な匙加減で、信頼度を均等に保ち尚且つ殺人鬼の魔の手からも守る。そこまでした先で、ようやく辿り着けるのがハーレムルートだ。
本当に、裏山けしからん奴だよ。
……はぁ。改めて思い知る。ここがゲームの世界であり、現実だと言うことを──。
だから尚更に思ってしまう。
どうして俺は、よりにもよってセツナ・ベアトリーゼに転生してしまったのか。
なにかの手違いではないのだろうか。
四大ヒロインズにイタズラする機会は本当に残されていないのだろうか。
今はなき、寂しくなった股間を助長するように、やり場のない思いだけがただただ膨張し続ける──。
……くそう。
そんな──。主人公さまに嫉妬心を覚えたところで──。
「怯えなくて大丈夫だよ。じっとしていればすぐに終わるからね」
気づいたときには耳元で囁かれていた?!
「あっ、ちょっ、らめぇっ♡」
たかしとしての理性は瞬時に消え去り、セツナ・ベアトリーゼとしての乙女心がイケボに支配される。
耳がぞくぞくしてやばい!
「……レオン先生♡ しゅき♡」
ちょ、待てよ俺! 何言ってくれちゃってんのさ?!
「すまない。君の気持ちにもっと早くに気づけていたのなら、こんな結末を辿ることにはならなかったはずだ。すべては俺の責任。恨んでくれて構わない」
……や、やめろ。耳元で優しく囁かないでくれ…………。頼むから……。
「せめて苦しまずに、一瞬のうちに──。(フーッ)」
「ひゃん♡」
あぁ、なんだろう。
存外、悪くはない最後かもしれない。
……だって。耳が……耳が幸せ過ぎてやばいのぉ♡
転生して一時間そこいらだけど、生前の三十幾年を思い返してみても、こんなに幸せな気持ちになれたことはなかったように思う。
語尾にハートマークを焚く感情なんて生まれて初めてだ。
なにかが満たされる不思議な感覚──。
「しゅきしゅき♡ レオン先生だぁいしゅきぃ♡ はぁん♡」
「どうか、安らかに──」
──グサリ。
それは──。命を取り除くためだけの優しい一刺しだった。
殺されたはずなのに、幸せな気持ちで満たされているのだから不思議なものだ。
レオン先生♡……。はぁはぁせんせぇい♡……。
はぁん♡ あぁぁあん♡
………………………………。
………………………。
……………。
……。
しゅきっ♡
きゅん♡
うっげぇ……。なんだよ、これ。ありえねぇだろうが……。
なにがありえないって、男にトキメいてまんざらでもない気持ちで最後を迎えているってことだよ……。気持ち悪過ぎる……。
って、あれ? なんで俺は意識があるんだ?
確かに死んだ……よな?
『……はぁ。次は上手くやりなさいよ?」
次? 次があるのか?
いや、その前に──。この声は誰だ?
『縦巻きロールをやめるのです。専任魔術講師レオン・ハート好みの淑女になるのです。清楚で尚且つ大人の色気を放つのです』
……は? なに言ってんだこいつ?
ていうか、誰?!
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