【短編】平民の筆頭聖女は貴族の聖女に魔力と婚約者を奪われ微笑んだ
「光の魔力を失ったことを隠し、筆頭聖女の座に固執し続ける悪女サレナよ……俺と貴様との婚約を破棄する!」
そして今すぐ我が国から出ていけ!
アーク王国第一王子マティアスは大声で叫んだ。
朝の五時、外の木々で鳴き始めた小鳥たちが一斉に飛び立った。
けれどサレナは翼を持たない。だから王子の怒声を正面から聞くしかなかった。
ちなみに今居る場所は修道女専用の宿舎だ。当然男子禁制である。
暮らしている修道女の家族でさえ異性の立ち入りは原則禁止されている。
けれどマティアスは堂々とその中にあるサレナの自室の真ん中に立っていた。
この国の王子である自分が入っていけない場所などないと心から信じているのだ。
実際、鍵をかけていたサレナの部屋へ侵入できていることから内部の者が手引きしているのだろう。
しかもそれなりに権限のある者が。外から帰って来たばかりの筆頭聖女は内心で溜息を吐いた。
けれどすぐそんなの今更ではないかと諦観を抱く。
「新たなる筆頭聖女の慈悲で国外追放に留めてやる!」
恩着せがましく言うマティアスの腕には清楚な修道服に似合わない艶やかな化粧と巻き髪姿の令嬢が絡みついている。
その女性の名はメリュジュナ。アヴァン公爵家の第二令嬢という鳴り物入りの聖女だ。
今年十八歳になる彼女が突如光属性の魔力に目覚めたと公爵邸から教会に預けられたのは半年前のことだ。
だがメリュジュナは修行も潔斎も一切せず、連れて来た侍女を顎で使い自堕落な生活をし続けた。
寧ろこんな早朝に起きているのが信じられないぐらいだ。
来た当日に聖女を自称し始めたメリュジュナだが、筆頭聖女であるサレナを常から見下し馬鹿にしていた。
理由はサレナが平民で自分が公爵家の娘だからだ。
そして毎日侍女二人がかりで外見を整えるメリュジュナと薄化粧すら滅多にしないサレナ。
メリュジュナは自らの容姿に圧倒的な自信を持っていた。
濃い化粧と派手な巻き髪、聖女らしさの欠片も無い公爵令嬢の外見を窘める指導者は教会には居ない。
「地味な顔に地味な髪色、しかも孤児とか……筆頭聖女様は光の魔力しか取り柄がないって噂本当だったのね」
「マティアス様もこんなのが婚約者だなんて御可哀そう。貴女、聖女を名乗るならいっそ彼の為に死んで差し上げたら?」
最初はサレナを見下していただけのメリュジュナは暫くすると嫉妬で罵倒するようになった。
サレナの婚約者であるマティアスと男女の関係になったのだろう。
教会で暮らしている聖女に自由恋愛など決して許されない行為だ。
しかし公爵家から多額の寄付を受け取ったらしく教会は素行不良のメリュジュナを追い出すことも咎めることすら無かった。
別にサレナはそのことに対して不満は無い。その寄付金は教会併設の孤児院の運営にも多少は回されるだろう。
それにこういう貴族女性はメリジュナだけではないのだ。
腰かけ聖女とでも言えばいいのか。
光の魔力を微量でも持つ貴族令嬢が親の手配で一定期間教会に預けられる時がある。
そして皆結婚適齢期の数年前に合わせるように還俗する。要は「元聖女」という肩書が欲しいのだ。
世間での聖女のイメージは清楚で慎み深く、心優しく献身的で慈悲深いものらしい。
それが婚約者選びに有利に働くのだそうだ。光属性の魔力持ちという部分も魅力だという。
だが実際に聖女として真面目に勤め上げているものなど貴族令嬢の中には殆ど居なかった。
この光聖堂教会で一番働いている人間は筆頭聖女サレナだが、彼女は元孤児だ。
後ろ盾など存在しない為教会側も便利にこき使っていた。
そんなサレナが何故次期国王候補と婚約関係なのかといえば、光の魔力が並外れているからだ。人外といっても良い。
国全体を包み込む魔物除けの結界を張ったり、死亡直後なら蘇生出来る程の治癒力を持っている。
なので国民や一部の貴族からは女神の生まれ変わりなどと言われ持ち上げられていた。
しかしサレナに権力を持たせたくない教会の方針でサレナはプライベートでの他人との接触はほぼ禁じられている。
だから国内での評判が高い代わりにどの派閥にも属さない。庇護も無い。
そういう諸々が積み重なった結果、サレナはマティアスの実母であるドミナ王妃に目をつけられたのだ。
短慮で傲慢な性格と、高くない能力のせいで次期国王としての求心力が著しく低い第一王子マティアス。
彼が持つ看板兼盾にこの筆頭聖女を利用しようと。
何よりサレナの能力を管理下に置けば高位の貴族連中のコントロールだってたやすい。
誰だって大病や大怪我に対しての不安はあるのだから。
しかしそんな計算高い王妃の息子であるマティアス第一王子はそんなことを一切理解出来ない人間だった。
彼はサレナを平民の孤児としてしか見ることが出来なかったのだ。
婚約者として対面させられた日からマティアスはサレナを侮辱し続けた。
「元孤児の平民なんて野良犬の子供と同じだ、これが俺の花嫁なんておぞましい!」
「お前の魔力の十分の一でもその血が貴ければ良かったのにな」
マティアスにどれだけ侮辱されてもサレナには助けてと縋る相手はいない。
二人の婚約を決めたドミナ王妃さえ息子の暴言を窘めることは無かった。
聖女サレナにもそして息子であるマティアスにも自分が決めた婚約を否定できないと考えていたからだ。
肩書こそ王妃だがドミナは女帝気取りだった。
彼女より二十歳年上の国王は気が弱く妻の言いなりだった。
しかし、マティアスは平民の孤児と絶対結婚したくなかったのだ。
だから今回のように浅はかに企んだ。
そして今日彼が自分にふさわしいと決めた恋人とともに、早朝にサレナの前に現れたのだ。
朝の勤めから帰ってきたばかりのサレナは深い青色の瞳で意地悪くにやつく男女を見つめた。
追放すると叫んだマティアスの声に、寝ている筈の修道女たちも寮監も部屋から出てくる気配はない。
誰も厄介ごとに関わりたくないのだ。そして筆頭聖女を守ろうとする者も皆無だった。
「……随分と耳が早いのですね」
私自身さえ気づいたのは一時間前なのに。
サレナの言葉にマティアスとメリュジュナは得意げな顔をした。
「彼女が気付いたのだ!聖女の力でな!」
聖女の力ってなんだ。具体的な能力を言いなさいよ。
第一王子の大雑把な説明に対してのストレートな感想をサレナは喉奥で飲み込んだ。
マティアスの気に入らないことを言えば「平民聖女は黙っていろ」といつもの口癖を叫ばれるだけだ。
無言のサレナに対し今度はメリジュナが口を開く。
「ええ、託宣がありましたの!女神エスティナは公爵家の娘であるこの私に自分の権能を授け直すと!!」
「これこそが本来の形、平民の孤児が俺の婚約者で筆頭聖女という状況がおかしかったのだ!」
「ええ、身分が高く美しい人間にこそ筆頭聖女の座は相応しいと女神エスティナは私に告げましたわ!」
エスティナって誰だ。この国が崇める全能の女神の名はエスティディアだ。
うろおぼえ知識で間違った名前を連呼する筆頭聖女候補にもサレナは突っ込まなかった。
ただメリュジュナの細い手首で揺れる禍々しい色のブレスレットをじっと見つめた。
蛇が自身の尻尾を加えこむ意匠には見覚えがある。
似たデザインの耳飾りをサレナもしていた。
昨日マティアスに今からずっとつけ続けろと命じられ押し付けられたものだ。
悪趣味だと思いながらも逆らうことなく今も身に着けている。
この二つは対の呪具だとサレナは知っている。
本来王家の宝物庫で厳重に封印されている筈の魔道具だ。
太古に存在した魔王の遺品の一つとも言われている。
教会が保管する蔵書に書かれていた名は「光喰いの蛇」だった。
イヤリングを身に着けた相手の魔力を、ブレスレットを身に着けた人間が吸収できる。
しかしそれだけではない
身に着けて一週間もすればブレスレットは手首と一体化する。
そして装備者の肉体を醜い魔物に変えるというデメリットがあるのだ。
けれどサレナはそのことも黙っていた。
そもそもこの呪いのアクセサリーが封じられていた箱に注意書きは書かれている。
血文字で『この魔道具を使い光を奪うものは醜い魔物へ姿を変える。その定めは決して変えられない』と明記されているのだ。
古代神語だが教会で神話学を真面目に履修している聖女なら簡単に読める筈だ。
「昨日からずっと私の体に凄まじい魔力が漲っています。まるで女神エスティナ様になったような気分ですわ!」
「その通り、今のメリュジュナは女神そのものだ!此処に来る前に使用人で試したが骨折も一瞬で治してみせたしな!」
お前はお払い箱だ。
そう高らかに宣言するマティアスを冷めた目で見つめながらサレナは実験の為に傷つけられただろう使用人に同情する。
けれどすぐに頭を切り替え二人に対し深々とお辞儀をした。
「では私はこの国からお暇致します。結界の維持と王族や高位貴族の方たちの治癒は筆頭聖女メリュジュナ様にお任せしても?」
そうサレナはメリュジュナに尋ねる。
「ええ、全部筆頭聖女である私が請け負いますわ。だからさっさとここから出て行きなさい!」
恐らくメリジュナは自分たちの企みがサレナに気づかれるのを嫌がっているのだろう。
蛇のアクセサリーを通じてサレナの光の魔力を自分が吸い取っていることを知られたくないのだ。
王妃に告げ口されるのを二人は何より恐れている。
サレナはそこまで見透かした上で微笑んで礼を言う。
「有難うございます。では毎日午前と午後のそれぞれ二時と四時と六時と八時と十時に神域の森の最奥の祠に魔力を注いでくださいね」
この宿舎からなら三十分程全力疾走すれば辿り着けます。
清々した顔でサレナは言う。メリュジュナはアイシャドウを塗りたくった目を真ん丸にした。
「……え?」
「それと国王と王妃と宰相は日に五回ぐらい治癒に呼びつけてきます。腰痛と頭痛と坐骨神経痛が酷いとかで朝も夜もお構いなしです」
全員生活習慣を改めるよう諭してもお前が治せばいいの一点張りで困っていたのです。
深々と溜息を吐いた後、風呂上がりのような笑顔でサレナは言う。
「でも筆頭聖女の座は今からメリュジュナ様のもの、つまり私が行ってきた筆頭聖女としての奉仕活動も今後は全て貴女のものです!!」
「は?待ちなさいよ!! そんなの私には……!」
「大丈夫、耳飾りは王妃様との約束通り死ぬまで身につけておきますので私の魔力の一部を好きなだけ使ってください!」
「えっ、王妃様?」
「あのおばさんも結界の維持と高位治癒が可能な女なら、血は卑しいより貴い方が良いに決まっていると仰ってましたので!」
お二人の保護者どちらも婚約解消と再婚約について既に了承済みです。
サレナはさりげなく部屋に隠しておいた旅荷物を手に持ちながら報告した。
そう王妃は全部知っていた。
サレナが彼女の治癒時にマティアスの女性関係についての報告と提案をしたからだ。
メリュジュナが賢い女性だったなら王妃はサレナの計画には乗らなかっただろう。
だがそうではなかった。
頭が弱く簡単に操れる高貴な血筋の女としてメリュジュナは王妃に見込まれたのだ。
だからボンクラ二人が簡単に王家の宝物庫に入って魔道具を持ち去ることが出来た。
しかしマティアスとメリュジュナはまだそのことに気づいていない様子だった。
「ちなみに、その蛇のブレスレットは絶対外れないですし身に着けて一週間もすると体が魔物になります」
以前呪われた者は地肌が見える程度に全身毛むくじゃらで、顔は毛穴の一つ一つに目玉が出来て、夏場の肥溜めみたいな体臭の魔物になったとのことです。
サレナの言葉にメリュジュナは獣のように吠えた。
彼女の自慢だった美しい顔は涙と鼻水によりドロドロになった化粧で既に魔物のようだった。
そんなメリュジュナを励ます様にサレナが明るく言う。
「でも大丈夫、その状態の恋人にマティアス様が熱く深い接吻をすれば一週間ぐらいは元の姿に戻れます」
「お、俺が……?!」
「はい、ちゃんと舌も入れて絡め合ってください。蛇の交尾みたいに。一回につき最低三十分です!!」
大勢の前で魔物化したら大変なので曜日と時間を決めて計画的に接吻するといいですよ。
その説明に今度はマティアスが死にそうな顔になる。
「お、おいサレナ。お前の聖なる力で呪いをといてくれ……!」
「そ、そうよサレナ。お金なら幾らでもあげるから!!」
「無理ですね、全て王妃様の御意思ですから」
文句があるならあの人に全部言ってください。
聖女らしい言葉遣いをかなぐり捨て元筆頭聖女は分厚くやぼったい修道女服を脱いだ。
すると簡素で動きやすい旅人姿になる。長い髪は縛ってポニーテールにした。
「では、私は追放されまーす、あばよ馬鹿どもとカス教会!!」
そう告げるとサレナは凄まじい速さで二人の前から消えた。
その高速移動は長年の結界張り作業で鍛えた成果だった。
後に残された二人はそれぞれ自分たちの親に泣きついたが、結局どうにもならなかった。
王妃も公爵もマティアスとメリュジュナの婚姻に新たな利を見出していたのだ。
しかしサレナは計画を吹き込む際、王妃に二つ嘘を吐いた。
呪具「光喰いの蛇」を使う代償は装備者の魔物化ではなく寿命二十年分だと告げたこと。
王妃はそれ聞いて尚あっさりと計画を承諾した。
「彼女って結局自分の息子が国王になることが大切でそれ以外はどうでもいいのよね」
そしてそれを母の息子に対する愛だと認識している。
サレナは王妃の内面のおぞましさに溜息を吐いた。
メリュジュナの魔物化はマティアスが治せるし、子には遺伝しない。
サレナが居なくなった後に結界係と治癒係が出来るのは彼女だけだから殺されないだろう。
せいぜい長生きして欲しいとサレナは思う。
「あの王妃が亡くなった後ぐらいならこの変なイヤリングも砕いてあげようかな」
気分が悪いとかはないけれど、単純にダサいし。
高速で移動しつつサレナは自身の耳に軽く触れた。
王妃についたもう一つの嘘。
それは光喰いの蛇により己の光の魔力がメリュジュナに全て吸収されるというものだ。
実際はメリュジュナ程度に吸われてもサレナの魔力は殆ど減りはしない。
何故装備者に害のある光喰いの蛇という呪具が破壊されず王家により保管され続けているか。
それは人外レベルで魔力量の多い人間から他の人間に魔力を分けることが出来るからだ。
「これを使えば国全体に結界を張れたり死者蘇生できる人間を二人に増やせるってことだものね」
光喰いの蛇を使ってサレナの魔力をメリュジュナに移そうとするのは元々マティアスの計画だ。
だからサレナは教会に保管されている蔵書を使い光喰いの蛇の効果について調べた。
マティアスが魔力を吸収できるとしか考えていないアクセサリーの恐ろしいデメリットもそこで知った。
サレナたちの前に使用したのは二人の聖女。
女神の生まれ変わりと呼ばれる程の魔力量を持った伯爵家の娘。当時の筆頭聖女だった彼女がイヤリングを身に着けた。
そしてブレスレットをつけ魔物化のデメリットと共に魔力を分け与えられたのは孤児の聖女だった。
「私とメリュジュナの関係に似ているわね、まあ逆だけれど」
孤児だった聖女に断る権利など無かっただろう。
そして呪いを解いてくれる人間も居なかった。
魔物化するまでの期間は一週間。
旅行か病気かはわからない。
筆頭聖女が魔法を使えなかった期間の穴を埋める為に元孤児の聖女は犠牲になった。
アクセサリーを封じた箱に血文字で書かれた警告はこの聖女の直筆だったのだ。
「でも私とメリュジュナの代でこの厄介な呪具は終わり、今後は悪用する者も犠牲者も出ない」
最後に一つだけ聖女らしいことが出来たわ。サレナは意地悪く笑った。
王妃は光食いの蛇を使い捨てにすることにも承諾している。
元々本来の使い道も知らず、そして知っていても利用出来ず持て余していたのだろう。
王族の中で唯一真実を教えた者はいる。
亡くなった側妃の一人息子で第二王子のアンクだ。
彼は優秀だが国王になる野心は無い。けれどマティアスが愚か過ぎて国を傾けかねないとなったら話は別だろう。
その時に彼が速やかに愚王マティアスを排除しやすくする為、サレナは今回の件を書状でアンクに送っておいた。
これを使う日が来なければいいときっとアンクは思うだろう。そんな人間だから知らせたのだ。
「大丈夫、約束は果たしますわ王妃様。メリュジュナは筆頭聖女に相応しい魔力を持ち続けます」
私がイヤリングを通じて光の魔力を分け続けるのだから。
サレナは人気のない森を目に見えぬ速さで移動し呟く。
そう、王妃とマティアスとメリュジュナの目的は全部叶うのだ。
高貴な血と類まれな光の魔力を持つ筆頭聖女メリュジュナを作り上げたことによって。
王妃は自分の愛する息子に魔物化する嫁をあてがうことになった。
だが筆頭聖女に相応しい程度に光の魔力を持つメリュジュナを手放すことは出来ない。
そして愛し合う二人は夫婦になれる。
「本当にいいことをしたわ!」
サレナはにっこりと笑って国境を越えた。
挨拶とばかりに襲ってきた魔物はナイフで細切れにした。
光の魔力など知らない孤児時代のサレナは魔物を倒して食料と路銀に変えていたのだ。
「ついでに攻撃魔法も覚えてみようかしら、聖女は殺生禁止だけれど私はもうただの平民だし」
冒険者にでもなってみようかな。元筆頭聖女は楽しそうに笑った。
先代筆頭聖女の追放劇から二年後、現筆頭聖女メリュジュナと第一王子マティアスは結婚式を挙げる。
しかし新しく夫婦となる貴い血の男女に笑顔はなかった。
愛を誓い合う二人からはそこはかとなく堆肥の匂いがしたという。
筆頭聖女と第一王子が結婚した頃隣国では「神速のエスティナ」と呼ばれる冒険者が活躍していた。
高速移動と高速詠唱の攻撃魔法を得意とし強く凶暴な魔物を何体も屠った為ついた異名だ。
だが彼女が本来最も得意とするのは結界による防御や治癒だという噂もいつしか立っていた。
彼女に窮地から救い出された者達がそのように言い出したのだ。
しかしそれをエスティナは毎回否定した。
「いいえ、私は聖女ではないので」
そんな大それた力は使えません。彼女はいつも微笑んでそう言った。
神速のエスティナは数十年の冒険者生活の中で幾つもの国を渡り歩き伝説を残した。
そして冒険の中で助けた王子や高位貴族に求婚され、しかし高貴な者達からの寵愛よりも自由を選び続けたと言われる。