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小説家になろうラジオ大賞投稿作品

ポーカーフェイスの裏に

作者: 熱湯ピエロ

『ポーカーフェイスの裏に』


「ほんと、宗助くんって由美に優しいよねー。いい彼氏でうらやましー!」


 私はそう言われる度に曖昧に微笑み、心の中でため息をつく。

 私の彼氏は優しい。これは事実だ。

 いつも気を配ってくれるし、ケチでもないし、顔もいい。意見を押し付けてもこないし、私がイヤなことは何もしないでくれる。傍から見れば、本当に「いい彼氏」なのであろう。


 ただ、何もかもが退屈なのだ。


 全て予想の範囲内のことしかしない、言わない。何かこちらの顔色をいつも窺っている。

 彼は結局、私に嫌われたくないだけ。

 そんな召使いのような相手が「いい彼氏」と言えるのか、と私は思ってしまう。


 私はもっと対等であってほしい。

 突飛なことで私を振り回してほしい。困らせてほしい。イヤなことの一つでも言って、私と衝突してほしい。


 別れたい。こんなつまらない男。でも、友人受けが良すぎて、私からフると妙なカドが立ちそうでイヤだ。相手に非が何もないというのは厄介だ。


 私は微笑みのポーカーフェイスの裏に、彼のことを何の感情もない冷めた思いで見た。



「ほんと、宗助くんって由美に優しいよねー。いい彼氏でうらやましー!」


 俺はそう言われる度に「そんなことないよ」と、微笑んで首を振る。

 本当にそんなことはないのだ。


 ただ、俺は「分からない」だけだ。


 俺の彼女は見た目はいい。それに惹かれて付き合ったのだが、彼女は全然「自分」というものを出そうとしない。お願いもわがままも、こちらの負担にならない程度のこと。

 何を考えているか分からない。何を感じているか分からない。

 だから、無難な態度をとるしかない。それが「優しさ」と捉えられているだけだ。


 俺はもっと彼女に自分を出してほしい。

 突飛なことで俺を振り回してほしい。困らせてほしい。イヤなことの一つでも言って、俺と衝突してほしい。


 そうすれば、もっと分かるのに。俺も彼女の心に踏み込んでいけるのに。


 いっそ別れてしまおうか、と何度も思った。彼女との付き合いは、ただただ退屈でつまらないのだ。

 でもそんな理由で振るなんて、俺には出来ない。だって彼女を酷く傷つけてしまうかもしれないから。せめてどう振ったら彼女の傷が浅くなるか、今はそれだけが知りたい。


 俺は微笑みのポーカーフェイスの裏に、彼女のことを宇宙人を見るような思いで見た。


【ポーカーフェイスの裏に おわり】

相手は自分を映す鏡

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