ポーカーフェイスの裏に
『ポーカーフェイスの裏に』
「ほんと、宗助くんって由美に優しいよねー。いい彼氏でうらやましー!」
私はそう言われる度に曖昧に微笑み、心の中でため息をつく。
私の彼氏は優しい。これは事実だ。
いつも気を配ってくれるし、ケチでもないし、顔もいい。意見を押し付けてもこないし、私がイヤなことは何もしないでくれる。傍から見れば、本当に「いい彼氏」なのであろう。
ただ、何もかもが退屈なのだ。
全て予想の範囲内のことしかしない、言わない。何かこちらの顔色をいつも窺っている。
彼は結局、私に嫌われたくないだけ。
そんな召使いのような相手が「いい彼氏」と言えるのか、と私は思ってしまう。
私はもっと対等であってほしい。
突飛なことで私を振り回してほしい。困らせてほしい。イヤなことの一つでも言って、私と衝突してほしい。
別れたい。こんなつまらない男。でも、友人受けが良すぎて、私からフると妙なカドが立ちそうでイヤだ。相手に非が何もないというのは厄介だ。
私は微笑みのポーカーフェイスの裏に、彼のことを何の感情もない冷めた思いで見た。
*
「ほんと、宗助くんって由美に優しいよねー。いい彼氏でうらやましー!」
俺はそう言われる度に「そんなことないよ」と、微笑んで首を振る。
本当にそんなことはないのだ。
ただ、俺は「分からない」だけだ。
俺の彼女は見た目はいい。それに惹かれて付き合ったのだが、彼女は全然「自分」というものを出そうとしない。お願いもわがままも、こちらの負担にならない程度のこと。
何を考えているか分からない。何を感じているか分からない。
だから、無難な態度をとるしかない。それが「優しさ」と捉えられているだけだ。
俺はもっと彼女に自分を出してほしい。
突飛なことで俺を振り回してほしい。困らせてほしい。イヤなことの一つでも言って、俺と衝突してほしい。
そうすれば、もっと分かるのに。俺も彼女の心に踏み込んでいけるのに。
いっそ別れてしまおうか、と何度も思った。彼女との付き合いは、ただただ退屈でつまらないのだ。
でもそんな理由で振るなんて、俺には出来ない。だって彼女を酷く傷つけてしまうかもしれないから。せめてどう振ったら彼女の傷が浅くなるか、今はそれだけが知りたい。
俺は微笑みのポーカーフェイスの裏に、彼女のことを宇宙人を見るような思いで見た。
【ポーカーフェイスの裏に おわり】
相手は自分を映す鏡