釣り竿と猫
釣りがしたいわけじゃなかった。
釣り竿を買ったつもりもなかった。
しかし目の前には釣り竿がある。持ち手の部分には黒いスポンジが巻かれており、持ちやすくなっている。試しに持ってみると手によく馴染んだ。
竿は先端まで真っ黒だ。全長はおおよ二十センチ程度だろうか。携帯性に富ん造りになっており、竿は二段階に分けて伸びるようだ。伸ばしてみると五十センチほどの長さになった。
軽く振ってみると先端に取り付けられた太めのテグスが弧を描く。しなりはなかったが、なかなか振りやすい感触だ。
竿を置いて同封されていた仕掛けを取る。透明のビニル袋に仕掛けが六個入っている。蝶々を模した物や甲虫の形をしたもの、トンボに見えるようなモノと三種類入っていた。
封を切って蝶々一匹取り出す。羽根はラメの入ったセロハンでできている。部屋の灯りでキラキラ輝く。
昂揚する光の乱反射に期待が高まる。
テグスの先端に仕掛けを引っ掛けて試し振りをする。
セロハンの羽根でパタパタ音を立てながら蝶々が舞う。
その音を聞きつけた同居人が部屋に入ってきた。蝶々を見るなりに目が爛々と輝く。身を屈めて尻が小刻みに振られる。
ニャーと急かされた。
初めて買った猫のおもちゃだが、入れ食いの予感がした。