ゲームクリアは転移の始まり
…………始まりは、話せば長くなります。
いきなりですが回想入ります。
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「どうだ七夜?行けたか?」
「‥‥‥びっみょーです、取り敢えず全部の必須フラグ回収して後は結末を見るだけなんですけどね、」
「そうかぁ、しかし最速攻略スレ見たけど相当な難易度なんだって?史実EDに至っては到達報告すら上がってないとの話だが…………」
「だってRHNゲームの史実エンディングですし………」
部屋でお気に入りのゲーム会社のソフトをいつものように攻略する私。
相棒は攻略に一息ついたのを見計らって一言聞き、そのまま結果を一緒に見守ってくれます。
「‥‥‥‥ん?終戦?おい七夜、なんか知らんが新聞に講話で終戦したって出てるぞ?」
「え?ホント!!?講話終戦って事は話に聞いた史実EDじゃないですか!」
「と、言うことは」
「いよっしゃぁァァァ!これで全作品史実ED終わったぁァァァァァ!」
見たかったED画面が開かれたのを相棒とともに見た瞬間、これまでにない達成感と疲労が私に降り掛かって来た。
「‥‥‥‥‥‥はぁ‥‥‥‥‥‥‥疲れだぁ〜〜」
「これで今の所出てるR.H.N社が発売したゲームは全部終わったんだっけな?」
「そうですね、【始まりの魔女は死んだ】から始まって、【私が見た戦争、貴方が終わらせた戦争】、【ク・リトル・リアル】シリーズ、【海原のルール】に【覇者道中神話粉砕録】、【未来警察ウインドダイバー2050】、【サクッと!】シリーズ、【ごちゃまぜ!カオティックパーリィ】シリーズに【ポストアポカリプスを作ろう!】まで行ってからのこの【記者が歩いた東西戦争】でしたから、コレで現状は全部です」
「最新作が出ては即買いして攻略しての繰り返しだったしなぁ……にしても両陣営が講話して終戦するルートなんてあったんだなぁ、いや、戦乱は続くエンドかどっちかが首都占領して勝敗が決するルートしかなかったからある意味この史実EDは当然の帰結といえるのか?」
「言われてみればいつも史実EDは他のEDと比べると変わった立ち位置にあることが多かったような………」
EDに当たる一つの新聞記事の画面を見終え、見慣れたスタッフロールを流し見しながら本ゲーム完全攻略のこれまでの奮闘を心のうちに振り返る。
私、天城 七夜がこのR.H.N社と言うゲーム会社のゲームをやり込み始めたのは5年前のことでした。
当時10歳だった私と相棒の夏に突如として現れ、業界に殴り込みをかけたゲーム会社、R.H,N社。
ルート分岐による難易度変化とエンディングの分岐、そしてそれぞれのルートでの神懸かったストーリーの濃さから、ゲームすら初めてと言える初心者から、逆にそのジャンルの廃人プレイヤーまでをも魅了するゲームを開発し、世に送り出してきたこのゲーム会社が産声を上げた作品、【始まりの魔女は死んだ】をゲームショップの新作コーナーで見つけたのが私と同社のゲームとのファーストコンタクトでした。
なんとなしに気になった私は昔からの幼なじみである相棒、天ヶ瀬 天一郎を誘ってそのゲームをプレイし、結果、二人揃って作品のそのあまりの完成度の高さに思わず入れ込み、3日の徹夜でもって全クリを果たしてからはそのまま同社のゲームに目をつけるようになったのです。
新作が出ては購入して二人でプレイして全クリ、また新作を見つけては購入して二人で全クリ、そんなことを繰り返し、あれから5年が経って、高校生になった今でも変わらず新作を購入しては直ぐ攻略する日々の中、今日も今日とて2日前に発売されたばかりの新作、【記者が歩いた東西戦争】を二人で協力してやっとのことで全クリしたのですが…………
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『(カツ、カツ、カツ)〜〜〜1年後〜〜〜』
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「おっ、エンドロール終わったな、なんかその後みたいなのが出てる」
「…………!?、チョット待って!映像のとこブラックオフィスじゃないです!?」
「確かに話に出てたブラックオフィスと特徴が完全に一致するな、え?まさかな???」
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『お待たせしました、大統領閣下、こちらが官邸になります。』
『わー凄いですねぇ、今日から私がここの主になるのかぁ………………………』
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「ちょっ、ブラックオフィスの主って………」
「主人公が大統領になった!?」
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『あの本が終戦の原動力になった事を鑑みますと、閣下の今の御立場も当然の帰結かと』
『はははは………まさかあの本が戦争を終わらせるとは私は思わなかったんですけどね…………(カツ、カツ、カツ)』
『ま、ここまで来てしまったんです、やれるだけやりますよー!、えい、えい、おー!(カツ、カツ、カツ)』
『……………エルーシアの戦いは、まだまだ終わらない』
『〜Continued〜』
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「…今度こそ終わったな、」
「(ピコンッ!)あ、いつもの隠し実績解除されました!」
エンディングを完全に見終え、いつものように解除されるまでは実績名がわからなくなっていたこのゲーム最後の実績が解除される。
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『実績が解除されました【貴方が私の風だったんですね】』
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「風、かぁ…」
「エルーシアさん、作中で散々風については色々と言ってましたね」
最難関ルートを攻略することで出てくる最難関ルート攻略の証たる実績の解除を見届ける私たち。
そんな私達の転機はあまりにも突然に訪れました。
「(ピコンッ!)………ん?もう一つ?」
実績画面を見た直後、私が見たのはあるはずの無いさらなる実績解除の音。
『実績が解除されました【………………見ぃつけた♡】』
「え?」
「へ?」
何でしょう?と思ったのも束の間、突然部屋全体を光が包んでゆきました。
当然、私と相棒は何もできるはずがなく、あっという間にその光に包まれてしまったのです。
「んで、今に至るわけですね、いやホントワケが分からないです、どうしよう天一郎?」
「おんなじ状況のオレにそれを聞かれてもなぁ」
気がつけば私達は身一つで何処かにやってきてしまっていました。
いや、正確にはここが何処かはすぐにわかったんです、はい、緩やかな傾斜の崖の上という周りを見下ろしやすい場所で寝転がっていたのは幸運と言えたでしょう。
「しっかしあの港湾都市に時計塔………確定だよな?」
「ええ、間違いなく【リズベルの時計塔】です……」
「リズベルって言うと、例のシェアワールドの‥‥‥‥‥」
「本当だとすれば、ですけどね」
「正式名称決まってなかったから【仮組み世界】だっけ?」
「たしか段階的に世界観設定を更新しながら作られてた世界なので、物理法則とか政治的な話とかの設定の粗がまだまだ多かった筈、なので仮組みだったはずです」
何ということになってしまったのでしょう。
私達は完全に身一つでR.H.N社がお遊び企画で作っていた最中のシェアワールドにやって来てしまったようです。
………………………ホントにどうしよう?
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回想終わりっ!
気がついたら異世界ですよ異世界、色々と考えることはありますけど何から考えたらいいのかすらもうわかりません。
そんな訳でどうしたら良いか解らずあたふたしてたら、話をする傍ら思索に耽っていた相棒が口を開きました。
「取り敢えず、ここが本当に【仮組み世界】であるならば、この世界は魔物とか魔族とか魔王とか危険な存在には事欠かない世界であるということになる、取り敢えずこの崖を降りて海岸沿いに【イダバル】に向かって安全を確保したほうが良いだろうな」
「……そうじゃん!予測が本当ならこんなところでのんびりしてたら私達魔物のエサじゃん!、考えてる暇が無いじゃん!!」
そうです、ここが本当に【仮組み世界】ならば、この世界は仮組みだった転移前の時の情報でも魔物とか魔族とか魔王とか、あと亜人と呼称されてる異種族の人々とか魔法とかダンジョンとかファンタジー要素の他に、戦艦だの航空機だの出てくる世界観違くない?ってなるレベルの超兵器だのなんだのもうなんか色々とごちゃごちゃしていた世界なのです、取り敢えず都市みたいな人の住んでるところにいとかないと魔物にむーしゃむーしゃされても文句が言えないので急いで安全を確保しないといけません。
こういう時相棒は本当に頼りになります。
何時もゲームするときとかは特に何も考えずレベルを上げて火力で殴るパワープレイヤーですし、実生活でも基本そんな感じですが、本当にヤバいことになったら機転を効かせて予想外の事態に基本弱い私を支えてくれてるのです。
で、そんな相棒が提案してくれたのは目の前に見えた時計塔のある港湾都市【イダバル】に向かって取り敢えず安全を確保することでした。
お金とか服装大丈夫なのかとか色んなことを考えてしまいますが、魔物のエサになるよりは遥かにマシでしょう。
「道中の魔物とかに関しては俺がなんとかするしか無いだろうな、基本逃げの一手を取りたいところだがどんなのが出るかわからんし、七夜は運動神経が微妙なラインだからなぁ、反射神経ならニュー○イプも真っ青なんだが…………」
「そんなこと言われても………!?」
「?、どうし………!!?」
相棒と【イダバル】へ向かう算段を立てていた中、突然海の方から大きな警報のような音が聞こえてきました。
ジリリリリ!と鳴る鐘の音と、ウーウー鳴るサイレンのの音、あと船の汽笛っぽい音がごちゃまぜになったような超大音量の警報のする方を二人で見ました、ちょうど水平線の先の方角です。
そこにはなんとびっくり、水平線のちょっと遠くに見える戦艦っぽいおっきな船が、横腹を晒しておもいっきり全砲門をこっちに向けてきているではありませんか。
しかもよく見ればその船の近くのちょっと小さいいくつかの船がこっちに向かって来ていますし、戦艦っぽいそれのちょっと先にはそれよりも大きいっぽい平らなシルエットの空母っぽい外輪船が見える始末。
「なぁ七夜、あっちに見える艦隊って……………」
「ええ、帝国正規海軍ですね、この場所的に多分第3艦隊です。」
「こっちに砲向けてるよな?こっち狙ってきてるよな?」
「付近の小さな船がこっち向かってきてますし、まず間違いなくそうでしょうね」
「………逃げるか」
「そうしましょう」
そして私と相棒は脱兎のごとく崖を降りはじめました。
正直、今の光景を見て尊厳を破壊されなかった私は後で自分を褒めてあげたいと思いました。
しかし今はそんな事言ってる場合ではありません、
あの船に狙われてるっぽいと判明した以上、急いでここから逃げなくてはなりません。
……こうして、私と相棒は訳もわからないまま、崖を駆け下りはじめ、それによって続くのかどうかもわからない異世界生活が始まりを告げたのでした。