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「僕としては、まだ見ぬパートナーと会いたいんだけどね。」
「お戯れを。ルーフ様のパートナーはそれ相応のモノでなくては。そうなると、あの方達のいずれかになるでしょう」
ルーフとしては、彼等は友人でありある意味パートナーではあるけれど使役する関係にはなりたくないのである。
だが、ピノとしてはルーフの起こした偉業に値するパートナーは彼等しか務まらないと思っていた。
あーだこーだと2人で話し合っていると、前方から学園の男子らしき3人組が歩いてきた。
ルーフとピノは3人に道を譲るべく端によって立ち去るのを待っていたが、真ん中を歩いていた1人がこちらに気づいた。
「お?お前、誰?もしかして編入生か?時期的に新入生はないよな。」
「お初にお目にかかります。私この度、中等部に編入いたしますルーフと申します。」
おそらく高等部の先輩らしき、3人組にルーフは目上に対しての礼をとる。
そうすると、3人組は面白いものを見つけたかの様にニヤッと笑った。
「そうかそうか。俺は高等部のエバンだ。こいつらはタジーにミル。中等部って事は俺らの後輩になるんだよなぁ、よし!先輩として案内してやるよ。」
「いや、まだ今日手続きに来たばかりですし先輩方のお手を煩わせるわけには…」
「いいからついて来いよ」
3人組はルーフを囲い込み、学園の方へと連れて行こうとする。
ルーフとしては厄介な事になったなと思い、ピノは何があっても対応できるように一歩離れてルーフ達の後に続いた。
どうしてこうなった。
いや、確か友人の1人である彼女に借りた『漫画』なる絵本に書いてあるのを見た事がある。学園で先輩と言うものは、後輩を可愛がるものであると。
現に僕は先輩方に連れられて校舎裏に来ていた。漫画に良くある場面で少し笑ってしまう。
「何笑ってんだ?まぁいい、いいか?この学園では先輩の言う事は絶対だ!後輩はただ言う事聞いていればいいんだ。わかったか?」
エバンはそう言うと僕に笑いかける。笑顔と言っても見下す笑顔だ。ピノは少し離れた所からこちらを伺っている。エバン以外の2人がピノを気にかけながらこちらのやりとりを見て笑っていた。
「そうなんですね。ありがとうございます、初日に先輩方に会えて僕も助かりました。またお会い出来たら嬉しいです。」
僕はとりあえずこの場を切り抜ける為に、その場限りの言葉を返しておく。だが先輩方にはお気に召さなかった様だ。
「あん?いやいやいや、なんか勘違いしてない?君は今から俺達の後輩なわけ。だからさぁ、悪いんだけど金貸してよ。次に会った時には返すからさ」
僕は吹き出しそうになるのを抑えるのに手一杯だった。ここまで漫画と同じ展開になるとは思っていなかったよ。だけど視界の端にピノが臨戦態勢に入りそうだったので慌ててポケットから財布を取り出した。
「わかりました。いくらくらいお貸ししたらよろしいですか?」
「んーそうだなぁ」
エバンは考えるフリをしながら、僕から財布を引ったくる。
財布の中身を見たエバンは満足げな顔をして、そのままポケットへ突っ込んだ。
「おー。このまま借りてくわ。」
「あ、はい。わかりました。」
エバン達はそのまま立ち去ろうとする。僕はやっと解放された事に安堵のため息をつく。しかし、ピノは彼等を許す気はないらしい。
「あの、そこな下賤な先輩方。ルーフ様の財布を返してはいただけませんか?それには貴方様方に差し上げるお金は入っておりませんので。」
ピノは僕の前に立つと、背中を向けて去ろうとしていたエバン達にそう声をかけた。
エバン達も待っていたかの様に、ニヤけた笑顔でこちらを振り向く。
「あーれ?聞き間違いかなぁ?今そこのお嬢さんから舐めた口聞かれた様な気がするなぁ」
「エバン、俺もだ。」
「財布を返せって聞こえたぜ。俺達はちゃんと借りただけなのによ。まるで盗っ人呼ばわりだよなぁ」
エバン達はこれを狙っていたらしい。ピノの前までやってくる。
「これはしつけが必要だよなぁ。」
エバンはいやらしい顔をしながら、指を1つパチンと鳴らす。
すると、彼の横の地面に魔法陣が浮かび上がった。
そこから現れたのは、美しい女性。
ただ背には蝙蝠の様な羽、頭には2本の角が生えていた。サキュバスだ。
彼女は優雅に一礼しながら地面に降り立つ。
「お呼びですか?契約主。」
「あぁ。サキュバスこの2人と少し遊んでやれ。」
「仰せのままに」
サキュバスはこちらへと目を向けてくる。そこで彼女と目があった。
僕はなんとも言えない表情を浮かべ、彼女は驚いた表情を浮かべた。
「お前も召喚従士を目指す奴なら、サキュバスがどれだけの強さがあるかしっているだろ?各種属性魔法を使え、転移魔法まで使える。俺はな学園でも選ばれた人間の1人なんだよ!初日だからちょっと痛い目みるんだな。明日からは俺の命令は絶対な」
エバンは勝ち誇った顔をして、こちらを見ている。だが、まだこの場の雰囲気が変わっている事に気付いていない。
「ピノ。彼女を傷つけない程度に。ただあの人にバレない様に」
「了解です。」
僕はピノに小声で話しかけた。
ピノもわかっている様で、小さく頷き戦闘の構えをとる。
サキュバスである彼女の方も、こちらの動きから察してくれたらしく、動揺を押し隠した。
「では参りますわ。」
「どうぞ」
ピノとサキュバスは短く挨拶を交わすと、その場から動く。
まずはサキュバスの方から、雷撃が飛んでくる。それをピノは潜るように避け、サキュバスとの間合いを詰める。サキュバスも雷撃は囮のようで、次はピノの足下から土の杭を飛び立たせた。
ピノはそれを、なんと拳を地面に放つことで破る。サキュバスが呆気に取られた瞬間を見逃さず、あっと言う間に間合いを詰め、サキュバスに拳を打ち込んだ。
サキュバスは咄嗟の判断で風の膜を生み出したが、ピノの拳はそれごと撃ち抜いた。サキュバスは吹き飛ばされ、起き上がる気配はない。
「ふぅ。終わりました」
ピノはメイド服に着いたホコリを落とし一礼する。
エバン達は信じられないものを見るかの様に、呆気に取られていた。だが、さすがは高等部。すぐ様、3人で臨戦態勢に入った。いつの間にか他の2人の横には、なんらかの植物だろうか、地面から蔦が蠢いていたり、空中に水の玉が浮いていて、その中に獰猛そうな魚が泳いでいた。
「中等部にやられたとなったら卒業に響く。おめぇらこのままで済むと思うなよ」
「あぁ、エバンがやられて見て見ぬフリはできねー」
「悪いな、編入生。ここまでするつもりはなかったんだが、しばらくは病院生活だぜ。」
あぁ、別に言い触らすつもりもなかったんだけどなぁ。
ルーフはどんどんややこしくなる今の状況に頭を抱えていた。
だが、更に事態は刻々と変わっていく。
筆が進んで長くなりそうなので切りました。
可能なら今夜続き上げます。