1-1
『むかしむかし、世界は平和でした。人々は何の脅威もなく、日々を暮らしていたのです。しかし、ある時世界に異種族が現れ始めます。それらは好き勝手に暴れたりして人々を困らせました。それを憂いた神は異種族達の住む異世界へと赴き、異世界の王達に止めるように言いました。感銘を受けた王達は、神に謝罪しました。神は慈悲深くそれを赦し、あまつさえ贖罪の許可も与えました。それにより、世界で暴れる【魔種】から人々を守る為【召喚従士】と呼ばれる英雄が神により生まれたのです。神を讃えましょう。神を敬いましょう。神を…』
「ふむ、やはり宗教と言うのは金になるらしい」
とある屋敷、壁一面に本と本棚が並ぶ書斎にて、なかなか意匠の凝った机と何の動物かわからないが、黒く艶のある革の椅子に座り、少年が足を組みながら本を読んでいた。
その少年の手元には表紙が革張り、更には題名は金糸である。
ちなみに題名は『聖書』とある。
「さすが世界の3分の1を占める宗教の事はあるな。聖書1つとってもこの豪華さだ。さぞやお布施がたんまりあるのだろう」
少年はそう呟きながら本を机に置く。
少年は12か13くらいの歳で、髪は金髪。肌は透き通った白で顔立ちは中性的だ。
彼は机の上にあるハンドベルを鳴らす。すると程なく1人の少女が現れた。
「お呼びでしょうか?ルーフ様」
少女はメイド服を着てルーフと呼んだ少年の前まで歩み寄ると、臣下の礼を取る。
少女もまた、12、13くらいの歳に見え髪は黒髪、肌は褐色で少年と比べ何処か異国情緒ある感じだ。
「あぁ、ピノ。僕はやはり従士都市に行こうと思う。ここは安全だけど退屈なんだ。」
ルーフは僅かに憂いながらも笑う。
「良いのではないでしょうか。あの方達も、ルーフ様の身を案じてのこと無理強いはしないと思われます。それに私がついておりますれば万が一はございません。」
そうピノと呼ばれた少女は少し嬉しそうに、少々起伏の出て来た胸を叩く。
「じゃあピノの方から彼等には連絡しといてくれ。僕は出発の準備をしてくるから」
「準備なら私が…」
「大丈夫だよ。個人的に持っていきたい物を中心にやっておく、身の周りの物とかは任せるから」
ピノはルーフの世話をするのが好きらしい。ルーフとしてはピノを使用人扱いはしたくないのだが、ピノが望むなら好きにしている。
「かしこまりました。では、あの方達への連絡を送り次第、準備に取り掛からせて頂きます。」
そうピノは言うと、ステップを踏みかねんかぎりにウキウキした表情のまま部屋を出て行った。
残されたルーフは、ピノのそんな姿に笑みを浮かべ従士都市イザベルへの準備に取り掛かるのであった。