脩平、ハッタリをかます
鴉の獣人であり第1試験の試験監督を担当しているギャンシャッドが先導する形をとってほかの受験者と共に、列をなし向かっている時僕の脳裏に不安が過っていた。伝えられていなかった採点と基準が不明確であることだ、ひょっとしたらこの移動中から採点は始まっているのかもしれないのではと。この段階で既に焦燥感に煽られていた、他の受験者がどういった得物を選んだのか把握出来ていないのもある。
なぜ把握出来ていないのかと言うと、移動中の通路が暗いのだ。ギャンシャッドが照らしているカンテラの薄明かりのみが頼りで、うっすらと影と形が把握出来ている程度でしかない。
ギャンシャッドさんはいきなり立ち止まって 僕らの方を向いてこう言った
「申し訳ございません、あの…試験会場の鍵を忘れたので取りに行かせて頂きますよ、補助の者にカンテラを渡すのでここで皆さんこの場で待機していただきます。よろしいですか?失礼っ!!」
ギャンシャッドは小さくジャンプをして翼を開いた時に大きい音が鳴って飛行を開始した。軽く風が起こって飛ばされかねないと思った。
受験者全員がその様子に呆気に取られていた時に、補助のカンテラを持つ者が気を利かせてこんな事を言い出した
「えー、未来の異戦司書になるかならないか分からない皆さん、よく聞いといてねぇ、みんな、喋ろ?暗い通路でボーッと待機すんのしんどくないかぁ?」
補助の者は口やかましい案内と門番をしていたあいつだった。この状況で知ってるやつが1人でも居ることが嬉しい。そしてこいつのこのサービスは活かさない手はないのだ。さぁ、情報収集に力を入れるとするとしよう。
だが喋ろうと言われてもだこういう時に先陣を切って、気さくに自己紹介ができるほどの胆力は僕は有していない。困ったものである。何を言うか考えていた時だった。流れに乗るのが上手い奴ってのはいる者で、開口一番、そいつは案を提示し流れを攫った。
「自己紹介していこうや、順番は問わない、誰も行かねぇならまずは俺から。不忍 義陽、血液型はAプラス、よろしく」
流れをモノにしたやつの名は不忍義陽、見た目は刃物のような鋭い目付きをしていて、真っ赤な髪色で髪型はオールバック、ラグビー選手とかを思わせるようながっしりとした体つきをしている。喋り方からしてもかなり自分に自信があるタイプの人間なのが伝わってくる 手強い相手になりそうである。
「じゃあ、次は私から行きますね茶野原明水と申します。不忍さんも血液型仰ってたので一応私も、O型のマイナスです。みなさんよろしくお願いします」
流れに続いたのは茶野原明水、見た目はどこにでもいる女子高生と言った感じだ。髪型はミディアムショートで、少し薄い茶色に染っている。身長は160の手前。華奢な体型をしていて非力な感じがする。
さて、次は僕がと思いきや、バサバサと高度を下げながらギャンシャッドが戻ってきたのだ。僕の事なんて誰も分かりやしないのだ。手詰まりである。これで魔獣と戦う準備は終わったてしまった。二重の意味で
「さぁ、皆様、お待たせ致しました。私のミスのせいで皆様のお時間を奪ってしまい、申し訳ございません。移動をはやく済ませてしまいましょう」
スムーズに列を直し、カンテラをお喋り門番くんからギャンシャッドへのリレーが済み 僕らは移動を再開した。五分ほど歩いてすぐの事だった、ギャンシャッドが行進を止めるよう僕らに促してきたのだ。
「皆さん、ここで止まってください。ここが一次試験の会場の門となります。今から解錠をします。ただ開くまで時間がかかるので皆さんに配布物をお配りします」
何故ここで配るのかも分からないがおそらく試験を有利に進めるものに違いはないはず、ただ使い方次第だろうが。どんな物でも今は貰えるだけ嬉しい。受け取っておこう。するとギャンシャッド達が配布物を配りに来たのだ。
「こちら、配布物の方になりますね。お受け取りのサインをお願い致します」
「はい、受け取りのサイン書きますね。今渡して大丈夫ですか?」
僕はサインを済ませて紙を渡したら1個の箱を受け取り、それを開けた。頼む回復薬とかであってくれと願いつつゆっくりと箱を開ける
「えっ…箱の中身これ、本じゃんか…使い道がなさそうとも言いきれないな」
本の運用について考えている時だった、扉が開く音がしてからだった。ギャンシャッドがこう言い放った。
「皆さん、もう配布物の方は受け取りになりましたでしょうか?、無い方はいませんね?扉がただいま開きましたよ。待ちに待った1次試験の開始になります。皆さん、もう会場の方に向かってください。」
門から先を進んだ先の眼前に広がる景色は、闘技場のような場所だった。
「やっちまえ!」
「賭けた金の分の働きはしっかりしろよ」
観衆からの物騒なセリフが飛び交うのを止めさせようと、僕が観客席に向かおうとした時、ギャンシャッドが僕に声をかけてきた。
「斧手様、そのような雑務は私共にお任せ下さい。受験者の皆様の負担を減らすのも我々の職務ですので」
ギャンシャッドは僕に静止するよう促すと観客席めがけて飛行を開始し、観衆を落ち着かせその場をギャンシャッドが制していた。
「さぁ、観衆の皆さんが静まったところでね、第1次試験を開始致したいと思います!!」
唐突な開始宣言に呆気に取られるしか無かった、だが呆気に取られてるこの時、予期せぬ自体は起こりうるもので。大量の魔獣が現れたのだ。
「ウラァァァァ」
策を用いず特攻を仕掛けて行ったのは義陽だった。彼奴は本気で対等にやりあえると思ったようだ。怖いもの知らずも程々にして欲しいのである。
義陽とは逆に怯える者も居た。むしろこれが正しい反応である。
「どうしよう…戦いたくない…無理…無理」
動けずにいる誰かは分からない子は震えていて、泣きそうな声を出したまま固まっていた。そんな時だった猪のような形をした魔獣が突っ込んできて居た瞬間 何故だか分からないけど体が動いていた。それに付け加え、何故かその人の手を引いて走っていた
「えっ、何するんですか?!」
当然の反応だろう、誰とも知らない奴にいきなり手を引かれて居るのだから。こうでもしないとおそらくこの人は命を落としていただろう。
「突然で申し訳ないです、こうでもしないと君が死ぬと思ったんだ。いきなりついでというか不躾で申し訳ないけど僕はこの状況を打破できる策がある。君の力がその策に必要なんだ、力を貸してほしい」
いい返事を期待できないのはわかってる。だがやらなきゃいけないのは変わらない。
「はい分かりました、私で良ければ力を貸します…あなたは悪い人ではなさそうなので」
思いがけない返事に僕は言葉が出なかった。