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全滅

 無数に倒れているプレイヤー達を踏まないように跨ぎながら、ゴレゴスの住む洞穴の入り口の前に立つ。


「行きますよ。準備はよろしいですか?」


 ゆきむらさんが相変わらず穏やかな声でみんなにそう尋ねた。準備と言われても敵がどのような攻撃をしてくるのかも分からないので準備のしようがない。返事は全員イエス。


 暗い洞穴を進んでいく。中はひんやりとしていて湿っぽい。少し進むと中には松明があったので真っ暗な中で戦うことは無さそう。アリサちゃんはモンスターが出てこないか周りをキョロキョロと見まわして警戒している。怖がっているアリサちゃんも可愛いなあ、って思えるほど余裕がないのが現状である。パーティメンバーはすっかり緊張からか会話も無くなっていて、俺も嫌な汗が溢れ出してきている。


 少し進むと大きな広間のような場所に出た。奥には昔に使われていたような牢屋が見えて、中にはマリンちゃんが囚われているのが見えた。


「今助けるぞ!マリンちゃん!」


 マグナムさんがそう叫んで牢屋の方へと駆けていく。マグナムさんって意外とキャラになりきってプレイするタイプなのか…?この人はどうもアバターの見た目と性格が合っていないように思える。


「マグナムさん危ない!」


 ゆきむらさんが叫んで、マグナムさんはハッとする。暗くて見えなかったが、天井からまさに今、ゴレゴスがマグナムさんに向かって飛びかかってきた。だが、間一髪。マグナムさんは後ろへ飛び退いて攻撃をかわした。


 戦闘開始ってわけだな。

 俺は口元を吊り上げて、剣を構える。俺に続いて、ゆきむらさんと、アリサちゃんも武器を取り出して、マグナムさんの近くに集まる。


『ギョオォォォォォォオオ!!!』

 

 ゴレゴスが甲高い雄叫びを上げた。その威圧感に尻餅をつきそうになる…けど耐える。僕は男の子だもん。

 なんとなくゴレゴスを見つめていたら、ゴレゴスの鋭く光る目が合ってしまった。ここから恋が始まるなんてことはなくて。ゴレゴスは俺に向かって勢いよく殴りかかってきた。体重を乗せた重い一撃だが、どうにか剣で受け流すことが出来た。けど…肩がびりびりと痺れてきた。ノーダメージって訳じゃないようだな。


「俺が攻撃を受けるから、ゴレゴスに攻撃をしてくれ!」


余裕の無い中、誰に言うでもなく叫ぶ。


「ファイアボール、行きますね!」


アリサちゃんになんとか伝わったようだ。後ろから火球が飛んで来てゴレゴスの顔に直撃する。うわ、熱そう。


「やった!」


 アリサちゃんが後ろから叫ぶ。ナイス魔法!これに怒ったのかゴレゴスはアリサちゃんの方に目線を動かした。攻撃対象変更ってことだな。だが、そうはさせない。俺はゴレゴスの前に立ちふさがる。


「行かせねえよ!」


 しかし俺一人の壁では横にすり抜けられてしまうくらい頼りない。ゆきむらさんとマグナムさんを呼ぼう。


「ゆきむらさんと、マグナムさんも壁をお願いします!」


「分かりました!」


 2人とも俺の横に並び、ゴレゴスの移動を妨げる。ゴレゴスは思うように動けないようで、拳をブンブンと振るが、全て俺とゆきむらさんの剣に弾かれてしまう。その隙にアリサちゃんの魔法が連発する。型に嵌ってきたな、この調子…!


 何度もゴレゴスの顔に火球を当てた続けたためか、ゴレゴスの顔からは煙が上がってきている。ゴレゴスの動きにも疲れが見え始めてきて、もう体力の半分は削り切ったんじゃないかな。なんて思い始めてきたころ、アリサちゃんの魔法が途端に途絶えてしまった。


「アリサちゃん、どうしたの?」


攻撃を受け流すことに精一杯で、後ろを確認することができない。一体なにが起こっているんだ。


「実は…、MP切れで魔法が使えないんですぅー!」


 アリサちゃんが泣きそうな声で叫ぶ。

 おいおい、マジかよ。魔法を大量に連発したためか、魔力を使い切ってしまったようだ。くそう。ゴレゴスの攻撃は今も途絶えることなく続いているため、これでは攻撃するチャンスがない。このままではいつまで経っても倒すことが出来ないぞ…。


「スカイさん、すいません。僕、体力がそろそろまずいので後ろに行って薬草使ってきてもいいですか!」


 剣で攻撃を弾きながらゆきむらさんがそう訊いてきた。直撃をなんとか避けているとはいえ、じりじりとHPゲージは減ってきている。1人で攻撃を受け流すのは厳しいけど、このまま一人戦闘不能になってしまってはかなり不利な戦況になってしまう。ええい仕方がない。いってこーい。俺はゆきむらさんにOKサインを出す。


 ゆきむらさんは後ろに下がったので、俺がマグナムさんの分も剣で攻撃をガードして代わりにダメージを受ける。この猛攻撃を一人でこれ以上耐えるのは無理だ…。そんな俺の心境を察してくれたのか、


「僕が少しの間囮になります!」


 マグナムさんがそう言って壁を抜け、横からゴレゴスに殴りかかる。ゴレゴスの攻撃が一度止むと、今度は攻撃対象をマグナムさんに切り替えたようだ。防御手段を持たないマグナムさんは、逃げ回ることしか出来ず、追いかけっこをするような格好になる。


「今のうちに俺も回復しておくか。マグナムさん頑張ってくれ…!」


 道具袋から薬草をいくつか取りだして使用する。このままではジリ貧だ。多少無理をしてでも攻撃に回った方がいいだろう。


「みんな、このままじゃ勝てない!全員で攻撃を仕掛けて自分の体力が減ったらそれぞれ離脱して薬草で回復するようにしよう!」


 「分かった!」


 3人の声が聞こえた。全員一致だな。俺はスキル〔かまいたち〕を使い、ゴレゴスをマグナムさんから俺に注意を引き付けた。

 思った通り、ゴレゴスは俺の方へと勢いよく向かってくる。なんとかそのゴレゴスの攻撃を剣で受け止めるが思った以上の力に、吹き飛ばされてしまう。まずい。そう思ったが、ちょうど俺と入れ違いになるように3人が前に出て来てくれた。


「グッジョブだ!みんな!」


 そのうちに俺は後方へ下がって薬草で回復する。

 3人はゴレゴスに手で払われながらも攻撃をしてくれている。アリサちゃんはもう魔法を使うことが出来ないので、目を瞑りながら杖でポカポカと叩きまくっていた。…あれでダメージは入っているのだろうか。


 回復が完了し、俺も前線に出て攻撃に加わる。あとはこれで押し切るしかない…!そう思いながらゴレゴスに何度か斬りかかっていると、突然ゴレゴスの動きが止まった。

 ついに倒したのか? そう思った瞬間、ゴレゴスは大きく胸を膨らませてきた。


「なんだ…これは…」


 他のみんなも異常に気が付いたらしく、攻撃する手も止まってしまっている。

 …と次の瞬間、ゴレゴスの口から大量の炎が吐き出してきた。


「きゃあああああぁ!」


 アリサちゃんの甲高い悲鳴が響く。全身が焼けるような感覚。これはハネブタの魔法の時とは比較にならない熱さだ…!


 正面に居たせいでゴレゴスのブレスは見事に全員に直撃し、その威力から俺の体はかなり後ろまで吹き飛ばされていた。ゴレゴスが放った一回のブレスだけですっかり戦況はひっくり返ってしまった。

 HPバーを瞬時に確認する。まだHPは全員僅かに残っている。だが、体勢が崩れてしまっている。回復をしている暇はない。どうすればいいんだ…。


 アリサちゃんが特に重症だったらしく、慌てながら薬草を取り出して回復しようとしていた。そこにゴレゴスがすかさず追い打ちをかけようと飛び掛かる。


「アリサちゃん!危ない!」


 声の限り叫ぶが、間に合わない。ゴレゴスはその拳で地面ごと粉砕する。アリサちゃんのただでさえ少ないHPバーがみるみる減って行き0になった。


 続いてゴレゴスがゆきむらさんを見つめる。それは死刑宣告も等しいだろう。ゆきむらさんは立ち上がる力もないのか呆然としている。俺はその光景を直視出来ずに、目を逸らしてしまう。鈍い音を2回ほど聴きながら。俺はただ仲間のHPバーが0になるのを眺めることしか出来なかった。


 残ったのは俺とマグナムさんだけ。はっきり言って状況は絶望的だ。洞穴の前に死体の山が出来ていた理由も納得出来るなこりゃ…。


「スカイさん、僕が足止めするので後ろで回復をしてください!」


 その声は震えている。マグナムさんが最後のあがきとして、ゴレゴスに掴みかかる。マグナムさんはまだ諦めてはいないようだ。


「マグナムさん、無理だよ。諦めよう」


「何言ってるんですか…!ここまで来て…あと少しなんですよ!さあ今の内に回復を!」


 俺も出来るならそうしたかった。…でも無いんだよ、薬草が…。

 道具袋に手を突っ込んでも、使える回復アイテムは毒消し草だけ。残念だけどこれにはHPの回復効果はない。


 ドサッと地面に大きな何かが倒れる音が聞こえる。それがマグナムさんだということは確認するまでもなく理解出来た。


 感じるのは俺に向けられた殺意だけ。凄まじい勢いで迫ってくる黒い影。それが最後に見えた光景だった。


そして、俺たちは全滅した。


タイトルを変更するかもしれないのでブックマークをお勧めします。

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