パーティメンバー
《クレーア村 村長の家》
「はい。俺がマリンの様子を見に行ったら、ちょうど悪魔のようなモンスターに連れて行かれているところでした」
『なにっ!? ワシの可愛いマリンが連れて行かれた?』
俺は今、村長の家に戻り、先ほど起こった出来事をありのまま伝えているところだ。
「心中お察しします。それで、言われた通り様子を見てきたので、約束のワープリングを頂きたいのですが…」
『それどころではないわ! ああ…、ワシの可愛いマリン…』
そう言って村長は顔を手で覆い、泣いているような動作を見せる。ある程度予想はしていたけど、様子を見てきただけでは貰えないようだ。まあそうだよね。きっとその悪魔のモンスターを倒して、マリンを救うまでがセットなのだろう。
「そのモンスターについてなんか知っていることは無いですか?」
『きっとその悪魔のモンスターは、この近くに住む魔王の眷属、ゴレゴスじゃ!』
「ゴレゴスですか。俺がそのモンスターを倒してマリンさんを助けて来ましょうか?」
『それはまことか! そなただけが頼みの綱じゃ。もし助けて来てくれたらあのワープリングをそなたに譲ろう』
やっぱりな。きっとこれが最初のボスになるのだろう。面倒だが、こちらも早くワープリングが欲しいので、サクッと倒してきますかね。
『ゴレゴスの住処は、村を出て西をずっと進んだところにある洞穴じゃ。気を付けてな』
「それはどうも。じゃあ、行ってきますね」
村長に手を振り、家から出る。いよいよボス戦だ。レベルが6まで上がったとはいえ、一人で挑むような無謀なことはしない。ゴレゴスの強さがどれほどのものかは分からない。ここはパーティを組んで挑むのが得策だろう。村の出入り口へと向かい、一緒に行ける仲間がいないか探してみることにした。
「ストーリーのボス、ゴレゴスの討伐に行く方募集です!」
不意に耳に飛び込んできたこの募集文句。なんというタイムリー。ラッキー。俺はついているぜ!その募集に参加するべく、急いで声のした方へと向かう。
募集をしていたのは、ゆきむらという名前のグレーの髪をした穏やかそうな男性だった。その髪はロン毛で後から見たら女性と間違えるんじゃないかってくらい長かった。
「ちょうど、俺もゴレゴス討伐に行くところだったんだ。良かったら参加させてほしい」
「参加ありがとうございます。パーティにお誘いしてもよろしいですか?」
「ああ、頼む」
丁寧な物言いのゆきむらさんは、そう言ってメニューコマンドを開く動作をしていた。しばらくして、パーティに加入しますか?というダイアログが目の前に表示されたので承認する。誘われるとこんな感じなんだ、なんて感心する。
ゆきむらさんの職業は俺と同じく戦士でレベルは2。武器は木の剣を装備しており、防具は、革鎧を着ていたのだが、下の方は村人のズボンのままだった。
恐らく、武器と防具をバランスよく買い揃えようとしたけれど、お金が足りなくてズボンを買うことが出来なかったのだろう。アンバランス。はっきり言ってダサい…。例えるなら、上はビシッとしたスーツを着ているのに、下はダボダボのジャージを履いている、そんな感じ。
そんなゆきむらさんが、よろしくお願いしますと言ってきたので、俺もよろしくって返す。
「あと2人集まるまで、少々お待ちくださいね」
そう言ってゆきむらさんは、再び募集を始めた。1つのパーティで組むことが出来る人数は4人が限界のようだ。単純にソロの戦力が4倍になるのだからどれだけ戦闘が楽になるだろうか。そんなことを思っていたらHPバーが3つに増えたのが見えた。
「よろしくお願いしまーす。魔法使いのアリサです」
アリサという女の子がパーティに加入したようだ。彼女はピンク色の髪のショートボブで、白いローブに木の杖を背中に背負っている。これは…割とタイプかも。レベルは1のままで、レベル上げはせずに、すぐにストーリーを始めたのかな。
魔法使いということはリーシャさんの使うような魔法を使って戦うってことだよな…。これは期待出来そうだ。
続いて、マグナムという名前の大男がパーティに加入した。黒髪の短髪で男というよりも漢という見た目をしている。
押忍!なんて挨拶をするのかなって思っていたけど、予想は外れて、よろしくお願いしますっていう普通の挨拶だった。
彼の職業は見た目通り格闘家で、レベルは4。俺の次にレベルが高い。武器はトゲの付いたグローブを装備している。防具は村人の服のままだった。この人も防具よりも武器に全力でお金を使うタイプなんだな、と少し親近感を覚えてしまう。
「4人揃いましたね。僕はゆきむらと言います。3日前に始めました。改めてよろしくお願いいたします」
ゆきむらさんがそう言うと順番に自己紹介が始まった。
「私は魔法使いのアリサです! 昨日から始めていたんですけど、迷子になったり、敵が強くてあまり倒せなくって…レベルが1のままなんです。でも、精一杯頑張るのでお願いします!」
「僕はマグナムと言います。4日前から始めてずっとソロでやってきました。攻撃は自信があるので任せてください」
屈強なマグナムさんの一人称が“僕”なのが全然見た目と合っていなくて笑いそうになってしまう。…っと残るのは俺だけか。
「俺はスカイって言います。昨日から始めました。ゴレゴス、絶対に倒しましょう!」
そう言うと、パーティのみんながグーの片手を上げて「おー!」と声を上げる。みんな良さそうな人で良かった。
「では、早速ゴレゴスの住処に向かいましょう。頼りないかもしれませんが、リーダーの私が先頭になりますね」
はーいと返事をして、村から発ち、ゆきむらさんの後ろにぞろぞろと続いて行く。ボス戦を控えているので雑魚モンスターとの戦闘は避けてHPやMPを温存しておくということで一致した。
「スカイさん。始めたの昨日なのに、レベル高くてすごいなあ」
移動しながらマグナムさんが俺に話しかけてきた。俺がそうでもないですよ、と返事をしようとしたら、ゆきむらさんもそう思っていたのかすぐに会話に入ってくる。
「本当すごいですよね。剣も強そうなの持っていますし、同じ戦士として憧れてしまいます」
「レベル6とか未知の世界だよぉ。私も早く強くなりたいなあ」
アリサちゃんも、羨ましそうな顔で会話に入ってきた。なんだか皆にそう言われると照れ臭くなってしまう。でも現実世界でこんな風に羨ましがられたことはあまりないのでとても嬉しい。
「へへ、実は昨日、レベル26の人にレベル上げを手伝ってもらったんですよ」
照れ臭そうにそう言うと、レベル26というのに驚いたのか、パーティ内にどよめきが走る。他の人からしても26レベルというのはかなり高い部類らしい。リーシャさん、あんたって人はすげえよ。
目的地に向かいながらの道のりは、レベルが上がりづらいだの、お金が貯まらねーといったDOMの愚痴や、ゆきむらさんの恰好ダサくね?とか色んな話題で、すっかりパーティメンバーは打ち解け、会話は盛り上がっていた。かなり歩いたはずだけれど、こんなに楽しい会話が続くなら全然苦じゃない。むしろもっと話していたいくらいだ。
「ゴレゴスの住処の洞穴が見えてきました」
突然のゆきむらさんの言葉で、パーティ内に緊張感が走る。青かった空も、いつの間にか雲に覆われていて不穏な空気が漂っている。いよいよボスバトルだな…。握る手に汗が滲んてくる。
洞窟の前に着くと、そこには沢山のプレイヤーがうめき声を上げながら倒れていた。
「これは…一体…」
マグナムさんが呟く。アリサちゃんも驚きからか両手で口を覆っている。
みんな気づいているだろう。
ここに倒れている人たちは、ゴレゴスに挑み、全滅したプレイヤー達なのだと。