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アドバンテージ

 クレーア村周辺のモンスターをひたすら倒し、体力が減ってきたら宿に泊まり回復する。そして村の周辺でまた狩りを始める。これを繰り返してどれだけ時間がたっただろう。月は頭のちょうど真上くらいまで昇っている。戦闘のコツもそろそろ掴めてきたかなって思い始めた頃、お金はいつの間にか80ヴィルに達していた。結構戦ったなあ、かなり成長したんじゃないかな、と思いワクワクしながらレベルを確認してみるとレベルはまだ2。がっくりとうなだれる。どうやらこのゲーム、お金が貯まりづらいだけではなく、レベルも上がりづらいらしい。


 これはきっと、ディサピアランス・オブ・メモリーを長続きさせるためなのだろう。運営の魂胆が見え見えで、苦笑いがでてしまう。幸い、課金要素は無いため、リアルマネーの力によって差が付くということはない。逆に言えば時間さえあればその分キャラクターのレベル上げに使えるので、このゲームに時間を多く割ける人は有利な状況となる。このゲームの年齢層は分からないけれど、部活も引退して、比較的時間に余裕がある学生の俺は、かなり有利に進められるのではないだろうか。近いうちに最強のプレイヤーとして頼られたりして。なんて妄想をしている自分が、にやけ顔になっていることに気付いた。


 モンスターを沢山殴り倒して稼いだ80ヴィルを握りしめ、よろず屋へと向かう。もちろん、憧れのロングソードを買うためだ。店へ向かう足取りも軽い。


『へい、らっしゃい。何が必要なんだい?』


前にも聞いた決まり文句で、活気よく声を掛けてくる店主のおっさん。言うことは決まっている。


「ロングソードを売ってくれ。金ならあるぜ!」


テーブルの上にジャラジャラと総額80ヴィルの硬貨を置いていく。おっさんはそのお金を確認すると、店に飾ってあるロングソードを持ってくる。


『ほらよ、持っていけ!装備しておくのを忘れるんじゃないぞ!』


 剣を受け取る。長さがあるせいか、棍棒よりもずっしりとしていて重い。でも手に馴染むこの感覚。そうそう、やっぱりこれなんだよな。すっかり満足した気分になった俺は、言われた通り、メニューコマンドからしっかりと装備しておく。レベルが上がったわけでもないのに、なんだか強くなった気分。


 村ですれ違う冒険者はまだ棍棒や、木の棒みたいな初期武器を装備している者が多く、すっかり俺は優越感に浸っていた。俺はそこらのプレイヤーとは違いますよっと。村を歩く俺の顔はまたしてもにやけ顔にやってしまう。


「そろそろ他のプレイヤーとパーティ組んでみるのもいいかもしれないな」


 なんだか自信も沸いてきた。流石に他人の募集に参加するほど自信があるわけではないので、俺が主体となって呼び込みをしてみよう。そうしよう。そうと決まれば、村の出入り口に行くのがよろしい。買ったばかりのロングソードを見せびらかすようにして、村の出口へ向かう。


「俺とパーティ組みませんかー?」


 大きな声で何度か精一杯叫んでみるけれど、他の人の募集の声に掻き消されてしまう。目の前にいた人も聞こえないふりをしているのか何処かへ行ってしまった。歓楽街で呼び込みをする人もこんな気持ちなのだろうか。そう思いながら肩を落とす。やっぱりもうちょっと強くなってからじゃないとダメなのかしらん。そう思っていたら…。


「はいはい、パーティ組みたいでーす!」


 鮮やかな青い髪をセンターで分けているお姉さんが元気そうに俺に声を掛けてきた。名前は“リーシャ”と書いてある。声を掛けてくれるなんて思ってもいなかったので、驚きに声がすぐに出てこない。それよりも驚いたのが、彼女の装備している服がここら辺では見たことのない、紺色のチュニックの装備。かっこいいなあ。俺も強くなったらこんな装備が手に入るのかなあ、なんて見とれている場合じゃない。早く返事をしなければ。


「は、はい!よろしくお願いします!」


 緊張から、つい敬語になってしまう。パーティに誘うにはメニューコマンドを開くんだよな…。手間取りながらいじってみると、周りにいるプレイヤーのステータスをここから見ることが出来ることに気が付いた。せっかくだし覗いてみよう。どうやら、彼女の職業は盗賊でレベルは26だった。さらに、肩書きというものがあるらしく、彼女は【漆黒の暗殺者】というものだった。こんなシステムもあるんだな。なんて、関心しながら眺めていた。一通り見終わって、彼女のステータス欄を手で触れるとパーティに誘うことが出来た。

 しばらくして、視界の端にHPバーが俺の他にもう1つ現れた。なるほど、パーティを組んでいる相手の状態を常に確認出来る訳ね。パーティプレイは状況によって回復してあげたり、代わりに攻撃を受けたり臨機応変な対応が必要になるということか。


「よろしくね、スカイくん!」


 彼女が握手を求めてきたので、こちらこそ、と手を差し出す。暖かな手をしていた。


「えっと、レベル上げっていうことでいいのかな?」


 お姉さんが声を掛けてくる。やばい。初めてのパーティプレイ、緊張する。それにしても何故こんなにもレベル差がある俺に声を掛けてきてくれたのだろうか。俺と同じくらいの強さの人と組むことになると思っていたのに。こんなの気を遣わずにはいられないって。


「は、はい。あまりお役に立てないかもしれませんが」


「そんなの気にしないでいいって。楽しもうよ。あ、君のその剣に合っているよ」


 気の良さそうな彼女は微笑みながら、俺の自慢のロングソードを褒めてくれた。つい嬉しくなってしまう。いつものように、村の周辺にいる毛皮に包まれたモンスターを倒しにいきましょう、と言おうとしたら。


「ここらへんでレベル上げするならいいスポット知っているんだ。着いてきて」


 リーシャさんが俺の手を握ってきた。村を飛び出して、手を引きながら案内してくれる。ここらへんはまだ未知の領域だ。どんなモンスターがいるのか分からない。期待と不安を胸に、大きな草が生い茂るフィールドを2人で駆け抜けていく。途中、他のプレイヤーが見たこともない猫のモンスターと戦っているのが見えたが、ここでもないようで、更にその先へどんどん進んでいく。人の姿も見えなくなって来た頃、彼女が口を開いた。


「この先だよ、ターゲットはハネブタってやつ。物理攻撃自体は大したことないけど、魔法使ってくるから気を付けてね」


 一体どう気を付ければいいのさ!心の中でツッコミを入れる。物理攻撃なら敵の動きに合わせれば躱すことも出来るだろうけど、魔法は体験したことがないから分からない。不安感を胸に、木々を掻き分け進んでいく。開けたところに出る。目の前にはまさに文字通り、羽根の生えた可愛らしいブタのモンスターがプカプカと飛んでいた。敵はこちらに気付いている様子は無い。


「いくよ、準備はいい?」


彼女はこちらを振り返り、赤い刀身をした短刀を構えながら訊いてくる。


「オーケーです!」


 こちらも買ったばかりのロングソードを構えて答える。すると、彼女はハネブタの後ろから、音を消して忍び寄る。刹那短刀を素早く一閃させる。見事にハネブタのお尻に突き刺さり、ハネブタは驚いたのか身をひるがえしてこちらに飛んでくる。


「そっち行った!」


 振り返りながらリーシャさんが叫ぶ。プカプカと空中を飛び、俺の方へと向かってくるハネブタ。俺はバドミントンの要領で剣を大きく振りかぶる。切り裂くような音が響いて、ハネブタは見事に打ち返され地面にぶつかる。この感触。やっぱり剣は違うなあ。


「やるじゃん!」


リーシャさんが左手でグッジョブの指を作る。俺もにっと笑みを返す。地面に打ち付けられたハネブタは怒ったのか、再び浮かびながらプルプルと震え出した。


「ハネブタの魔法がくるよ!」


「ええっ、どうすればいいんですか!」


 戸惑っていると急に俺の後ろで何かが弾けた。そう気づいた瞬間、俺は爆風に吹っ飛ばされていた。灼けるような感触を背中で感じる。これが魔法か。くそう。全然予想出来なかったな。俺のHPゲージはこの一撃で半分を切ってしまった。


「大丈夫?」そう言いながらリーシャさんはすかさず、薬草を使ってくれた。リーシャさんは当たらなかったのかな。回避方法を知っているなら事前に教えてくれても良かったのに。


 ハネブタを見てみると、魔法を使って消耗しているのか、疲弊しているように見える。これはチャンスだ。


「よっし、反撃いっちゃって!」


「はい!」


 俺は剣を握り、地面を思い切り蹴って飛びかかる。振るった剣先は弧を描き、ハネブタの身を切り裂く。ブギャーなんて声をだしながら、ハネブタは地面を転がる。なんだか少しかわいそうに思えてきた。でも俺は戦士なんだ。血に飢えた非情の戦士。自分にそう言い聞かせる。そんな俺の目が相当ヤバかったのか、身の危険を感じたハネブタは最後の力を振り絞り、小さな羽根をバタつかせ、逃げ出そうとしていた。


 いけない。ここまで来て逃げられてたまるか!間合いを詰めようと、再び地面を蹴ろうとした瞬間。


 何かが地面を這ったかと思うと、ハネブタの下の地面が突然、鋭い槍のように盛り上がり、ハネブタ身を貫いた。


 しばらくして、槍のようになった大地がぼろぼろと崩れていくのと同時に、ハネブタは光に包まれて消えていった。


「すごい…。今のは…?」


 俺は目を真ん丸にしていたんだと思う。初めて見る魔法に衝撃を隠せない。


「盗賊専用魔法よ、グランドスピアって言うの」


 リーシャさんが赤い短刀をしまいながら答える。彼女は少しも息が乱れていない。それに対して俺はぜえぜえと息が乱れている。これがレベル差ですかね。


 彼女の持つ短刀が月の光を反射し、刀身が妖しい赤色にギラギラと輝いていた。まるで俺を闇の世界へと誘惑するような魔力を感じる。ああ、中二心が疼く武器だぜ。


 月の逆光を浴びるリーシャさんの青い髪は風になびき、とても艶めかしく見える。彼女の素早い短刀を使った攻撃や、鋭いその魔法が頭から離れない。


【16の経験値 6ヴィルを獲得】


 戦闘のリザルト画面が出てきた。後に聞くと、彼女は発売日にDOMを始めたらしい。


 5日。それがどれだけのアドバンテージになるのか。彼女の強さを見て思い知らされた。


 いいや、たった5日でこれだけ強くなれるってことだ。


 俺もこんなクールなプレイヤーになってやる。密かに、心にそう決意した。

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