キャラクターメイキング
最初から期間が少しあいてしまいましたが2話目です。次もなるべく近いうちに上げたいと思っています。
VRマシンの入った袋を手にぶら提げ、家へ向かう。このゲームを買った後のワクワク感がとても大好きなんだよね。VRゲームってどんな感じだろうなとか色々妄想していると、袋の重さなんて忘れてつい急ぎ歩きになってしまう。
家に着いたのは夕焼けも見えなくなりそうな午後6時半だった。薄暗くなった自分の部屋にあるベッドに横たわり、VRヘッドセットを頭に装着する。心臓がバクバクといっている。ついにこの時が来たんだな…。
俺はいまからファンタジーの世界に旅立ちます!胸の中でそう宣言する。そういえば家には誰もいないんだっけ。じゃあ遠慮する必要はない。今度は声に出して宣言する。
「俺は今からファンタジーの世界に旅立ちます!」
実際に声に出して言うと痛々しくて恥ずかしくなって来た。そんな現実から逃れようと、ヘッドセットのスイッチを入れる。
最初に映し出されたのはハードのメーカーロゴだ。続いてVRヘッドセットを使用するにあたっての注意と利用規約のようなものがずらずらと出てきた。こんなのまともに読む人なんている訳ねーじゃんとか思いながら“同意します”を選択する。あれ?選択ってどうやってやるんだ?
この時、自分は既にゲームの世界に入り込んでいることを実感させられた。なぜなら選択ボタンなど何処にも無く、”同意する”と念じただけで同意したことになったからだ。
「まじかよ…。科学のちからってすげー!」
科学の進歩に感動しつつ、次の段階へと進める。オンラインで遊ぶにはゲームアカウントの作成が必要なようで、生年月日や住所の入力など面倒なものが要求されるが、これらも念じるだけで入力されるのだからすごい。
そういえば聞いたことがある。VRヘッドセットを装着することで脳からの命令を体にするのではなく、直接このマシンに送信しているらしい。例えば、右手を動かせと脳が命令すると、現実の自分の右手は動かずに、ゲーム内の自分の右手が動くのだとか。詳しいことは分からないが、安全は保障されているようなので気にしない。
面倒な手続きを一通り済ませ、いよいよ本命の【ディサピアランス・オブ・メモリー】を起動する。すると白い光の中に文字が浮かび上がってきた。
『まずは、あなたの名前を教えてください。』
これがゲーム内で使われる名前らしい。一度決めると変更は出来ないようなので、ここは慎重に決めたい。
「名前か…」
本名を入れるのは、ちょっと無いなって思って考える。ふっとある単語が頭に浮かんできた。
“スカイ”
そう、空をそのまま英語にしただけ。なんとも単純明快。日本語を英語にするだけでかっこよくなってしまう不思議。それでいて、この世界観にも割と合っている名前じゃないかな。うん。悪くない。これで決定だ。
続いてキャラクターメイキングの画面になり、その上に文字が浮かび上がってきた。
『では次に、あなたの種族を選んでください。』
4つの種族のモデルのようなイラストが目の前に現れた。種族は人間、エルフ、ドワーフ、獣人の中から選ぶらしい。だが、こんなの最初から決まっている。ゲームの主役っていうのは人間一択だろう。だから俺は人間を選ぶ。
すると、詳細なキャラメイク画面に移った。容姿の性別、年齢、身長、体型、髪型、色、目、鼻などなど……なんと声まで変えられる!とにかく現実の自分とは全く異なる自分がこのゲームでは作り出せるって訳だ。素晴らしい。
散々悩んだ挙句、性別はもちろん男。容姿は今の自分になるべく近づけて美化した感じにした。髪の色は夜と夕暮れの間のような空の色。つまり暗い青紫。俺のお気に入りの色でもあるのだよ。ちなみに声はこんな感じ。
本当は別の種族でもキャラメイクをして遊んでみたかったのだけれど、思った以上に時間が掛かってしまった。それに早くゲームを始めたいという胸の高鳴りには逆らえない。ゲーム内の自分を決め、次の画面へと進める。
『あなたの職業を決めてください』
職業。このゲームは職業によって扱える武器やスキル、魔法が異なるらしい。最初に決めた職業から途中で別の職業にも変えることが出来るって噂も聞いたけれど、本当かどうかは分からない。どちらにしても、しばらくは最初に決めた職業でプレイすることになるのだから、自分に合ったものを選ぶのが一番良いだろう。
選べる職業は、戦士、格闘家、神官、魔法使い、吟遊詩人の5つだ。勇者って職業があるなら迷わずそれを選ぶんだけどな…。とりあえず、ファンタジー物を遊ぶときは剣を使いたいのが男の子の性。主役っぽいしね。だから選ぶのは当然“戦士”だ。
すると、再び白い光の中に文字が浮かび上がってきた。
『キャラクターメイキングが完了しました。ディサピアランス・オブ・メモリーの世界に旅立ちます。準備はよろしいですか?』
現実の自分の声とは違う俺の声で返事をする。
「ああ!」
世界は更に強い光に包まれていった。
読んでいただきありがとうございました。
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