リベンジ
再びゴレゴスの洞穴に着いた時には、空は茜色に染まっていた。
夕日の空を見ると、切ない気分になる人が多いらしい。俺もその一人なのだが、何故だかこの気分が好きだったりする。
1日の終わりを告げる空。俺もこの戦いも終わらせることが出来るだろうか。
「決着を付けよう!」
俺はすっかりリーダー気取りで先頭に立ち、再び洞穴の中へと入っていく。大広間に着くと、みんなが武器を取り出した。戦闘準備はオッケーだ。
「マグナムさん、お願いします」
「分かりました」
そう言って、マグナムさんがマリンの囚われている牢屋の方へと向かっていく。
案の定、ゴレゴスが空から攻撃を仕掛けてきた。ここで避けられるかで初動が決まる。頼むぞ、マグナムさん……!
「はッ!」
素早い身のこなしで、マグナムさんが後ろへと飛び退く。回避は成功だ。
作戦通り、俺とゆきむらさんも前に出て、アリサちゃんが安全に魔法を撃てるように壁をする。
ゴレゴスの攻撃を剣で弾きながら、じわじわとファイアボールでダメージを与えていき、体力がやばくなったら薬草で回復。このサイクルをアリサちゃんのMPが切れるまで繰り返す。ここまでの流れは順調だ。
「すみませんー! MP切れちゃいましたぁ」
本番はここからだ。全員で前に出て、ゴレゴスを囲むような形で攻撃をする。
「わかった! アリサちゃん、前に出てきて!」
叫びながら、俺とゆきむらさんとマグナムさんはそれぞれの配置に着くため移動する。
しかし、壁が無くなったゴレゴスは真っ先にアリサちゃんの方へと向かっていく。
「きゃああああ!」
「アリサちゃん!」
ゴレゴスの強烈なパンチがアリサちゃんを襲う。幸い、まだ1度も攻撃を受けていなかったので、なんとか耐えてくれた。アリサちゃんから位置が一番近い俺が薬草を使って回復してあげる。
「スカイさん、ありがとう……!」
「いいって、それよりも配置に早く着こう」
アリサちゃんの手を取り、立ち上がらせる。
「大丈夫ですか!?」
マグナムさんとゆきむらさんも、こちらに走ってくる。そのお陰ですぐに予定していたフォーメーションに着くことが出来た。
ゴレゴス包囲陣の完成だな。
「あとはひたすら攻撃だ! 体力がまずいと思ったら惜しみなく薬草を使え!」
4方向から攻撃され、ゴレゴスは誰に攻撃をすればいいのか迷っているようだ。この調子でいってくれれば……。
そう思った時。ゴレゴスがマグナムさんに向かって拳を振り下ろした。
「ぐあッ!」
マグナムさんが吹っ飛ばされる。隣に居たゆきむらさんがすかさず薬草を使ってあげようと駆け寄る、が……。
ゴレゴスが勢いよく息を吸い込み始めた。まずい。これはブレスの合図だ――。
避けることは出来ず、マグナムさんとゆきむらさんにブレスが直撃する。HPがみるみる減って行く。2人当たってしまうのは予想外だった……けど。
「アリサちゃんはマグナムさんを急いで回復してあげて! 俺はゆきむらさんを回復する!」
「わかったわ!」
急いで俺はゆきむらさんに駆け寄る。けれど、ゴレゴスがゆきむらさんに止めを刺そうと飛び掛かってきた。スピードはゴレゴスの方が早い。
「させるかよ……!」
俺は剣を伸ばし、どうにかゆきむらさんを剣で庇おうとする。届いてくれ……!
しかし、その祈りは叶わず、ゴレゴスの拳はゆきむらさんの体を貫く。HPゲージが0になってしまった。ゴレゴスが振り返ってこちらを睨んでくる。ここからは3人ってわけね。オーケーオーケー。回復が済んだようでマグナムさんも前線に復帰してくれた。
「さっきと同じく、ブレスに警戒しながら攻撃しよう!」
「はいっ!」
正面に立たないように分散しながらそれぞれ攻撃していく。単純に火力が減ってしまったというのもあるけれど、回復をカバーしてくれる人が減ってしまったのがなにより痛かった。それでも攻撃を続け、そろそろ倒れてもいいんじゃね? と思い始めた頃、今度は俺の方に向かって、再びブレス攻撃の予備動作に入った。
「あと少しで倒せそうなのに……、やられてたまるかよ!」
一か八かゴレゴスの膨らんだ口にめがけて、剣を上から振り下ろす。すると、ゴレゴスの頭が爆発した。
「グォォオオオン!」
一瞬何が起こったのか分からなかった。口の中に溜め込んだ炎が爆発したのか、ゴレゴスは断末魔をあげて倒れてしまった。
「やったのか……?」
ついフラグを立ててしまいそうなセリフを言ってしまう。これ以上戦うなんて出来ないから、倒したっていうことにしてください。お願いします運営さま!
そんな祈りが通じたのか、ゴレゴスの体は光に包まれて消え、地面には金色の鍵が落ちてあった。
【ボス討伐リザルト:80の経験値、50ヴィルを獲得】
「やったあああ!」
アリサちゃんが喜ぶ声が響く。俺たちは初めてボスを倒せたんだ。リザルト画面を見て改めてそう実感する。いやあ、こんなに達成感があるとはね。すっかり俺も嬉しくなってきた。
「お役に立てず、申し訳ありませんでした」
ゆきむらさんが復活していた。ボスを倒すと倒れていた人は復活する仕組みなのかな。あのまま死んだままなのは可哀想だしね。
「そんなことないですよ、ここにいる全員のお陰です。俺たちパーティメンバーじゃないですか」
「スカイさん、指揮取ってくれてありがとうございます。とても助かりました」
「いやいや、大したことはしていないですって」
「そうだ、みなさんフレンド申請してもよろしいですか?」
マグナムさんが訊いてくる。もちろん返事は全員イエス。フレンド申請の仕方がわからなかったので、マグナムさんのやり方を真似て、俺も全員に申請を送ってみることにした。
「みんなフレンドになれたかな……」
フレンド欄を確認すると、4人の名前が出てくる。フレンドが今どこにいるのかも確認できるみたいだった。へえ便利なもんだな。
「みなさんフレンド登録は完了したようですね。それじゃマリンちゃんを助けにいきましょう」
……マリンなんてすっかり忘れていた。
鍵を拾い、牢屋の方へと向かう。