真夏の新入社員
朝、洗濯物を干すために窓を開けると、冷たい風が入り込んできた。冬の訪れを感じるとともに、ふと、夏の暑い日の出来事を思い出した。
その日も、いつものようにベランダに洗濯物を干し、窓を閉めた。
すると、カーテンレールの上に黄緑君が現れた。清清しく光るような、驚くほど美しい黄緑色だった。その色に若さとパワーを感じ、まさに、新入社員というような姿であった。私は、そんな黄緑君に、少々見惚れてしまっていた。
私は、お隣の株式会社と、この家を間違えたのかと思い、会社はあちらですよと教えた。しかし、黄緑君は頑なにカーテンレールの上から動こうとはしなかった。早くしないと、会社が始まる時間に遅刻してしまうのではないかと心配になった私は、もう一度注意をした。
しかし、黄緑君はカーテンレールのさらに先の方へ進み、ついに、エアコンの上にまで登って行ってしまった。
私は、困ります! と言って出て行くように叫んだ。しかし、若くて身軽な黄緑君は、どんどん手の届かないところへ移動して行ってしまった。
ここで考えた。早く外へ出て行ってもらえるよう、クイックルワイパーの棒で誘導しよう。
しかし、さらに奥へ誘導してしまうような形になってしまい、逆効果であった。
次に、クイックルワイパーの棒に乗ってもらうように誘導してみた。すると、まんまとその作戦に引っかかり、黄緑君は棒に乗ろうとしてくれた。
ここまでは良かったのだが、黄緑君は足が非常に細く、踏ん張りが効かないようだ。足が滑ってしまい、棒の上を歩くことができなかった。すぐに危険を察知した黄緑君は、いそいそとエアコンの上の手の届かない奥の方へ戻って行ってしまった。
それなら、さらに頭を使って考えよう。木の棒ならどうであろうか。
私は、部屋の奥から、以前友達からプレゼントされた、先端にお人形が飾ってある木の棒を取り出した。
きっと木の棒なら、滑り止めになって、黄緑君も歩きやすいに違いない。
作戦は大成功で、案の定、黄緑君は木の棒に安定しながら移動し、こちらの方へやって来た。
と、その時である。
歩いてやって来るかと思いきや、突然、私の方にピョーンと飛んで来た。
驚いた私は、木の棒を手放し、床に放り投げてしまった。それと同時に、黄緑君も床へ落ちて行ってしまった。
一瞬何が起こったのか分からず、まことに恥ずかしながら、とてつもなく裏返った声で「ぎゃ〜!! 」と、悲鳴をあげてしまった私であったが、心臓がドキドキしながらも、すぐに黄緑君が無事かどうかを確認した。
黄緑君は、無事であった。
床の上で、何事もなかったかのように歩いていた。
そして、何事もなかったかのようにベランダへ歩いて行った。
少々取り乱し、髪型はくずれ、まだ心臓はドキドキしていた私であったが、新入社員であろう黄緑君は、無事に株式会社の方向へ歩いて出て行った。
あれから黄緑君はどうしているのだろうか。道に迷わず、しっかりと動き、楽しい人生を送っているであろうか。