「カラ」と「から」と「kara」
以前、私は小さな居酒屋さんでアルバイトをしていた。
常連のお客さんが、楽しい飲み会を終え、いつものようにお会計をお願いされた。
私がレジを打ち、金額を伝えると、
そのお客さんは、
「領収書クダサイ。カラデ。」
と、酔っ払った赤い顔で、少し外国人のカタコトの日本語のような発音で言った。
私はとっさに、はいと、返事をした。
が、カラデ?とは…?
よくわからず、しばらくしてから私は
「カラデスカ?」と、聞いた。
すると、そのお客さんは、
酔っ払って呂律が回らない口調で、少し怒ったように
「カラヨ〜テンチョウニイエバワカルワヨ〜」と、面倒くさそうに言った。
私は、「カラ様ですか?領収書の宛名書きはカラ様でよろしいですか?」という質問をしようか迷ったが、お客様を馬鹿にしているようで、これ以上怒らせてはいけないと思い、
喉のすぐそこまで出てきた言葉たちを我慢して、しぶしぶ領収書の用紙を引き出しから取り出した。
そして、その領収書に金額を書こうと
すると、そのお客さんは、
「カラデ!ソノカミチョーダイ!」と、言った。
酔っ払いは声が大きくて困る。
私は、そのお客さんとの会話が常に疑問だらけで、?マークが顔に出ていたようだ。私の顔を見て、そのお客さんはさらに腹を立ていたようだった。
正直、領収書を紙だけ渡す、という意味がわからなかった。そして、これ以上質問を繰り返して聞いても面倒なだけであった。
それ以前に、「カラで」と言われ、韓国のアイドルグループかよ、と、突っ込みたくなった自分がいた。
そのお客さんは、
「ソノカミチョーダイ」と言って、プンプンと怒った顔をしながら白紙の領収書を持って帰って行った。
この日の帰り道、私は考えた。
私が気を遣って、
「白紙のままの領収書でよろしいですか?」と言い直せば良かったのか。
それとも、
素直に「カラ様ですか?」と聞き、お客様を怒りの頂点に立たせたほうが良かったのであろうか。
今回の出来事は、私にとっては究極の選択であった。がしかし、そのお客様にとっては、きっと気にもとめない会話なのだろう。