表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
満月の夜、鏡の前で  作者: 瑠珠
6/12

6.男の子と女の子


「えっと…」


やばい。突然すぎて何も頭に浮かばない…

幼馴染達と一緒に買い物してる時点でちょっと怪しいよね…なんて言えば…


松原の前で固まっている私の隣で兄ちゃんが口を開いた。

「俺、彩智の兄の祥ですよろしく」

「あっ、あいつのお兄さんなんですね。はじめまして松原遥っていいます」


あいつって何だよ。ちらっと松原の顔を見るとばっちりと目が合ってしまった。


「こっちは?」

「えっと、わた、俺は…」

「ああ、こいつは俺と彩智の従兄弟の詩貴。家遠いんだけど週末は結構こっちに遊びに来てるんだ」

言い淀む私の横でまた兄ちゃんが先に口を開いた。本当に頭の回転が早いなぁ。


「シキ?面白い名前っすね」

「ま、まあね。俺らの家系変わった名前多いから…」

詩貴って名前の従兄弟は本当にいるんだけど、松原が会うことはないだろうしそう名乗っても大丈夫だろう。



「へー、それにしてもシキくんかっこいいっすね!身長もあるし、大人っぽい…ってか歳は?」


松原は私に興味を持ったのか舐め回すかの様に私を見てくる。


「えっと、高1だけど…」

「えっ俺らとタメ!?すげー大人っぽいな。さーちゃんと血繋がってるとか考えられねぇ」


何ですか、私が色気なくてちんちくりんとでも言いたいんですか!?

ダメだ、そろそろムカついてぶん殴っちゃいそう。


「彩智もそんなちっちゃくはなかったと思うけどなー。まあ、言っても従兄弟だしね。そんなに似てないよ」

「あはは、たしかに」

ニコッと嫌味っぽく言ったつもりだが、松原には効いていないようだった。



「あれ?てかさーちゃんは?いないの?」

私がいないことに気づいて松原がキョロキョロと辺りを見渡す。


「彩智は体調悪くて家で寝込んでる」

蒼生がすかさず顔色一つ変えずに嘘をついた。


蒼生も兄ちゃんもよく顔色変えずに嘘言えるよなぁ。私は絶対目線が泳いじゃってすぐバレちゃうタイプだ。


「はは、何してんだよさーちゃん。後でLINEしてやろー」

どうせLINEでもからかうんだろ!本当にこういうチャラチャラしたノリ苦手。




「てか、みんなの私服初めてみたわ。へー…ワンピースとかいいな、なんか俺好きだわ」

「こら、変態」

「いてっ」

一人一人の洋服をじっくり見る松原を蒼生が小突いた。

チェックのワンピースを着ていた当の本人、花音は顔を真っ赤にしている。


「あはは、悪かったって。じゃーな。あ、シキくん!後で一緒に遊ぼーぜ。」

ほんとノリが軽い男。

これから買い物なのか、松原は駅とは逆方向に歩いていった。




「…乗り切った?」

松原が離れていくのを確認した後、春が呟いた。

「まさか遠出したのに松原に会うなんて…ほんと最悪、疲れた」

私はさっきまでやり取りを思い出してため息をついた。


「てゆうか、祥くんなんであんな冷静でいられるの!?」

「お前らが慌てすぎなんだよ。本物の詩貴になんて会うことないし、適当言っとけばいいんだって」


慌てずに余裕を見せる兄ちゃんが本当に頼もしい。

「兄ちゃんいつもありがとう…」

「なんだよ、かしこまって。それより、あの松原だっけ?すげーチャラそうな男だったな」

「そうなの!デリカシーもなくてほんと最悪なの!」

思わずいつものように兄ちゃんの服の袖を掴んでずいっと体を寄せる。

「馬鹿っ!近えよ!気持ち悪いって」

「あっそうだった、ごめん」


目線の高さとか手足の長さとか実感することは多いのに自分が今男だってことをすぐ忘れちゃう。

それにしても気持ち悪いはさすがに傷つくよ…








無事に家に到着したが、まだ私は男のままだ。部屋で早く戻らないかなーってゴロゴロしてたら松原からLINEが届いた。本当に送ってきたんだ。


『さーちゃん体調悪いんだって?今日相田に会ったんだけどそん時に聞いた。文化祭近いんだし気をつけろよー』


案外普通な内容でちょっと驚いた。松原にも人を心配する心があったんだな。


『あっあと今日さーちゃんのお兄さんと従兄弟のシキくんにも会った!2人ともめっちゃかっこいいなさーちゃんと違って大人っぽいしwww』


前言撤回。ムカつく!ここでもそれ言ってくるか…

沸々とわいてきた怒りに任せ、返信のメッセージを送信した。


『うるせーバーカ!!』


口が悪いとかいう文句は受け付けません。




返信を送ってすぐに私の体は元に戻った。今20時だから朝起きてから12時間男だったのか…

なんだかどんどん男になっている時間が長くなってないかな?

そのうちこのことに慣れてしまいそうで怖い。


でも解決策がなくてどうすることも出来ないし、ともかく今はお腹が空いたので夕飯を食べに下降りよーっと。


部屋から出る瞬間、自分がだぼだぼの服を着ているのに気づいて慌てて部屋に戻った。こんな大きい服着てたのか。全然手足の長さとか違うんだなーと実感した。








文化祭まであと4日。準備が本格的になってきた。私たちのクラスは文化祭定番のお化け屋敷をすることになっている。

授業の一部や放課後に着々と衣装や小道具を作っているんだけど、意外と時間が掛かるんだねこれ…


本当は今すぐに性転換の謎を解明したいところなんだけど、忙しすぎてそれどころではない。鏡とかもう一度確認してみたいんだけどね。

クラスでの出し物に加えて、私は実行委員としてメインステージでのイベントにも関わっているので両方を行ったり来たりしていて多忙で死にそうだ。いくら悠くんがいるからといっても、文化祭が近づけばやっぱり忙しくなるよね…



そんなこんなで4日間はあっという間に過ぎていった。

この4日間は一度も男にはならなかった。このまま収まってくれたらいいけど…


代わりに頭痛に悩まされることが多くなった。急に頭の中で光がピカッってなったように感じて、頭痛と一緒に何か映像のようなものが見えそうで見えないみたいな…上手く言葉では言い表せないんだけどフラッシュバックみたいな感じ?最近ストレス溜まってるし活動しすぎて疲れてるのが原因なのかな…

まあ、我慢できるくらいのものだし男になるよりはマシだからいっか。







文化祭1日目、金曜日がやってきた。

文化祭は2日間で金曜は学内のみ、土曜は学外の人も来れるようになっている。金曜はぶっちゃけ土曜のためのリハーサルのような感じで、体育館にあるメインステージでのイベントもない。私も今日は特に大きな仕事はなく、ゆっくりと出来そうだ。


「ねえみんな。ちょっと来て」

「ん?何?」

花音に呼ばれて集まると、それぞれの手に色違いの花がついたヘアピンが乗せられた。


「何これ!かわいい!花音が作ったの?」

「うん。あんまり上手くないんだけど…せっかくの文化祭だし何かお揃いにしたいなって思って」

ヘアペンの花は私が青、蒼生は紫、春は黄色、花音はピンクだ。お揃いってやっぱりテンション上がる。

「花音ありがとう」

「一緒につけてくれたら嬉しいな」

「つけるつける!色違いっていいね!」


私は右耳のあたりにヘアピンをつけた。文化祭が終わった後もたくさん使おう。



私たちは自分のクラスで仕事をしつつも他のクラスや学年、部活のところを周り、文化祭を楽しんだ。明日は忙しいから今日4人で一緒に回れて良かった。

文化祭って青春!って感じでいいよね。こんな毎日がずっと続けばいいのに。









文化祭2日目。今日は学外からも人が来るし、イベントもあるので大忙しだ。私は朝早くに学校に集合し、準備やリハーサルに追われていた。


よりにもよって今日は朝から頭痛が酷い。鈍い痛みがずーっと持続してるような感じで動けないほどではないけどちょっと辛い。



「橋元さんおはよう。…ん?どうしたの?大丈夫?」

体育館の隅の方で座っていると悠くんが声を掛けてきた。


「あ、悠くんおはよう。ごめん、ちょっと頭痛いだけだから大丈夫」

そう答えて立ち上がった。悠くんは心配そうな顔をしている。


「そうなんだ…もし替われることあったら言ってね」

「ありがとう。でも私裏方の仕事しかないから全然平気」


ほんとに悠くんって紳士だなぁ。それに比べて……一瞬あいつの顔が頭をよぎりそうになったけど気のせいだってことにする。


チャイムの音が聞こえた。

「あ、教室戻ろっか」

「うん」


私は悠くんと一緒に教室へと向かう。特に会話のないまま廊下を進む中、ふと考えた。


悠くんみたいな人が彼氏だったらなぁ。毎日ときめきまくりなんだろうな。

んーでも私って悠くんのこと好きなのかな?…恋愛したことないから全っ然分からない。人の気持ちって難しいなぁ。花音もあんな奴のどこが好きなんだろう。どこを見て好きになるの?


「あ、着いた」

そんなことを考えてたらいつのまにか教室にたどり着いていた。









…学外からの来客人数舐めてた。廊下はごった返すほどの人、人、人!

お化け屋敷も人気だからなのかお客さんが次から次へと入ってくる。




「……許さない。あなたのこと呪ってやるわ…!」

「「うわぁぁぁああ!!!」」

他の高校の男子二人組がすごい悲鳴を上げて廊下へと飛び出した。


私たちのクラスのお化け屋敷は簡単だけどストーリーがある。


街の外れにある大きなお屋敷。そこでは15年前に一家殺人事件があり今では有名な心霊スポットになっていた。

好奇心旺盛なあなたは今は誰も住んでいない屋敷に足を踏み入れるのだがそこではありえない現象が…!

的な感じで最後は殺された女の人の幽霊が殺人犯と勘違いして、「呪ってやる…」って言いながら背後から追いかけてくるっていう結構本格的なお化け屋敷だ。


今は女の人役を蒼生がやっている。あの子無駄に演技力と迫力あるからビビって当然だと思う。ドンマイ見知らぬ男子高校生。




午前11時30分。まだここでお客さんの反応を見ていたいのも山々だけど、午後にあるイベントの為に早お昼して体育館の方に向かわなくちゃ。

私はお弁当を空き教室で手早く食べ、資料を持って体育館へと向かった。



「おっ彩智じゃん。何してんの?」

「いや、こっちの台詞なんですけど」

イベントに出る人達の待機場所に向かうと兄ちゃんがいた。


「どう?結構似合ってるだろ」

「出るなんて聞いてないんですけど!」

「出るはずだった奴が体調崩したから代打。今日の朝決まった」

そう言う兄ちゃんはネクタイではなくリボンをつけて、私が履いているのと同じチェックのスカートを履いていた。メイクはしているが、ウィッグは付けていなかったので一目で分かった。


そう、私たちの高校の文化祭では男女逆転ミスコンというとんでもないイベントがある。男子が女装、女子が男装をするんだけど毎回クオリティが高いらしく文化祭1番のイベントといっても過言ではないらしい。



「ねえ、なんでミスコン休んだ人のところ欠員にしないの?」

私は疑問に思ったことを同じ学年の委員会の子に聞いてみた。

「イベントの中でミスとミスターでペアになってデートのシミュレーションするとこあるじゃん?そこで人数足りないと困るからじゃない?」

「あーそっか…」

確かにうちの高校のミスコンってちょっと特殊で事前に出演者発表してる訳じゃないし問題ないのか。


「見て彩智」

兄ちゃんの声が後ろから聞こえて振り向くとウィッグを被った兄ちゃんがにこにこと満足そうに笑って立っていた。茶髪ロングのウィッグは案外違和感なく馴染んでいた。兄ちゃんは細いから結構女装が似合うんだな。あんまり知りたくない情報を知ってしまった。


「結構かわいいだろ?」

「まあね。違和感はないと思うよ」

「俺ミスに選ばれちゃうかも」

普段は冷静沈着な兄ちゃんだが今はとても楽しそうだ。意外とイベントとか好きなんだね…女装とかあんまり好きそうじゃないのに。



そうこう話しているうちにイベントの時間が迫っていた。私は出演者の前に立ち、話し始めた。

「出演者の皆さん、本日はよろしくお願いします。これからの流れを一度確認させて頂きます。」


私の仕事はこのミスコンの時間と出演者の管理をすること。意外と責任のある仕事でドキドキするが、こつこつとしていた練習と準備を活かして頑張ろう。





「続いてエントリーナンバー6番の方の登場です」

順調に出演者紹介は進んでいき、最後の出演者がステージへの方へ歩いていく。


「3年2組、趣味はお菓子作りのさちです。よろしく」

勝手に妹の名前使わないでくれるかな?(怒)

まあ祥って名前付けた親も悪いんだけどさぁ。


このミスコンでは自分の本名は名乗らずニックネームを名乗り、あくまでも変装した姿を評価してもらうということになっている。

兄ちゃんが両手で投げキッスの動作をすると、会場が少しざわめいた。ちょっと低い声が大きかったのが気になる…


ミスとミスターどちらの出演者もステージに送り出したけど本当にクオリティ高いな。男装してる女の子も元々ボーイッシュな子が選ばれてるってこともあるけどめちゃくちゃかっこいい。出演者の人達を見ていると、性別って何だろう…っていう気分になる。



「では、続きまして出演者の方にペアになってもらいデートシチュエーションをしてもらいます。それぞれの出演者の振る舞いに注目してご覧下さい」


これきっかけで付き合ったりした人とかっていないのかな?男女逆ではあるけど異性同士には変わりないし…

裏で待機している時間はちょっと退屈で色々な考え事が頭に浮かんでくる。でも時間見てなきゃだしぼーっとはしていられない。





その後も特にアクシデントもなく、無事にミスコンは終了した。

ちなみに本当に兄ちゃんは優勝してミスになりました。なんか複雑な気分。

ミスターはバスケ部1年の背の高い女の子。バスケ部って男女問わずモテるよね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ