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満月の夜、鏡の前で  作者: 瑠珠
4/12

4.わずかな手がかり


「ここのトイレかな?」

「さーちゃんいる?」

「彩智大丈夫??」

個室で待ってるとみんなの声が聞こえた。



男の声で話し出すのに少し躊躇っていると…

「ねえ、彩智まさか…」

さすが蒼生。何となく察してるみたいだ。


「…そのまさかです」

「イケメンバージョンだ!」

春はなぜかテンションが高い。

「さーちゃんなんで個室から出てこないの?」

花音が不思議そうに尋ねてくる。

そりゃあ幼馴染とはいえこんな女装姿見せたくないからね…

「今女子の制服着てて外出られる状況じゃない」

「なるほどー」

「でも別に私たちしかいないんだしいいんじゃない?」

「いやだ」

と即答した。だって格好悪いし。


「それで?ご要望はなに?」

蒼生が呆れたように聞いてくる。


「…兄ちゃんから体操着借りてきて欲しいです。それ着て直ぐ帰る。あと、悠くんに私がまだお腹痛くて委員会行けそうにないって伝言して欲しい」


「りょうかーい。じゃあ私祥くんのとこ行ってくる」

「私は悠くんに伝えてくるね!」


春と花音の2人が扉から出て行く音がした。今更だが私の兄ちゃんの名前は(しょう)と言う。祥って「さち」とも読めるし、両親は私たち兄妹になんともややこしい名前を付けたなっていつも思う。


「じゃあ私監視係」

残った蒼生は監視係になったらしい。何のだよ。

「女装姿だからなんて気にしなくていいのに。元々は女子なんだから。」

「それとこれとは違うでしょ。端から見れば女装だし」

「そうじゃなくて、なんで私たちに対しても恥ずかしがってるのってこと」

「……」


確かになんでこんなに頑なになってるんだろう。隠すことなんて何もない幼馴染なのに。


「まあいいけどさ」


その後2人で待ってる間は特に会話もなく、気まずいような心地良いようなよく分からない空気が流れていた。



「悠くんに伝えてきたよ。すごい心配してたからさーちゃんあとで謝っといてね」

花音が戻ってきた。悠くんごめん…


「おまたせー!体操着!」

春も戻ってきた。そういえば借りてきてって言ったの私だけど兄ちゃんまだ教室いたのかな…


兄ちゃんの体操着に着替え、 個室から出た。


「おーっ似合ってるねー」

「ちょっと丈足りない感は否めないけど…」

「自分の着るよりはましなんじゃない?」

「みなさんありがとうございます…」







「見るの2回目だけどやっぱ慣れないな」

「兄ちゃん!?」


トイレから出ると廊下に兄ちゃんが立っていた。


「春がすごい勢いで説明なしで体操着持ってくから何かと思えば…まあ何となく察しはついてたけど」


「他にも教室人いたし説明できなくてごめん」

と春はお茶目に笑った。


「とりあえず学校から出ましょう。他の人に今の彩智見られたらちょっとまずいし」


蒼生の提案通り私たちはすぐに学校を後にした。




そして今私の部屋で作戦会議中である。



「なんか並んでみるとさーちゃんと祥くんってやっぱり似てるね」

花音が並んで座る私たちを見て言う。


「そりゃ兄妹だからね」

「でもさーちゃんが男になってさらに似てる気がする。なんだろ、雰囲気とかじゃなくてパーツ1つ1つが似てるって感じ?」

「声もすごくそっくりだし」

「でも体格はあんまり似てないわね」

「彩智俺の服着れないしこの現象が続くんだとしたら服買いに行った方がいいぞ」

「無駄な出費が…」

ただでさえ金欠なのにこんな訳のわからない現象のためにお金を使わないといけないなんて…


「そういえば身体が男になった以外は何ともないのか?何か変わったこととかあるか?」

兄ちゃんが思い出したかのように尋ねてきた。


「変わったこと?」

思い返してみるが変わったことってあるかな……?

「特には…」

何か心の中で引っかかったような気がしたがすぐ出てこないってことは大したことじゃないだろう。


「何かあったらすぐ私たちに言ってね。お手伝いするから」

「そーそーなんでも言って!」

「ほんとありがとうございます」

本当に頼れる人たちがいて良かったって改めて思った。



作戦会議ではいくつかのことが決まった。


1つはこのまま鏡の都市伝説に関する情報収集を続けること。


2つ目は性別が変わる現象が週末まで続いていたら男物の服を買いに行くこと。


3つ目はできるだけ常に着替えを持って行動すること。


4つ目は人前で性転換しそうになった時はすぐにトイレや人目のない場所に行き、みんなに連絡すること。


最後にこのことは私たち5人の秘密にすること。今のところ両親にもだ。信じられないようなことだしなるべく負担と心配をかけたくない。








私の体は幼馴染達が帰った後も、両親が仕事から帰ってきた後もなかなか戻らず、戻るまで部屋に引きこもり夕食を食べることもお風呂に入ることも出来なかった。



兄ちゃんが「彩智は具合が悪いらしい」と嘘をついてくれたおかげで引きこもってても不審がられなかったけど、これいつまで続けなきゃいけないのかな…


部屋越しに心配そうに声をかけてくれるお母さんに応えられないことに罪悪感を抱きながら眠りについた。






次の日。

朝起きたら体は元に戻っていた。朝はシャワーを浴びなきゃいけなかったのでいつもより慌ただしかった

「悠くん昨日はほんとごめん!」

朝教室に着いていち早く、先に来ていた悠くんに昨日のことを謝った。


「あっ橋元さん大丈夫?やっぱり昨日は1日調子悪かったんだね。今日は何ともないの?」

「うん、ぜんぜん平気。心配かけちゃってごめんね。委員会の方は大丈夫だった?」

「特に変わったことはなかったよ。最終確認みたいな感じ?」

「そっか…」


悠くんは予想通り私のことをすごく心配してくれていたみたいで、何かあったら遠慮せずに私の分の委員会の仕事も回してくれて構わないと言ってくれた。

別に体の方はピンピンしてるんだけどね…いらぬ心配と負担を悠くんにかけてしまっていて申し訳ない。





今日のお昼ご飯は屋上で食べることにした。屋上は結構人はいるんだけど、広いので距離が相当近くなければ話の内容が聞かれることはない。


「あっ、私今日お弁当じゃなくて購買で買ってくる!」

春が立ち上がり、財布を持ちながら教室から出て行こうとする。

私はさっきからお弁当を探してるんだけど見当たらない。


「やばい。お弁当忘れてきた」

「えっさーちゃんもお弁当ないの?じゃ一緒に行こー」

私のつぶやきを聞き春が言った。

「うん。じゃあ蒼生と花音先に行ってて」

「りょーかい」






「今日はお弁当どうしたの?」

廊下を歩きながら春が疑問そうに尋ねてくる。


「朝ドタバタしててさ、玄関に置き忘れてきたっぽい…」

「あははっ何それ!」

「もう忙しかったんだってば。聞いてよー」


廊下の角を曲がり、昨日の出来事を話そうとしていたら、視界に悠くんと数学の神田先生が入った。


「あれ?悠くんと神田先生?」

何やら話をしていた2人に春が話しかけた。

「おー芦田と橋元」

「2人が話してるの初めて見たけどなんか仲良さそー!え、ご関係は!?」

コミュ力おばけの春はインタビューをするかのように神田先生に尋ねた。


「ご関係って…まあ、隠してるわけじゃないけど兄弟だよ」

「「えっ!」」

私と春の声が重なった。

「えぇーそんな驚くか?苗字一緒だし」

確かに一緒だけど、悠くんは悠くんと呼ばれてるので今まで全然気づかなかった。顔もそんなに似てないし。


「すごーい!生徒と先生が兄弟って漫画みたいだね!」

「まあ、兄弟一緒だとダメってルールはないからなぁ。ちなみにここ俺の母校でもあるし」

神田先生は少し得意げに言った。

「えっそんなんですか?」

「そーそー。お前たちの先輩だぞ。」

「へぇー先生何歳だっけ?」

「26」

「10個上かー相当上だなー」

「おいまだまだ若いっつうの。ここ卒業してから10年は経ってないし」

確かに神田先生は他の先生と比べると見た目もノリも今時の若者って感じで親しみやすく、生徒からは人気がある。


「ふーん。…あっ!ってことは先生鏡の噂知ってる?」

思い出したかのように春が尋ねた。確かに卒業生なら何か知っているのかもしれない。


「鏡?…あっ満月の夜にってやつ?」

「そーそー!何か知らない?」

「んー…オカ研の奴がなんか色々調べてたのは覚えてるけど…別に何ともない鏡だったんじゃなかったっけ?」

「えっオカルト研究部なんてあったんですか?!」

「そー今はもう廃部になったけど…5、6年前くらいかな?」

この学校にオカルト研究部があったなんて知らなかった。廃部になってなかったら私も入りたかったのに…!


「奏多、時間大丈夫なの?」

会話にあまり入って来なかった悠くんが口を開いた。

「ん?あっやべぇ時間意外と無いな。」

「邪魔しちゃってごめんなさい」

「いや、じゃあまた今度」

「先生バイバーイ」

神田先生は急いでどこかへ行ってしまった。


「奏多って先生の名前?」

さっきの2人のやり取りで気になったので悠くんに聞いてみた。

「うん、そう。昔から名前で呼んでるんだ。」

「へーかなたとはるかかー…何か面白いね!兄弟の名前逆だったら『遥か彼方』になるのに」

「確かに」

「まあ、僕の親もそんなに考えずに名前付けたんじゃない?」






「遅い!何してたの?」

購買でお昼を買って、屋上に行くと蒼生がちょっと怒っていた。

先生と悠くんと10分近く話しこんでいたらしく、お昼休みの時間は残り半分の30分だった。


「ごめん、途中で神田先生と話してて」

「ねえそれより聞いてよ!神田先生ね、悠くんのお兄ちゃんでここの卒業生で、奏多って名前で26歳で」

「ちょっと!情報量多すぎるんですけど!」


春はテンションが高いとさらに多弁で早口になるのでたまに何を言ってるのか分からない時がある。

私は神田先生と悠くんの話をまとめて蒼生と花音に説明した。



「ってことはこの噂って、少なくとも10年前からあるってことね」

「あとはオカルト研究部っていうのがちょっと怪しいね」

蒼生と花音は私の話を聞いて推理をしてくれた。


「でも先生何にもない鏡だったって言ってたし、やっぱ実際に被害被った人っていないのかな?」



謎の解明について、前進したようなしてないような…

でも、わずかだが情報は得られたんだからよしとしよう。


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