1.ありきたりな話
初投稿です。
亀更新ですがストーリーはできてるのでがんばります!よろしくお願いしますm(_ _)m
「ねえ、この噂本当かどうか試してみない?」
この一言からすべてははじまった。
私たちの通う高校にはある噂がある。満月の夜の深夜2時22分、旧校舎の屋上へ向かう階段の踊り場にある鏡の前で願い事をすると1つ代償が必要だが願いが叶えられる、というどこにでもありそうなものである。
代償という言葉がどの程度のことを示すのかわからなくて、実際にそのおまじないを試したという人はいままで聞いたことがない。
「さーちゃんおはよう!」
教室に入ると私の幼馴染4人組のひとり、芦田春が飛んできた。
「おはよ「課題写させて!」」
挨拶を言い終わる前に食い気味で春は言った。
「だと思ったよ」
遅刻魔な春がチャイム直前に入ってこない日はいつも課題を写させてほしいときだ。これでもここは進学校だからほとんどの人は真面目に課題をやってくるのに春はほとんど自力でやってきたことはないんじゃなかろうか。
「おはよ」
春が私の隣の席で黙々と課題を写してるなか、春が座っている席の主である松原遥がやってきた。こんな名前だか男である。
「おはよ。ごめん春が座ってて」
「ああ、いいよ別に。てか、さーちゃん昨日ちゃんと寝たのか?くまできてるぞ笑」
「うるさい!たぶん元からだわ!」
私は小学生のころやんちゃな男の子にちょっかいを出されてから男子が怖いというか苦手である。
そんな私のことをお構い無しにこの男はデリカシーのないことをズバズバと、しかも慣れなれしくあだ名で呼んでくる。さらに、顔だけは良くて目立つ存在だし、なにかと私に話しかけてくるため周囲であらぬ噂が流れてたりする。はっきり言ってとても迷惑。
「おはよー。あれ、春が珍しく早く来てる」
「ほんとだー」
4人組の残りの2人、相田蒼生と谷口花音がやってきた。私たちは蒼生と花音と、本当に不本意だが松原と朝開始のチャイムが鳴るまで他愛のない話をするのがいつの間にか日課になっている。
「おはよー2人とも、ごめんいまそれどころじゃなくて」
「自業自得でしょ」
「まって範囲ってここまでだっけ、俺そこまでやってないんだけど」
春が写してる私の課題を覗き込みながら松原がつぶやく。
「さーちゃんがやったところまでであってるよ。よかったら私の写す?」
「まじで!?谷口神!ありがとう!!」
にかっと松原が笑って花音の背中をバンッと叩く。だからこの男距離が近いんだって。花音が真っ赤な顔をしてる。
花音が松原に見せるために自分のノートを取りに行く直前、後ろを振り返り蒼生に笑いかける。なんの合図だろ?
「さっきのなに?」
蒼生に気になって聞いてみると
「彩智は分かんないならそのままで大丈夫」
と返されてしまった。
その日は秋にしては少しだけ肌寒かった。スカートの下から通る風がとても冷たく感じる。
「なんで女子だけ制服スカートなの世の中って。冬めっちゃ寒いじゃん男子ずるくない?」
「でも男子も夏は暑いのに長ズボンで過ごさなきゃだよ?」
「たしかに」
今朝も変わらず他愛もない雑談をしている。しかしこの日は珍しく課題はないのに春が朝早くから学校に来ていた。またまた珍しく松原がまだ来ていない。
「ねえねえ満月の夜、深夜2時22分の噂って知ってる?」
突然春がきりだした。
「ああ、あの噂はあるけど何故か実践した人はいないっていうやつね」
「聞いたことある」
「わたしもー」
「ええっ、みんな知ってたの!?私昨日の夜知ってみんなに話したくてうずうずして今日早起きして来たんだよ!?」
なんとも早起きの理由が不純である。
「どこで知ったか知らないけどさ、ああいう類の噂は全部作り話だから。」
クールで現実主義の蒼生はそう切り捨てる。
「願い事が叶うかわりに代償が必要って怖くない?どんなものが代償としてとられるのかな…」
怖がりな花音がつぶやく。
「でも誰も試したって話がないって不思議だよね。そんなに代償が怖いのかな。」
私は不思議な話やオカルト的な話が実は大好きだったりする。今までも怪しいスポット巡りに蒼生たちを誘っては怒られを繰り返している。オカルトってロマンあるのになんで一緒に行ってくれないんだろう。この話も入学してすぐに誰かから噂で聞いてちょっと気になっていた。
「ねえ、この噂本当かどうか試してみない?」
春がいたずらを思いついた子どものような顔で言う。
「えー。まあ青春みたいで楽しそうだけど深夜2時なんて外出たくないし。花音は?」
「う、うーん…やっぱり代償っていうのが怖いかな…」
「でもさ…」
春が蒼生と花音に耳うちをする。何故か花音は赤くなっている。
「よし決定。噂確かめよう」
「えっどうしたの今の一瞬でなにがあったの!?」
「別に。どうせ嘘なんだからいいかなあって。それに絶対彩智はオカルト好きだから行きたいって言うでしょ」
「よ、よくご存知で…」
幼稚園の頃から一緒の幼馴染は何もかもお見通しだ。今まで一緒に行ってくれなかったからみんなで行けるのは楽しみだけど…
こうして猛スピードで満月の夜、深夜2時22分の噂確かめようの会が決定された。決行は3日後の月曜日。
決行当日、私は深夜に家族に気づかれないように家を飛び出した。寒いかなって思ってジーンズに厚手のパーカー、その上にジャンパーを羽織ってきたがそれでも寒い。裏門に向かうと3人はもうすでに到着していた。
「あっさーちゃん来た」
私が到着して4人で裏門から敷地内へと入る。こんな簡単に入れるなんてもう少しセキュリティ気にした方がいいんじゃないだろうか…
「てゆうかほんとにみんな来るとは思わなかった。特に蒼生と花音」
「嘘だったら何もないし、もし本当だったら願いが叶うって思ったらいいなーって思って。ね、花音」
「うん」
「代償が必要だけどね」
「代償って言ったって絶対そんな大したことじゃないって!ほらここから中入れるから行こ!」
旧校舎1階の教室の窓が鍵の周囲だけ小さく割れていて、そこから鍵を開けて春を先頭に校舎内へと入る。春はこんなとこの情報どこから仕入れたんだか…
「意外と綺麗ね」
蒼生がくるくると校舎内を見渡す。旧校舎といっても入るのが危険なほど老朽化が進んでいるわけでもなく、まだまだ現役で使えそうな感じだ。中も特に荒れている様子もなかった。
「なんか、悪いことしてるみたい」
花音がふふふっと口を押さえながら可愛らしく笑う。
「いや実際に不法侵入っていう悪いことしてるんだってば」
「ねえ、こっちから屋上の階段いけそうだよ!」
春が廊下の先を探検に来た子どものような顔で指差しながら叫ぶ。
「春、もう少し静かに。いま深夜2時だよ分かってる?」
「わかってるわかってる」
保護者のような目線で春のことを軽く叱ったが、私自身も夜の学校という雰囲気を十分に楽しんでいた。
春の言う通り向かって行くと目的の場所にたどり着いた。
「なんか、不思議な場所」
第1印象はそんな感じ。ここなら何か起こってもおかしくないかなって思える。
屋上へ向かう階段の踊り場には、不釣り合いなほど大きな窓があり、満月の光が目一杯そこから溢れていた。そして噂どおり、横に広いちょうど4人くらい横に並んでも姿が映るほどの大きさの鏡が置かれていた。
「雰囲気あるねー!これは噂になるだけあるよ」
「たしかにそうね」
「すごい…」
私たち全員がこの場の雰囲気に圧倒されている。
「よし22分まであと5分だし手順の確認しよ!えっと、鏡の前に立って願い事を頭の中で唱える、だって!口で言っちゃだめらしいよ!」
春が持ってきたメモ用紙を見ながら手順の説明をした。
「それだけ?なんか代償とかいうからもっと儀式的なことするのかと思ってた」
ネットでよくみる呪文言ったり何か捧げたりだとか…
「まあ簡単なほうが面倒くさくなくていいでしょ」
4人で鏡の前に並ぶ。空気が自然と張り詰め、少しの物音でも踊り場に大きく響く。
午前2時22分になった。私の願い事は4人といつまでも仲良く過ごせますように。私は幼稚園の頃から一緒のこの幼馴染3人が大好きだ。大人になってもずっと仲良しでいたい。これくらいの願いなら代償とやらもほとんどないだろうと思う。
4人一斉に顔をあげる。
「みんなお願いできた??」
春が一番に話し始める。
「おっけー」
「わたしもー」
いきなり行くって言い出したからみんなが何をお願いしたのかちょっと気になる…
「ねえちょっと屋上行ってみない?いまちょうど雲ないし月がよく見えるよ!」
「月みたい!」
他の3人が屋上へ向かう中、ひとり鏡のある場所を振り返る。本当にさっきので願い事が出来たのか…実感がわかなくて何とも微妙な気持ちになる。
「さーちゃん!早く!月きれいだよ!」
「いま行く!」
春に急かされ一気に階段を駆け上がった。
満月ってこんなに明るかったんだっけ?いつもよりも大きく見える満月が雲がまばらにしかない空に浮かんでいて、辺りを明るく照らしていた。
「願い事って本当にあれで叶うのかな。全然実感がわかないんだけど」
屋上にあったベンチに腰掛けながら春が言う。
「やっぱり嘘だったのよあの噂」
「そんな簡単に願い事叶えてくれるわけないもんね…」
花音は少し残念そうな顔をしている。
「でも綺麗な月見れたし冒険みたいで楽しかったよ。みんな来てくれて嬉しかったし!それにしても春、この噂のこととか旧校舎への入り方とかどこから情報仕入れたの?」
私はずっと疑問に思ってたことを口にする。噂はともかく旧校舎への入り方とかどこの不良に教えてもらったんだか…
「えっとねー」
しかし、春が話し始めた途端私の身体に異変が起きた。
「熱い…」
身体が内側も外側も何かが沸騰しているように熱くて痛い。たまらず私は床に倒れこんだ。
「さーちゃん!?どうしたの?!」
「彩智!?」
「さーちゃん!どうしよう…」
みんなが倒れ込んだ私の異変に気づいて駆け寄ってくる。
痛みと熱さはますます増していく。
メキッと音がした。
「え…?」
目線の先にある私の腕がどんどんと伸びている。腕だけではなく、足も、胴体も、身体全体が大きくなっていくのが感覚でわかる。
「なに、これ………?!」
声が掠れて上手く喋れない。
前かがみになり垂れ下がっていた髪の毛がいつの間にか短くなり視界が開けている。開けた視界の先に見えた私の手はいつもの手よりも大きく、男の手のように骨ばっていた。
「さーちゃん…だよね…?」
私が倒れこんでから5分後、私の容態が安定したように見えたからか春が声をかけてきた。疑問系にしないでくれ。現実を把握したくないんだ。
「そう、だよ」
発した声が男のように低い。っていうか聞き覚えあると思ったらこれ兄ちゃんの声とそっくりだ。
「…あんた男になりたいとでもお願いしたの?」
「してない!今の状況受け入れたくない!」
私はまだ床に四つん這いになりながら答える。
「…そろそろ起き上がってもいいんじゃない?体勢きつそうだし…」
「なんか恥ずかしくてむり」
「大丈夫、彩智を笑ったり恥ずかしがらせたりするようなことしないよ」
花音が優しく声をかける。なんて優しいんだこの子は…
ゆっくりと顔をあげる。
「…どうも」
顔をあげた先のみんなの顔は一生忘れることはないだろう。