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裏野ハイツの住人(夏のホラー2016)

霊と無垢

作者: 青木森羅
掲載日:2016/10/13


 裏野ハイツ202号室。

 ここは俺の城だった、そうだったはずなのに。


「こんばんわ、おじさん」


「また来たのかよ、がきんちょ」


「いいじゃん、どうせおじさん暇でしょ」


「確かに暇だがな、お前」


「ならいいでしょ」


「ならいいでしょって、だから」


「おじさんが、幽霊だから?」


 図星。

 そう俺は、死んでいる。



 ココにたどり着いたのは単なる偶然。

 何かに呼ばれている、そう感じた気もしたが特に理由はない。


「おじゃましまーす、よっと」


 生前の記憶のせいか、玄関から入る。

 我ながら無駄に律儀だと思う。


「誰も居ない、か」


 部屋の中には家具がそのまま置いてあった。

 ただ玄関に表札は無く、無人だと思ったので入ったのだが。


「やっぱり誰か住んでいるのか?」


 しかし、窓のふちの埃の溜まり方を見たら人が入らなくなってしばらく経っている様だった。


「まぁ、いいか」


 そう呟き、横になった。

 それから俺はここに、居ついている。



「そう、幽霊だからだよ」


 自分で言うのはなんだが、生きてる人間がこんな向こうの存在に触れあっていい訳が無いと思う。

 それは世の理という奴だろうとも。


「おじさんなら大丈夫だよ」


「なんでそう言い切れる?」


「おじさん、優しいもん」


 またそれか。

 あの時、あんな事しなきゃ良かったな。



 そのまま動かずにここで地縛霊になるのもいいかな、なんて思い始めていたそんな時。

 そんなある日、なんとなく外に出てみたくなった。

 そう、なんとなく。


 そとは土砂降りだった。


「まったく、憂鬱な天気だな」


 そう呟いた時、自分が幽霊だという事を思い出し、自嘲した。

 幽霊と雨なんて、相性良いもんだろうに。

 

「おや、君は?」


 俺の目の前には、俺より若い男性が立っていた。

 見た目優男だが、目力の強さにその芯の強さを感じた。


「新しい霊かい?」


「新しい?」


「ああ、済まない。私はここの古参の霊でね、名を池沢浩二いけざわこうじと言います」


「どうも」


 彼は掃除をしている女性に寄り添う様に立っていた。


「ああ、彼女は私の妻なんだよ」


「えっ? 年齢がだいぶ離れている様な」


「はは、これは彼女と出会った時の姿になっているだけだよ」


「そうなんですか」


 俺は自己紹介をし、彼と握手した。


「ここ、気に入ってくれるといいな」


「いいんですか? 幽霊なのに、こんなに人間の近くに居て」


 彼は少し考えるような仕草をしたが、


「いいんじゃないかな、別に。それとも君は誰かを襲いたいと思っているのかい?」


「そんな事はありませんよ」


「なら、何も問題はないだろ?」


「そう、なんですかね」


「大丈夫さ」


 彼はそう言い切った。


「ところで、どこかに出かける所かい?」


「ええ、少しその辺りを歩いてこようかと」


「そうか、なら気をつけて行ってらっしゃい」


「はい」


 そう答えた時、何に気をつけるのかと思い聞こうとして振り返ると、奥さんといい雰囲気だったので野暮な事は止めた。


 しばらく歩く、ただ当て所もなく。


(そういえば、俺どうやって死んだんだっけ?)


 俺は死んだ原因を覚えていない。

 けどその事は、どうでもいい様に感じていた。

 なんというのだろうか、そう死んだか、なぜ死んだか、そこは何処なのか、誰が近くにいたのか、もしくは誰も居なかったのか、そんなのはもう自分とは関係ない。

 そんな感じだった。


「ウゥ……」


 そんな事をぼーっと考えていると、誰かの声が聞こえた。


(何の声だ? それに何処から?)


 その声の居場所を探す。


(この向こうか)


 そこは、家の敷地の中のみたいだった。

 コンクリの塀をすり抜け、中に入る。


「ウゥ」


 目の前には、十歳くらいの少年が膝を抱えていた。


(おいおい、こんな所にいたら濡れちまうぞ、坊主)


 無駄と分かっていたが、少年の屋根になるかの様に腰を曲げた。

 雨は俺の身体をすり抜け、少年の体を濡らす。


「まったく、なんでこんな所に居るんだよ。風邪ひいちまうぞ」


 そう呟いた時。


「えっ?」


 少年と目が合った。

 その両眼りょうまなこは純粋で、透明に輝いていた。


「おじさんは、誰?」



 それからずっとつきまとわれている。

 その日は両親の葬式だったそうだ。

 あとから、少し調べてみたのだが交通事故に遭い即死だそうだ。

 彼の両親を探してみたりもしたのだが、見つかることは無かった。

 池沢さんの話によると、もうすでに成仏したという事だった。


(まったく、こんな子供遺して自分達だけいなくなるだなんて)


 そんな事を考えていると。


「おじさん、どしたの?」


「いや、なんでもねぇよ」


「そう、なら今日は何して遊ぶ? トランプとかは?」


「いや、流石に触れれないからな。いつも通りかくれんぼでもするか?」


「うん!」



「はぁはぁはぁ」


「おじさん、よわーい」


「なんで直ぐ見つけられるんだよ」


「勘、かな」


「なんて非科学的な」


「? なにそれ?」


「いや、いいよ」


 幽霊がそんな事言っても仕方ないか。

 それにしても幽霊の自分がなんで疲れてるんだ?

 まぁ、細かい事はいいか。


「ふぅ、楽しかった」


「はぁはぁ、そうか、それなら、良かった」


 ここ数日、毎日の様にコイツはやってくる。

 こんなに入り浸って、コイツの今の保護者は何も言わないのだろうか?

 それに一緒に遊んでくれるのは居ないのか?

  

「なぁ?」


「なぁに?」


「お前、友達は居ないのか?」


「居るよ」


 そうなのかと安心した。


「光おねーちゃんとか、浩二おじさんとか、貧乏なおじちゃんとか。純くんとか」


「それってここの連中じゃねーか」


「そだよ」


「いやいやそうじゃなっくってな、学校の友達だよ」


 そう聞くとボウズの表情が曇った。


「……そんなのいないよ」


 なにか事情があるのだろうと分かった。


「……そうか」


「うん……じゃあ、そろそろ帰るよ」


「ああ、じゃあな」


 ボウズはそのまま帰って行った。


 

「はぁ、あの少年がねぇ」


 裏野ハイツの住人、というか住人に憑りついている疫病神が部屋を訪れていた。


「ああ」


「イジメられてんのかねぇ」


「イジメ、か」


 床に置かれたお猪口の酒を見る。


「まぁ、見える者には見える者の苦労があるらしいわ」


 そりゃそうだよな。

 自分の目の前には人がいるのに、いくら説明しようと周りには伝わらない。

 その結果は、疎外、そしてイジメか。


 目の前にあるひとつだけのお猪口を、疫病神が持ち上げた。


「気になるのか?」


「いや」


「……そうかい」


 疫病神がお猪口を傾けた。


「ところで、神さん」


「ん?」


「なんでわざわざここに来るんだ?」


「いいだろ、別に」


「憑いてる人がイチャイチャしてるのを見るのが辛いんだろ?」


 あえて、イチャイチャを誇張して言ってやった。


「ブフゥ!」


 疫病神が酒を噴き出した。


「おい! 汚ねぇな」


 顔の辺りに飛び散り、すり抜けた。


「ゴホゴホ! お、お前が変な事言いやがるからだろ!」


「まったく、図星だったからって慌てんなよ、カ・ミ・サ・マ」


「うるせぇ!」


 生きていたら腹が痛くなる程笑った。


「まったく、笑うんじゃねぇぞ、疫病やくびょうとついても神だってのに」


「すみませんね」


「心が籠ってねぇな」


 少し前から聞きたい事を思い出した。


「そういえば最近、光ちゃん見ないけど知ってる?」


 光ちゃんってのは、ここに住む地縛霊なのだが部屋の移動位は出来るらしく、たまにここに来てボウズと遊んでくれていた。

 すごく気が利くいい子だ。


「彼女の部屋に行ってんだが、恋したらしいよ」


「恋?」


「ああ、それと体を手に入れてたよ」


「はぁ!?」


「俺も詳しい事は知らねぇが、今は体があるからあちこち移動出来ないし、部屋の中では家人が居て話せないんだとよ」


「はぁ、そんな事になってんのかよ」


 疫病神がお猪口に残った酒を飲み干す。


「さて、そろそろ帰るわ」


「そうか」


「おう、そうだ」


 疫病神は壁をすり抜けかけたが、戻って来た。


「ん?」


「最近、この辺に危ない霊が来てるらしい。俺らに害はないがあの少年は見えるから危ないぞ。注意しとけよ」


「なんで、俺が?」


「友達、じゃないのか?」


「それは……、まぁそうだが」


「なら気をつけてやれよ。それに子供を守るのは大人の義務だろ?」


 そう言い残すと疫病神は去って行った。


「大人の義務、か」



「あいつ、今日は遅いな……」


 あのボウズと会ってから数週間。

 ボウズは毎日の様にここに来て、しばらく居たら帰る。

 そんな日々が続いていた。


「……ったく」


 なんでか知らないが、嫌な感情が浮かんでくる。


(人を待つなんてガラじゃないな)


 家を出た、数週間ぶりに。

 

(まったく、アイツが来てからは何処も出なくなったもんな)


 アイツが来てからの日々を思う出していた、そう悪くない日々を。

 自分の顔がニヤけているのが分かる。


(たまにはアイツに優しくしてやるのもいいか)


 そんな事を考えながら歩いていると、


「おじさん!」


 路地を抜け、こちらにアイツが走って来ていた。

 その顔には恐怖が現れていた。


「どうした!?」


「助けておじさん!」


 アイツの後ろを、黒いフード付きのコートを来た男が追ってくる。

 ソイツの体は透けていた。


「なんだお前!?」


 ボウズを背に隠すようにして、その男に問いかける。

 しかし男は、独り言をブツブツというだけで俺の言葉に反応すらしない。


「おい、聞いてるのか?」


 手を伸ばそうとした時、そいつの右手が横に薙いだ。

 銀色の鈍い光が虚空を横切る。

 とっさに手を引っ込めた。


 男の手には、ナイフが握られていた。

 いや正確には、手とナイフが一体化している様だった。


「ブツブツ……」


(こいつ、ヤバいな)


 もしかしてコイツが疫病神の言っていた男か。

 そう気づいた俺は、


「ボウズ」


 彼の手は震えていた、当然だろう、こんな状況なら大人だって怖いはずだ。

 それでも、きちんと立ってここに居るそれだけでも凄い勇気だ。

 

「いいか、聞けボウズ」


「う、うん」


 声が震えていた。


「今から俺がアイツの動きを止める。その間にあのアパートに逃げるんだ」


「で、でも」


「いいから、俺の言う事を聞くんだ!」


 少年の肩がビクッと跳ねた。

 

「いいか?」


 俺の目線は前を向いていて、ボウズの顔を見れなかったが頷いたのが分かった。


「行くぞ!」


 俺はナイフ男に突っ込んだ。

 左手の自由を奪う様に、抑える。


「死ね、死ね、死ね、死ね」


 男はそう呟いていた。

 後ろで、タッ、タッ、タッと走る音がした。


(よし!)


 ボウズは逃げた様だ。

 良かった。


「死ねよ、なんで俺が死んでお前が生きてるんだよ。死ねよ、死ね、死ね」


「うるせえよ、他人を巻き込むんじゃねぇ!」


 男の力は思った以上に強く、抑え込むだけが精一杯だった。


「くそっ!」


「死ね、死ね、死ねェェェェ!」


 男の左手が俺の手を離れた。


「しまった!」


 そのまま俺の首を。


「ウグッ!」


 ナイフが切り裂いた。


「フヘ、フヘ、フヘヘヘヘ」


 俺の脳裏にある光景が浮かぶ、車の運転をしている様だった。


「あなた、今日は天気がいいわね」


「おう、そうだな。いいピクニック日和だ」


「わーい、ピクニック!ピクニック!」


 助手席には愛する妻、それと後部座席で跳ねる愛しい息子。


「あんまり暴れるなよ」


 そう言った時。

 右から激しい衝撃を受けた。


「あなた!」


 体を押しつぶされていく妻。

 車は反動で左の壁にぶつかる。

 その衝撃で運転席が押しつぶされ、そこで俺の人生は終わった様だ。


「そ、うか」


 思い出しながら、俺は二度目の死を迎えた。



「おい!」


 目の前には疫病神が居た。


「なんだ!?」


 ビックリして飛びのいた。


「なんだはこっちのセリフなんだがね、まったく」


 目が覚めたのは俺の部屋だった。


「あれ? なんで?」


 疫病神は頭を掻きながら、


「忘れたのか? お前、消されかけたんだぞ」


 いや、そこは覚えている。


「それは覚えているんだが、なんでここにまだ居るんだ? 俺は死んだんじゃないのか」


「お前、自分が幽霊なんだから死なないだろ? まぁ、消えかけてたのは確かだけどな」


「ならどうして?」


 疫病神は得意顔をして、


「お前、俺を誰だか忘れてないか? 神だぞ、神」


「なんかしてくれたのか?」


「大変だったんだぞ、あの子から連絡を受けて消えかけているお前をここまで運んで、復元させてと大活躍だったんだぞ」


「そうなのか」


「感謝しろよ」


「おう、助かった」


「雑だなぁ、ったく」


 疫病神は笑いながらそう言った。

 

「まぁ、そんな事よりもっと礼を言う相手が居るだろ」


 そう言って疫病神は、俺の後ろを指差した。


「ボウズ……」


「おじさん、良かった……」


 少年は泣いていた。


「そんなに泣くなよ、男だろ」


「おじさんも居なくなったら、僕、寂しいもん」


「ったくよ、もう大丈夫だから泣くなよ」


 グスグスと鼻を鳴らして、


「うん!」


 そう力強く頷いた。



 あれから数日、あのナイフ男は消えたと疫病神から聞いた。

 ツテを使って専門家に頼んだらしい。


「そういえば気づいてたか?」


 疫病神はいつもの様に、酒を飲みながら言う。


「何が?」


「あの少年の腕輪だよ」


 そういえばいつもつけてるなと思い出す。


「ああ、なんか付けてるな」


「アレは親の葬式に来た女に貰ったそうなんだが、たぶんあれのせいで霊が見えるんだと思うぞ」


「そうなのか?」


「ああ、なんか凄い力を感じるんだよ、アレ」


「神さんが言うなら間違いないんだろうな」


「お前さんから言ってやりな、ここでだけ付けとけって。そうじゃないとまた同じことになるから」


「分かった」


 貧乏神はお猪口に酒を注ぐ。


「そういえば、お前さん。自分の過去を思い出したんだろ?」


「ああ……」


 辛い過去。


「お前なら大丈夫だと思うが、あまり気にするなよ」


「ああ、大丈夫だ」


 ただ、楽しかった過去でもある。

 彼女と会った日、結婚式、そして父親になった日。


「あんまり後悔すると、あの通り魔と同じになるからな」


「やっぱりそうか」


「分かってたのか」


「なんとなくね」


 そうか、と呟きながら酒を飲み干す。


「じゃあ、戻るわ」


「おう、またな」


 彼は笑いながら、


「お前もすっかりここの住人だな」


「そうか?」


「今、またな、って言ったろ?」


「あっ」


「じゃあ、またな」


 いつの間にかここが居心地のいい場所になっていた。

 それは、ここの住人だけじゃなく。


「おじゃまします」


「来たな」


「うん!」


 そう、このボウズの事も。

 裏野ハイツの住人、第5弾です。

 この話は霊からの目線の物を書こうと決め、そういえばあんまり子供メインの話も書いた事無いなと思い、両方を合わせた結果、出来上がった物です。

 

 初めの構想は霊は子供の方で、そこに訪れる裏野ハイツの霊達みたいな話にしようと思ったのですがその先が明確にイメージできなかったので今の様な話になりました。

 


 それと途中で考えていた最後の構想も今とは違い、おじさんの霊は完全に消え去り、その代わり少年から霊が見える能力と記憶を消しさる、しかし少年の心にはその思い出が残り裏野ハイツの前を通ると胸が痛くなる。

 そんな話でした、しかしなんとなくバットエンドを避けたくなり、今のような話になりました。


 ついでに言っておくと、おじさんが亡くなった事故ですがあのナイフ男が引き起こした物で人を刺殺した跡で逃げている最中に起こった物です。

 あと、おじさんの家族ですが子供も含め全員亡くなっています。

 ですが子供の亡くなる描写を書くのはやはり気が引けたので、止めときました。


 それとさらに補足。

 裏野ハイツシリーズは全部繋がっている設定なのですが、少年の腕輪。

 あれをあげた女性は、他の作品で出てきた女性だったりします。

 まぁ、その辺の話は裏野ハイツ最終話で書こうと思っているんですけどね。


 では補足はこんな所で終わります。


 ここまで読んで頂きありがとうございました。

 必ず後書きで言っていることですが、感想、評価等々お待ちしています。

 読んで頂けるだけでもテンションは上がりますが、評価等があるとうなぎのぼりになったり、もっと精進しなけれなと大変有難いです。

 よければお願いします。

 

 では、ありがとうございました。

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