表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

プロローグ

「♪〜♪〜…今日は何を聞こうかな〜♪」

私、佐波琴音(さなみことね)の日課は、学校から帰った後、動画サイトにて好きなビジュアル系バンド『WAVELET』のPVを見ることである。

パソコンが立ち上がるのを今か今かと、私はマウスを手に待ちわびていた。

『WAVELET』はボーカルの響、ギターの十華とうか、ベースの彼方、ドラムの隆二で構成された4人グループである。

昨年メジャーデビューを果たし、人気もみるみる上がっていった。

もちろん、琴音はメジャーデビューをする前からファンであった。

しかし響に対してはファンではなく、恋愛対象として見ていた。

こんな人が彼氏だったら…もう他に何もいらないよ…。

と、幸せに満ち、潤んだ目で画面に見入っていた。


ある日、いつも同じ画面を見ている琴音のことが気になったのだろう、母親が声をかけた。

「いつも、何を見ているの?」

その問いに琴音は満面の笑みで答えた。

「『WAVELET』っていうビジュアル系のバンドのPV。かっこいいんだよ〜♪特にボーカルの響がね〜…。」

と、響について語ろうと母親の顔を見たが、母親の目は興味津々の目ではなく、何かを疑うような目であった。

「お母さん?」

「あ、あぁ…ごめんね。ちょっと、パソコン貸してくれる?」

「うん…。」

琴音は不思議そうな顔をして、母親を見やる。

そんな変な顔するほど変なバンドじゃないのになぁ…。

「…ごめんね。はい、使っていいよ。」

用事が済んだのか、母親はイスから立ち上がった。

「何を調べてたの?」

「ちょっと色々…それより、かっこいいバンドね。」

「…うん。」

母親の、どうもすっきりしない態度に琴音は首をかしげた。

でも今は、何も聞かないでおこうと、静かに思った。

その夜、母親は電話帳を片手に、どこかに電話をかけていた。

「…はい、『WAVELET』の響について…お願いします。」

えぇ!?

琴音の自室は居間と向かい合わせになっているため、電話などの声もすべて聞こえた。

思わず声を上げて驚きそうになったが、必死にこらえた。

しかし断られたのか、今度は母親の食い下がった声が聞こえてくる。

「お願いします!私…あの子の母親かもしれないんです!」

嘘でしょう…!?

琴音は今聞こえたすべてを否定したかった。

何で…もし、そのことが本当だったら…私は、響と兄妹かもしれないっていうの…?

自分が育ってきたなかで、今まで母親が妊娠したことは一度もなかった。

ということは、母親の言うことが本当ならば、響は琴音の兄になるというわけだ。

嘘であってほしい…お願いだから…。

明かりの灯ってない、暗い部屋の中で、琴音は静かに祈った。


その1ヵ月後に事実は告げられた。

探偵からもらったのであろう、報告書を手に、母親は口火を切った。

「…いい?琴音。今から話すことは全部本当のことよ。」

テーブルにつき、かしこまった姿勢で母親は話し始めた。

「琴音がいつも見ていた『WAVELET』のボーカルの響は私の一人目の子供。つまり…琴音のお兄ちゃんよ。」

「え…。」

「響に会ってDNA検査もしたわ。やっぱり、一致していた…私の子供だった…。」

段々、目に涙を浮かべてきた母親に、琴音は怒りを覚えた。

「どうして…何で響が私のお兄ちゃんなの!?ずっとそんなこと言ってなかったじゃない…私は、一度も会ったことないよ!?」

「響が生まれたとき、私はまだ高校生だった…当然、育てられなくて…産院の前に捨てたの…。」

信じられない…。

「無責任すぎるよ…大体、高校生だったくせに子供なんか作って…それで響にまで会って…ひどいと思わないの!?」

「私だって本当は自分で育てたかった…でも、無理だったの…。親にも言えなかったし自分だってまだ子供だったから…。」

ついに涙を落とした母親の頬を琴音は張ってしまった。

「そんな人、私の母親なんかじゃない!!!」

と、乱暴に自室のドアを閉め、部屋の中で泣き始めた。

こんな…こんなこと…信じられないよ…。

机に置いてあった『WAVELET』のCDを手に取った。

響の綺麗な笑顔がそこに写っていた。

この人が…私のお兄ちゃんなんて…。

































評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ