先行
「いいか作戦はこうだっ!」
バウロの号令に団員全員の目と耳がこっちを向く。
命がけの作戦の前だ。その目は真剣にぎらついている。
「まず、若がオットーと共に、ギルドの監査官殿と治癒士を一人乗せて村に入る。クモ共は、まず攻撃はしてこない。俺たち全員が罠の中に入るのを待ってやがるからな。先に若らを攻撃して、俺たちが逃げ帰っちゃ困るからだ。
その際、俺たちは6人三班に別れ、手前のデカグモがいる森に入って、まずデカグモ以外のクモを狩る。
先にデカグモを倒すと、その下が統制を失ってバラバラになるかもしれないからだ。
残りの予備兵と治癒士は森の外縁部に結界陣を敷いて待機だ。へたった奴はそこに戻って治してもらえ。
あと、ビスター、サイロン、ヒュージン、フラウバン、使い魔の二匹を残りのデカグモの監視に置け、一匹は拠点、もう一匹は若につけろ」
簡易結界陣は、よく狩りに多用されるアイテムで、先端に結界石をはめ込んだ杖のような道具だ。地面に刺して使う。
杖から周囲10メールを、術者を権利者とした認許結界で囲むことができる。一本5万ゼルとなかなか高額だが充魔すれば繰り返し使える優れものだ。しかし、一回の充魔で1時間ほどしか作動しない上、充魔は一般魔導士1人分丸々の魔力がいるけど。コスパ、良いのか悪いのか。
「欲を言えば眷属を殲滅しておきたいが、出来る可能性は低いだろう。
デカグモと戦うことになったら、ザイケン班を中心に、3班で陣形を組む。アタックはザイケン班、カバーは俺の班、ダナ班はフォローだが、出来るならその他の殲滅を優先してくれ。
心配するな。
若が言うには、クモ自体はそんなに強くないそうだ。気を付けるのは上から降ってくるのと、噛み付きの毒とあの糸に絡まることだ、ビスターとフラウバンが【炎刃】と【火の加護】使えたな?あれがあれば大分有利になる。討伐にどんだけかかるが解らんが、あまり時間は掛けてられんからサクサクやるぞ。終わり次第、遠い方の森、岩陰の順に同じ作業だ」
団員たちの目には怯えはない。伊達に何年も傭兵やって無いということだな。
・・・3人の予備隊員は、しかたないか。目が泳いでら。
バウロがこっちに視線を振ってきた。俺もなんか言えってか。
とりあえずザイケンを呼ぶと、その肩によじ登る。肩車。なんか業腹だが、小さいと皆から見えんからな。おお、さすが大男だ、皆を見渡せる。・・・ザイケン、なんでそんな自慢気なんだ?
「俺たちは先に村へ入って陣を敷く。オーダ班の確認はこっちに任せろ。クモが異変に気付いたか、時間が掛かった場合、村かそっちにくる可能性はあるかもしれない。そっちで捌けるようならそれでいい、捌けないようなら村へと撤退してこい。そんときはしょうがない、俺が狩る。そんときは、お前らの分け前が減るから、家に帰って魔物よりもっと怖いかーちゃんに『なんでもっと稼いでこなかった』って絞られる覚悟しとけ」
傭兵たちが困った様に笑う。
ここにいる傭兵の半分ほどは家庭持ちだ。稼げないと家族に威張れない。ほんとに魔物よりかーちゃんが怖い奴だって、何人かいる。
「何笑ってる?フラウバンお前のことだお前」
といったらウケた。
フラウバン、情けない顔になって、周りに肩叩かれてる。
フラウバンの嫁はうちの元傭兵で、その気の強さは団内でも有名だ。
「家族に土産持って帰ってちやほやされたい奴、気張れよっ!
ルミネル(傭兵団雑務)やシュナ(ギルド受付嬢)にイイ格好したい奴も気張れよっ!
帰ったら宴会だっ!呑みたい奴は呑むまで死ぬんじゃねえぞっ!」
「「「「応っ!!」」」」
ノリがいいなぁ、この傭兵団。
すかさずバウロが、
「いくぞっ!!」
と、号令をかけた。
―――
先行して、村を目指す。
御者台には青い顔したオットー。
後ろの幌の中は、載せていた物資は他の馬車に半分ほど移し替えて、俺とギルド監査官のウザン氏と治癒士のポーレさんが乗っている。
「ワフっ」
おお、そうだな、お前もいたな。馬車の横にはフラウバンの使い魔である魔犬フォッサが並走している。
かなりの大型犬で長い毛がもさもさした犬だが、正直元の世界でこんな犬種見たことない。なんせ暗い灰色の毛並みの毛先がちょっと赤っぽい。この世界の特有犬なのだろうか?感触は?ちょっと触らせてみ?(以前触ったことあるが)
「ハッハッ」
まさか俺の思考が伝わったのか!?
フォッサは器用に荷台に飛び乗ると、俺の近くで寝そべった。きっと俺の目を見て察したんだな?頭のいいやつだ。バンダよ見習え。
さすさす。
撫でる。
さすさす。
撫でる。
これが至福というモノか。
使い魔と主は個人差はあるが、一部感覚が共有出来たり、漠然とした意思疎通が出来たりするらしい。簡易的な連絡手段として機能する上、主人の魔法性を共有するといわれている。つまり、主人が使える魔法を使えるようになるそうなのだ。
すげー。
あと何処にいても主人のところに瞬間移動出来るらしい。
使い魔さんまじすげー。
しかし、本当の使い魔を持つというのは、大変難しいことらしい。
魔法職種でも使い魔を持ってるのは10人に一人くらいなんだそうだ。そもそも使い魔と魔法職種は関係ないと、フラウバンは言ってた。自分の使い魔と出会えるか出会えないか、なんだそうだ。フラウバンはフォッサと出会ったときに10年来の友と再会したような気になったらしい。フィーリングなんだそうだ。使い魔じゃないフレンドなんだ友達なんだ、調伏契約は邪道だなんだと熱弁してたな、フラウバン。女房の前でもあれ位語れりゃ世話ねーのに。
おお、この緊迫した状況の中、ついつい寛い・・物思いに耽ってしまった。
我に返って、他のお二方を見る。
両者とも顔色は優れない。
過ぎた緊張は失敗も不運も招きかねない。
「お二人、実戦経験は?」と気軽に聞いてみた。
「10年ほど前までは冒険者をしとりましたが・・・」とウザン氏。
「最近は訓練のみで実践には出とりません」
40半ば位に見えるが、所作や体格から中々の腕利きであったことは見て取れる。自信が無さそうな発言に聞こえるが、雰囲気に実戦への興奮も混じってることから察するに、結構自信があるのだろう。
問題は・・・
「わひゃ!わたしはっ、あの、無いです!その、経験とかっ!」
戦時でなくても問題ありなほど、上滑りしっぱなしなのが、若干18歳になったばかりという治癒士のポーレお姉さん。
顔色が青を通り越して白くなってる。あれ?白の方が悪いのか?青の方が悪いのか?
「そんなに心配することないですよ」
と緊張を解こうとするが、暖簾に腕押し、今にも泣きそうな目でこっちを見てる。フォッサ、撫でますか?
「まあ、初陣でアレですからね。無理もないですけど」と笑いかけてみる。
確かに、今まで戦場に身を置いた事のない人間の初陣がギルドホームとおんなじ大きさのクモではそうもなるか。至極常識的な反応だと思うよ。
治癒魔法の習得は、魔法修練の中では最も難しいと聞く。
18歳の若さで2級治癒士資格を取り、ギルドの緊急支援班に正式任命されたばかりで、初任務なんだそうだ。普段はギルドの医療室勤務なんだって。なんか懐かしい響きだな。
「・・・(ブルブル)」
武者震いじゃないよな・・・。町にいたときはキリッとした仕事のできそうな人なのだが、今は可哀そうなほど見る影がない。
とりあえず、唐突に彼女の手を取って、出掛けに女将さんに貰ったおやつの飴玉を握らせた。
「あ・・ありがとう」
いきなり手を取ったのでポーレさんは吃驚していたが、すぐに笑ってお礼を言ってくれた。
俺が飴玉を一個口に含むと、ポーレさんも手の中の飴玉を口にした。
「ウザンさんもどう?」と聞いたが、ウザン氏は「すいませんが、甘いものは苦手で・・・。ありがとうございます。」と遠慮してくれた。
オットー君がちらちらと馬車内を見てくるが、あえて気づかぬふりをする。
子供に飴玉ねだるなよ。後一個しかないんだよ。ウザン氏が遠慮してくれて喜んでんのに。
ポーレさんも少し落ち着いたのか、表情が柔らかくなった。
「アトル君は・・・すごいね」
「うん?」なにが?
「こんな時でも、落ち着いていて、私を気遣う余裕まであって・・・」
ポーレさんは悔しそうだ。
不甲斐無さを感じているのかもしれない。ギルドの緊急支援班は志願制だ。中規模からの天災や魔物災害による被害の支援に出動するのが仕事。高い使命感や責任感がないとやっていけない。
「人に気を遣えば、自分に使う気は無くなりますからね。気も使いようですよ」
「そう、ですね」とポーラさんは苦笑した。
また子供に気を使わせてしまったと自嘲しているのだろう。
「もうすぐ村に着きます。村の中には怪我人が居るかもしれません。俺は治癒術使えないので、ポーレさんお願いしますね」と言ってみた。
「はいっ、それは任せてくださいっ!」
おお、ちょっと食い気味にきたな。治癒術には自信あるんだな。
自分に出来ることを出来る分だけ。
それが出来れば一人前。
がんばれ。