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傭兵の為に鐘は鳴る  作者: すいきょう
第二章 或る旅人達の協奏曲
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ウィカの旅⑧

あたしたちの話が聞こえていたのか、休憩所内にいる皆があたしの方を見て、次に部屋の隅で座っている箱馬車の3人の男の方、


・・その中でも一番若い男を見た。


まあ10人以上もいるには狭い部屋だからね、会話の声は聞こえちゃうよね。


「いやいやいやいや・・・ちょ、ちょっと待てよ、なんで急に俺が出てくんのさっ」


皆に見られてる若い男・・お兄さんは、まだ10代後半くらいかな?

この建物の中で言えば、あたしの次に若いんじゃないだろうか?

あ、お姉ちゃんも若く見えるよ。大丈夫。


「いくらなんでも、そりゃねぇよお嬢ちゃん。確かに外には出たけど厠には行ってねぇから見つけられなかっただけさ。それだけで犯人にされちゃたまんねぇよ・・・」

お兄さんが立ち上がると、皆お兄さんから離れる様に後ずさった。


「こりゃ困ったね」とお兄さんが頭を掻く。


エイニスの果物屋のおじさんもよく『こりゃ困った。女房に怒られちまう』が口癖だったよ。よくおまけしてくれたんだよね。元気かなぁ。


「別になんで見てないのかな?とは言ったけど、犯人って言ったわけじゃないよ?」

犯人だとはまだ言ってなかったと思うけど。


「・・・あぁ、なんだ、そうかー。びっくりさせないでくれよー」


そう言ってお兄さんは手を振ると、安心したのかまた座ろうとした。

皆も、ほっとした顔で息を吐いた。




「でも、あのおじさん殺したの、お兄さんだよね?」



「・・・は?」

床に腰を下ろそうとしたお兄さんが止まる。

皆もまたぎょっと一斉にこっちを見た。一斉に見ないでほしい。なんか怖い。


「・・・ちょっと、あんまりそんなこと言うもんじゃねぇぞ、ガキ・・」

ギロリと睨まれた。

お兄さん、怒った様だ。

でもアトルも言ってたもんね。「図星つかれりゃ大体の人は怒るさ。・・ウィカ、この1週間でちょっとぽっちゃりしてきたんじゃない?アイタッ」

・・・いらんことを思い出してしまった。


「・・・ちょっ、ちょっと待ってくれ、ウィカ。一体どういうことなんだ?」

ナビーが随分慌てている。


「どういうって・・・あのお兄さんが、あのおじさんを殺したって言ったんだよ?」

それ以外に言いようが浮かばない。


「うんそれ、それを詳しく説明してくれ」


「く、詳しく・・・?」


「そう。なんであの男が殺したと思ったんだ?別に外に出たから、遺体を発見しなかったから犯人って訳じゃないんだろ?」


「・・・?。殺した人なら、最初に発見する必要ないんじゃないの?」


「・・いや、世の中には第一発見者が実は犯人ってことが・・・あるにはある」


「?。なんでいちいちそんな面倒な事するの?最初から、しーらないって顔しといた方が良くない?」

人を殺したことを隠したいのに『俺が見つけましたっ』って言うっておかしくない?

あたしが不思議そうな顔をしていると。


「あー・・うん。それはなんというか・・」

ナビーが困った顔をしていると、

「ウィカちゃん。そう、一番最初に発見した人なら、自分が捕まらない様に嘘を付けるかもしれないでしょ?乗合馬車の切符と一緒。盗賊が殺したのを見ましたとか言って、自分に疑いがかからない様にすることも、まあ、不可能じゃないって話よ。魔術捜査ならすぐバレるんだけどね」

お姉ちゃんが教えてくれた。


「あ。あぁー、なるほどー。さすがお姉ちゃん、賢いねっ」

「・・え、ええ。ありがとう。ウィカちゃん」

何故かお姉ちゃん、ちょっと困った顔で笑った。

なぜか周りの人たちも、凄い困ったような苦笑を浮かべている。


(なんかあたし変な事言ったかな?)

あたし、説明とか苦手なんだよね。アトルも「ウィカの説明は良く分からん」って言ってた。ほんとアトルは察しが悪いんだから、困っちゃうよね。ディーはすぐ解ってくれるのに、何でかなぁ。


「・・・じゃあ、ちょっと順番に訊いていいか?ウィカ。あの殺された男は一体いつ殺されたって言うんだ?」

ナビーがまたも小難しい顔をしながら訊いてきた。


「・・・さぁ?」


あたしがそう言うと、皆が一斉にはぁ・・って溜息をついた。

逆にお兄さんは、今度は笑い始めた。


「・・・・さぁって、ウィカ・・・」

ナビが顔に手を当て首を振っている。それなんかムカツクー。


「なによぅ!そんな事知ってる訳ないじゃない!大体なんで殺されたおじさんが殺されちゃった時間が関係あるのよー!」

なんか言いにくいなぁ。


「なんでって・・」


「むー・・そんなの別にいつだっていいじゃない!大体、あのおじさん殺されてそんなに経ってないんだから、殺されちゃった時間だったら・・見つかったのが夜明け過ぎだから・・・せいぜい夜明け前の3~4時間までのどこかじゃないの!」


「え。・・・それは・・なんで?」

ナビーがきょとんとした顔で訊いてきた。


「なにが?」


「なんで、夜明け前の3~4時間の間なんだ?」


「なんでって・・人は死んじゃったら・・・そう、『シゴコウチョク』があるんだよ。師匠がそういってたもん。3~4時間ほどで口が、7時間ほどで手足の関節が固まっちゃうんだよ。ナビー知らないの?」


「・・・すまない。それは知らなかった」

難しい顔で、自分の顔を撫でまわすナビー。


「殺されたおじさんは冷たい雨の中で倒れてたから、ちょっとシゴコウチョクが早くなるの。御者のおじさんが、殺されたおじさんを厩に運んであげてた時、殺されたおじさんの口を閉じてあげてたし、ぐでんとして運びづらそうにしてたでしょ?

固まっちゃうのは顎が一番早いって師匠言ってたから、ならまだシゴコウチョクが始まってなかったって事だよね?だから姉妹のお姉さんが発見した夜明け頃より3~4時間前なのっ!わかった!?ナビー!?」


「あ、はいっ。分かりました!た・・・確かに、戦場で死んだ奴の遺体運んでた時、時間経った奴のは固まってわ・・・」

ナビーがなんか怖い事言ってる。


「先生先生っ!確かこれって・・・法医学とかいう分野じゃなかったですか?」

お姉ちゃんがナビーの服の袖をクイクイと引いて言った。

「・・・え、あっ!そういえば、確か前、王都で取材したな・・」

「あの法医学の先生、『魔術があれば手軽に犯人が解るから、法医学の発展が遅れて困る』って言ってましたよね・・・」


「?」

何の話?ホーイガク?


「しかし・・・ウィカ、よくそんなこと知ってたな・・」

「え、だってあたし戦士だし・・。師匠が『人を壊すも直すも大元は同じことだ。人について知れ学べ』って言ってたよ?」


「・・・俺も元戦士なのに気づきませんでした。すいません」

「・・・あたしも取材したことあるのに念頭にもありませんでした。すいません」

ナビーとお姉ちゃんに頭を下げられちゃった。なんで?



「おいおい、子供の、そんな嘘か本当か分からんような話を信じるのか?」

箱馬車の髭のおじさんが呆れたよう言ってきた。

お兄さんも何故かニヤニヤしている。


(む・・・あたし嘘ついてないもん)


「・・・いや、儂も遅く人を送ったことが事があるから、お嬢ちゃんのいう事は心当たりがある。

 確かに口を閉じようとしたのだが固くなってて閉じられないことがあった。

 アルザントでは人が死ぬとアンデッドにならぬよう速やかに棺桶に入れ火葬するのが普通だからな・・そのシゴコウチョクというのが我々に馴染みが無くても不思議ではない」


髭のおじさんと言い合いをしていた帽子のおじさんが賛成してくれた。

帽子似合ってるよ!(なんで建物の中でまでかぶってるのかは分からないけど)

聞いてた皆も納得してくれたのか、うんうん肯いている。



「・・・んで、それが、何の証拠になんの?」

お兄さんニヤニヤ笑いながら言った。


「証拠?」

ナビーに訊く。


「えっと・・・殺害時間は絞れたけど、あの兄ちゃんがやったって証拠にはならないなぁ」

「・・・だから、そんなの意味ないって言ったのに・・・」

「・・・そ、それは・・・確かに・・・」

ナビーがしょんぼりした。


「見つけたって言うなら、ホラさっきそこのおっさんも言ってただろ?第一発見者が犯人ってこともあるって」

そう言って、お兄さんは乗合馬車の乗客のお姉さん二人を見た。


「・・・えっ、わ・・・私が・・?」

遺体を最初に見つけた妹さんが吃驚した顔をする。


「なっ・・何言いだすのよっ!妹がそんなことするわけないじゃない!!」

お姉さんの方がお兄さんに食ってかかったけど、お兄さんはどこ吹く風で「可能性だけの話なら、なんとでも言えるってことさ」と肩を竦めた。


それはなんだかおかしい。

「ねぇ、お姉ちゃん。犯人が第一発見者になるのは嘘をつく為なんだよね?」


「え?・・ええ、捜査を間違った方向に誘導するのが目的じゃないと、まるっきり無意味な行為でしょうしね・・」


「殺されたおじさんを見つけたお姉さんは、どんな嘘をついたの?」


「わ・・私は嘘なんかっついてないっ!」

妹さんが怯えたように首を振って、お姉さんの方がギュッて抱きしめる。

「お嬢ちゃんっ!妹は嘘なんか何も言ってないわ!そんなこと言わないでちょうだいっ!」

お姉さん姉妹に怒られちゃった。


「うん。お姉さん、なにも言ってないよね。『発見した』って言う意味、全くないよね?」

あたしが言った意味、みんな解ってくれたかな?


「ああ、たしかに、意味ないなぁ。全く」

ナビーが呟くと、みんな賛成してくれた。

お姉さん姉妹も、あたしの言ったことを解ってくれたのか、ホッとしたように見える。


「・・・・そうなると、集めた証言から発見から3~4時間前までで外に出たのは・・・兄ちゃん、アンタしかいないな・・」

 手帳を見ていたナビーがお兄さんを指さした。

「母さんが言ってたけど、他人に指さしちゃいけないんだよ?」

 そうナビーに言うと。

 困ったような顔をして、手のひらを上にして、『さぁどうぞ』みたいな感じでお兄さんを指した。


「・・・ふーん。まあ、それはそれでいいや。じゃあ、そもそもあの殺されたおっさん、外で何してたんだよ?

 手帳のおっさんよ、確かあのおっさんが夜中に外に出ていくのを見てたんだよな?何時ごろだよ?」


何がそれはそれでいいのか、よく解らない事を言う。

気のせいか、このお兄さん、この状況を楽しんでるように見える。

犯人が解っていいんだろうか?


「誰がおっさんだ。俺はまだ26だ!

 ・・・そうだな、昨日は馬車の中で一日中寝てたせいか全然寝れなくてな。みんな寝ていたので、そっと外に出ようとしたから声を掛けた。『厠か?』と。そういたら『ああ』と言って出て行った。

 何時かと言われると・・時計もないし月も見えんから解らないな・・ここに来た時間からの感覚では深夜より少し前ぐらいだとしか」


「ふん。他に、殺されたおっさんが出ていくのを見た奴は?」

お兄さんが周りの人を見回しながら言った。


皆、『さぁ』とか『寝てたから』と言っている。

因みにあたしもぐっすり寝てしまっていた。だってお姉ちゃんが温かいんだもん。

師匠にも『一人なら野良猫みたいに反応すんのに、気心知れた奴が近くにいるとなんでか気き抜きやがる・・甘え癖がちっともなおりゃしねぇ』って怒られたことがある。


「俺しか起きてなかったと思うが・・」

ナビーが困ってしまったようだ。


「それが何時ごろかは分からねぇが、手帳のおっさんもこれで犯人候補に入っちまったな?」


「えっ?」

驚くナビー。


「誰も知らねぇなら、そもそもおっさんが嘘をついてるかもしれねぇじゃねぇか。おっさんのいう事信じるなら、殺されたおっさんは深夜前にココを出て、明け方・・前だっけか?殺されたあのおっさん何時間も外に居たことになる。

 あのおっさん外で何してたんだろうな?意外と、外にいる盗賊にでも合図してたのかもしんねぇ」


「そんな馬鹿な。こんな雨の中で」


「可能性の話さ。可能性ならどんなことでも言える。

 例えば・・盗賊何のの話よりかは、手帳のおっさんがあのおっさんを殺して、嘘をついている・・の方がありそうじゃないか?」

楽しそうに喋るお兄さん。


「ぐっ」

わざわざ『ぐっ』って言うナビー。

まあ、可能性の無い話では無いけど。

ナビーはすぐ顔に出るから、隠し事は無理そうかなぁ。


「お嬢ちゃんは、その辺どう考えてんだ?」


「殺されたおじさんが何をしてたかって、そんなの知らないよ?」


「ふん。じゃあ、やっぱりそりゃ誰が見ても不自然ってこったな。俺も怪しいかもしれねぇが、手帳のおっさんが嘘ついてる可能性も消えねぇな」


怪しいどころじゃないと思うんだけどな。


「ぐぬぬ」


ナビーが今度はぐぬぬって言った。

ふふ、ぐぬぬー!


「・・・馬車で寝てたんじゃないの?」

この雨の中、他に行くとこなんて厠か馬車しかない。

厠で何時間もがんばる・・・こともあるのかな?


「おいおい・・こんな雨の中わざわざ外に出て、馬車で寝るって、それどんな罰だよ。こんな嵐の中、うるさくて馬車でなんか寝れるかよ」


「ここよりかは静かだよ」

ちょっと狭いけど。


「あ?なんで?」

またギロリと睨まれた。

なんですぐにらむの。

目の奥は笑ってるのになぁ、怒ってるフリしてるのかな?


「ね?」

お姉ちゃんを見る。


「え?・・・・あ、ああ、そう言えばそうね!馬車には遮音の魔法陣があるものねっ」

「・・・遮音の魔法陣?なんだそりゃ、聞いた事ねぇぞ」

お兄さんがお姉ちゃんを睨んだ。ガラ悪いなぁ。


「駅馬車でも一等車にしか付いてないサービスだから、あまり普通の人は知らないのかもしれないわね」

お姉ちゃんも負けずに言い返す。


へぇ、あの魔法陣、一等車にしか付いてないんだ。

やっぱりお高いだけあるんだね。

銀貨3枚、流石だね。


「ねぇねぇ、おじさん」

乗合馬車の乗客の帽子のおじさんに話しかける。


「え、な、なんだい?お嬢ちゃん」


「昨日の夜、乗合馬車に行ったんだよね?」


「え、ああ、夜中厠に行った時に、馬車に貴重品を置きっぱなしにしたことを思い出してな、念の為取りに行ったんだよ」

思い出すように、しきりに顎を撫でながら答えてくれた。


「馬車の中に殺されたおじさん、居た?」

「ああ、馬車の中でなにやら書類を読んでおったな」


「な」ナビー。

「な」お姉ちゃん。

「な」ガラの悪いお兄さん。


「なんでそれを先に言わないんだよっ」

ナビーが帽子のおじさんに詰め寄る。


「な、なんでって・・それが事件と何か関係があるのかね?」

「へ?」

ポカンとするナビー。


「儂は確かにあの殺された男を馬車の中で見たが、この天気の上、儂もウトウトして折るときに思い出したもんだから時刻も解らん。深夜ごろだとは思うがなが正確に覚えているわけではない。夜の事などなんの関係が・・・」

そこまで言って、帽子のおじさんはさっきの話を思い出したらしい。


「・・・あ、先ほどの話では殺されたのは今朝がたではないのか、儂が見かけたすぐ後に殺された可能性も、あるのか・・・?」

「ん?俺が殺された男を見てから、そのあとに外に出たのは、発見者のお嬢さんとあの男だけだが?」


「ん?」

「ん?」


お互いを顔を見合わせて首を傾げる、ナビーと帽子のおじさん。

何言ってんのこの二人。


「・・・殺されたおじさんが、昨日から何回か外に出たって言うだけじゃないの?」

「・・・え、だって俺の手帳には・・」

「殺されたおじさんに話を聞いたわけじゃないんだから、殺されたおじさんの行動が抜けて当然じゃないの?」


「・・・・・ぉおふ」


変な声を出しながらナビーが膝をついて、落ち込んでしまった。

まあ勘違いは誰にでもある事だよ。どんまい。


「でもさ・・さっき俺が聞き込みした時、そんなこと言わなかったじゃないか」

ため息交じりにそう言うナビー。


「昨晩、いつ何しに外へ出たのかと聞かれたから、厠と馬車に行ったと答えただけだ」

帽子のおじさんは、機嫌を悪くしたのかつっけんどんに言った。


「・・・」

ガシガシと頭を掻くナビー。

うん、聞き方が悪かったね。


「・・・しかし、ウィカ、よくこの男が被害者を見てると解ったな?」

「え、だってさっきナビーが言ったじゃない」

「え」

「手帳見ながら、昨日誰が外に出たとか。帽子のおじさんが馬車に行ったとか」

「あ」

自分で言った事なのに・・。


「普通に考えたら、殺されたおじさんが馬車にいたなら、帽子のおじさんが見てないはずないよね?」


「・・・そうだな。」


「俺、タンテイには向いてないなぁ・・」とナビーが小さくつぶやいた。

タンテイってなんだろう?


「はっ、よしんば俺しかあのおっさんを殺す機会がなかったとしても、だ、この退避所に他の人間がいる可能性も無くは無いだろ?近くに盗賊が隠れてるとかなっ」

おにいさんはイライラしいるようだ。


「おいおい、こんな雨の中、外にいるなんて自殺行為だ。考えられん。この退避所には俺らしかいな・・」

あれ?もしかしてナビー知らないの?



「ねえねえナビー、あの箱馬車の中の人は数に入れないの?」



あたしが訊いた瞬間、ピタッ、っと皆の動きが止まった。


ナビーは眉を寄せあたしを見た。

お姉ちゃんもあたしの顔をじっとみてる。

乗合馬車の乗客のみんなは首を傾げている。

箱馬車の三人は・・・目を真ん丸にして表情が固まっていた。


「ウィカ・・・どこに人がいるって?」

ナビーが訊いて来たので、答える。


「このお兄さんたち、人買いの人だよね?あの箱馬車の中に何人かいるよね?」


ん?なに?この変な雰囲気。

不思議に思って、ナビーに話しかけようとしたら、


「お・・・お前ら、『奴隷狩り』なのかっ!?」

ナビーが叫んだ。



それと同時にいくつかの事が起こった。


 ナビーが壁に立てかけてあった槍を取ろうと踵を返す。

 箱馬車の3人のうち、壁際に座っていた二人のおじさんが音も無く立ち上がり短剣を抜く。

 ガラの悪いお兄さんが、槍を取るため視線を離し、背を向けたナビーに向かって投げた短剣を、あたしが師匠の形見の短剣で弾いた。

 弾くと同時に、腕のバンテージの内側に仕込んである暗剣を壁際のおじさん二人に向かって投げたら、上手く二人の短剣の持ち手と太ももに刺さった。あたし上手い!



(・・って、反射的に行動しちゃったけど、どうしよう。

ナビーも、戦士なのにウカツだよ。

・・・あ、もう戦士じゃなくてサッカだったね。なら仕方ない、のかな?)


そして場は膠着した。

お兄さんはすごい殺気を放ちながら、あたしを見てニヤニヤと笑ってる。

あたしのキライな顔。

最初に見かけた時からそんな顔してる。


(最終的にこうなるんじゃないかなぁとは思ってたけど、ちょっと場所が悪い。先に朝食食べておけばよかったな・・)


ダガーを構えて、お兄さんを見据えながら、あたしはそんな事を考えていた。

ウィカが力任せに謎を破壊しております。


ほんとはね、もうちょっとこう・・・頭良さげにやるつもりだったんだよぅ。

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