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傭兵の為に鐘は鳴る  作者: すいきょう
第二章 或る旅人達の協奏曲
83/87

ウィカの旅⑦

「・・・ンッンッ・・とりあえず、纏めたから聞いてくれ」

「はいはい」

ナビーがわざとらしく咳ばらいをすると、お姉ちゃんが仕方なさそうに肯いた。

「?」

なに?何が始まるの?


「まず、現場の状況だな・・・」


ナビーが手帳を見ながらしゃべり始めた。

ナビーがなんだか小難しい喋り方し始めたので、適当に纏めてみたよ。


街道の退避所は、四角い壁に囲まれた空間で、壁に面した一画にこの休憩所がある。休憩所の裏には屋根付きの厩舎もあって、お馬さんも休めるようになってる。


退避所にはあたしたちが乗って来た乗合馬車の他に、そこそこ大きな箱馬車も来ていた。箱馬車に乗ってきた人の話によれば、領都からアウベに行く輸送馬車なんだそうだ。


乗合馬車は休憩所に向かって左横の壁際に、箱馬車は休憩所の右側に止められている。

殺されていたおじさんは、乗合馬車に乗っていた身なりのいいおじさんで、休憩所の右側の壁際で背中を刺されてる状態で発見された。


発見したのは、乗合馬車に乗ってた姉妹の妹さんの方。厠の帰りに建物の影に人が倒れてるのが見えたんだって。

殺されたおじさんが倒れていた位置は、厠に行く途中には死角だし、雨のせいもあって厠へと気が急いているから気が付かなくて、厠から出てきたときにやっと目に入る位置だったね。


厠は厩の側の外壁にある・・・うん、匂うからね。外壁の一部をくり抜いてあって、出したものを外壁の外に掘ってある穴に落とすようになってる。うん、匂うからね。お馬さんのフンも、集めてそこに流すようになってる。フン、匂うからね。


・・・たぶん、犯人はあの人なんだろうけど。なんで?って聞かれてもうまく答えられないので言っていいのかどうか分からない。なんとなくだしね。あとでお姉ちゃんに相談してみようかな。あの人が盗賊で、襲ってきたなら返り討ちにして終わりで簡単なんだけどね。



「次は、容疑者だな・・」

ぺラリと手帳を捲り、ペン先を舐めるナビー。

なんだか、活き活きしてるなぁ。

「フキンシンですっ」ってお姉ちゃんに怒られてるのに。

ナビーの独り言の続き。


あたしと同じ乗合馬車に乗ってたのは・・・


まず、あたし、お姉ちゃん、ナビーの3人。


次、殺されたおじさん。背中刺されてたね。痛そう。たす1。


それで、商人をしていると言ってた帽子のおじさん。さっき箱馬車のおじさんとケンカしてたおじさんね。たす1.


えっと、領都の実家に里帰りする途中と言ってたお姉さんとその妹さん。妹さんの方が厠の帰りに発見したんだって。たす2


アウベに住む息子家族に会いに行った帰りだという老夫婦。たす2。


御者のおじさんは、深夜まで厩でお馬さんの世話をしていたそうだ。偉いね。たす1。


以上で・・・8人。

・・・ちがう、9人。8の次は9。知ってる。知ってた。大丈夫。


で、箱馬車の方は・・先に休憩所の中に居た、多分・・人買いの男の人達3人。

・・・でも、どうなんだろう?箱馬車の中の人たちは数に入れるのかな?これも後でお姉ちゃんに訊いてみよう。



「さて・・・、『誰が、いつ、どうやって』って奴だな・・」

ナビーが頭をガシガシ掻いた。


「“誰が”はわかりますけど、“何時”と“どうやって”っては、“さっき”“ナイフで”じゃないんですか?」

お姉ちゃんが不思議そうにナビーに訊いた。


「チッチッチッ。わったしの記憶が確かなら!殺された男性が最後に目撃されたのは昨夜未明。俺が目撃した間違いない。それ以降、遺体で見つかるまで誰も彼を見ていない。・・・ということはだ、それ以降にこの建物から出た人間が犯人という事になる」


「ナビー・・なんでカッコつけて変な喋り方してるの?」

『わっーたしのきおくがっ・・』って、なんか変な言い方ー。へんー。あ、目を逸らした。


「・・・ウィカちゃんもうやめてあげてね。先生、恥ずかしがってるから。

・・・それで、殺された男性が最後にここから出て行った後に殺されてしまったのなら、犯人はその後に出て行った人なんですよね?それって・・・」


「・・・うむ。そうだ。ここに居るほぼ全員が一回は外に出ている。出てないのは・・」


「あたしだけ、だねぇ」

だって、別に外に用事無いもん。ただでさえまだ雨降ってるのに。厠もまだ行きたくないし。


「うーむ。聞き込みの結果、外に出た人間を時系列的に並べればこうなる」


殺された男(昨夜未明)

箱馬車の男①(厠)

箱馬車の男①帰還

乗合馬車の男(帽子)馬車に貴重品を忘れて取ってきたついでに厠

乗合馬車の男(帽子)帰還


ふと疑問に思った。


「・・ねえ、ナビー」


「その次は・・・ん?なんだ、ウィカ」

ナビーは手帳を捲る手を止め、あたしを見た。


「おじさんが殺されたのは、最後に見かけた時から後だとしても、何時殺されたかは判らないんじゃないの?」


「・・・」


「例えば・・殺されたおじさんが、実はナビーのイビキで寝れなくて馬車の方で寝てて、朝起きてきた時に殺されちゃったなら、殺されたおじさんが建物を出てった後に建物から出たことある人の順番って、そんなに関係ないんじゃないの?」


別に乗合馬車の扉に鍵をかけ得てある訳じゃないし。

入ろうと思ったら入れる。

そこで寝ようと思ったら寝れる。


「・・・あ」

「・・・そういえば、そうですね」

お姉ちゃんも賛成してくれた。


「んん?ということは・・・」

ナビーが顎に手を当て、うんうん唸り始めた。


「・・・殺されたおじさんが倒れてた所は、厠に行けばまず目につくよね?じゃあ、死体を見つけたお姉さんの前に厠に行った人は、殺されているおじさんを発見しなかったのかな?」


「え、ちょ・・ちょっと待って・・」

ナビーは慌てて手帳を捲った。

「あ、あった。発見者の前に外に出たのは、箱馬車の3人の男の内の一人だ。一番、若い男だな。厩舎の方へ馬の様子を見に行ったと言っていた」


「厩舎の出入り口と厠は目と鼻の先だよね?なんで見つけられなかったんだろうね?」


ナビーがポカンとした顔であたしを見てる。

お姉ちゃんもポカンとした顔であたしを見てる。




「・・・え、・・・もう犯人解っちゃったの?」


ナビーが呆然と呟いた。

ミステリーブレイカー・ウィカ


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