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傭兵の為に鐘は鳴る  作者: すいきょう
第二章 或る旅人達の協奏曲
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ウィカの旅⑤

あたし達が乗合馬車に乗って6日目、乗合馬車が領都リンドべリアへの道程の半ばに差し掛かったあたりの事だった。


「すごい雨だね~」


大粒の雨粒がひっきりなしに馬車の窓を叩いて外が全然見えない。馬車の屋根にも雨が当たってるから、車内も大層うるさいのかと思えば、そんなことは無かった。


「そうね、ほんと凄い雨ねー。・・・ああ、音はね、結構、苦情があったみたいでね、簡単な遮音の魔法陣が描いてあるんだって。ホラあれ」

そう言ってベルルさんは天井の真ん中を指さした。


たしかにそこには直径30セルほどの円形の図形が描いてあった。


「あれが、しゃおんのまほうじん?」

「ウィカちゃん見るの初めて?」

「良く分からないのは・・見たことあるよ(教会の地下でだけど)」

「そうよねー。普通あんなの良く分からないわよねー」


この6日、雨が降ったりやんだりの不安定な天候の中、乗合馬車は街道沿いの町や村や待避所で適度に休みを取りつつ順調に街道を南下していた。

リンドべリアまでは乗り換えなしで行けるらしいので、車内はすでに勝手知ったる我が家みたいになっていた。


ベルルさんとも、とっても仲良しになった。

ベルルさんはとーっても物知りで、あたしが不思議に思ったことを訊いたら、なんでも教えてくれる。なんか、お姉ちゃんみたいだね。えへへ。


ナビーは・・四六時中寝てる。

食事時や休憩時の度に外に出て「うぉー」とか叫びながら槍を振り回して身体を伸ばしてるけど。なんかおじさん臭いね。実際おじさんだけど。


「・・・先生、まだ26なんだけどね・・・」

え。

「結構、老けて見えるのよね・・。髭剃ったら?っていつも言うんだけど・・」

ベルルさんが困った顔で頬に手を当てた。

「・・・26は、おじさんじゃないの?」


「・・・・」

「・・・・」


「・・・そう・・そうよね、ウィカちゃんからすれば・・20代は・・」


(あ!しまった!ベルルさんも・・)


ベルルさんが両手で顔を覆いつつ、とっても悲しそうな顔をしたので、

「ベルルさんは、“ベルルお姉ちゃん”って感じだよ。本当のお姉ちゃんみたい」

慌ててそう言うと、

「・・・お姉ちゃん・・お姉ちゃん!・・私一人っ子だから妹が出来てすごく嬉しいなぁ!」って頭を撫でてくれた。


「じゃあ、これからはお姉ちゃんって呼んでね?」

改めてそう言われると・・

「えぇー・・なんか恥ずかしいよぅ」

「だーめー!ちゃんと呼んでくれないと返事しないからね!?」


「・・・おねえちゃん?」


ベルル・・お姉ちゃんが、満面の笑顔でギュウしてくれた。

「えへへ」

「うふふ」


「・・・お前ら、なんか楽しそうね・・」

前の座席に座ったナビーが眠そうな目でこっちを見てた。


馬車旅、暇なことも多いけど。

でも、あたしは結構楽しい。



ビュウゥウ


大きな風の音がしたと思うと、馬車が大きく傾いた。いや横滑りかな?


「ひゃっ」

「わわっ」

「うぉっ」


この6日で馬車の振動とかにも慣れたつもりだけど、今のは流石にビックリした。

あたし達3人以外の他の乗客も、不安げな声をあげている。


その時、御者席の後ろに付けられている窓が少しだけ開いた。


「すいませんお客さん方、この嵐じゃこれ以上は危険でさぁ。予定より大分手前ですが、近くの退避所に入ることにしやす。ご了承下さいやせ」


窓の向こうで雨よけを目深にかぶった御者のおじさんが、轟轟と鳴る雨音の中乗客に向けて言った。


「・・・まあ、これじゃ流石に、仕方ないか」

「そうですね」

ナビーの呟きにベルルさ・・お姉ちゃんが賛成した。

暫くすると、乗合馬車はちょっと大きな待避所に入って行った。



ランドべレイ侯爵領、というのだそうだここは。

その侯爵領で一番大きな町である領都リンドベリアまでの街道のほとんどの退避所には、石積みの休憩所が建てられていて、退避所に乗り入れる人は大概そこで休憩していた。


あたしたちの乗った乗合馬車は、退避所の外門を開け中に乗り入れると建物の近くの壁際に寄せて停めた。

(風が強いから流されないようにするためなのかな?)

あたしたちが乗って来た乗合馬車の他に、一台の箱馬車が停められている。


「さ、つきました。嵐が弱まるまでは暫く動けませんので、休憩所で休んでくだせぇ」


御者のおじさんはそう言うと、嵐の中、大きな車輪止めを車輪に噛ませて、2頭のお馬さんを馬車から離して、建物の裏の厩舎へ連れて行った。


あたしたちも馬車を降りると、バシャバシャと降る雨の中を休憩所まで走る。

休憩所の玄関までのちょっとの距離なのに、あっと言う間にずぶ濡れになってしまった。


今までの休憩所に比べて、ここの休憩所は結構大きな建物だった。

ナビーが先頭きって休憩所に入ると、建物の中は殺風景だけど広いリビングになっていて、正面の壁には大きな暖炉があって、赤々と火が踊っていた。


「おっ、お客さんがきたぜ」


表の箱馬車の人だろうか、その暖炉の前には3人の男の人が思い思いに寛いでいて、あたし達が入って来たことに気付くと、

「あんたたちも嵐の中難儀だったなぁ。外套はそっちにかけときな。あーお嬢ちゃんがいるじゃねぇか、寒いだろ、暖炉の前に座んな」

そう言って、三人の男の人は端に寄って、あたしたちに暖炉の前のスペースを譲ってくれた。

「うん、ありがとう」

あたしはお礼を言って、グショグショになった外套と靴を脱いで、壁にある外套掛けに引っ掛けた。


「しっかし、退避所に休憩所があるなんて、ランドべレイは裕福なもんだよなぁ」

濡れた外套を脱ぎながらナビーはしきりに感心している。

「ナビーが住んでるところには無いの?」

「王都近辺には無いな。ラインレッドにも無かったよ。こっちは嵐が多いって言うからそれが理由なのかな?

確かに、こんな嵐が頻繁に来るんじゃ屋根のある建物は必要になるよなぁ」

ナビーが自分だけ納得したような顔をする。


「ここは・・嵐って多いの?」

「この時期だけの話だけどね、北アルザントは全般的に嵐が多いらしいよ。なんでも内海で生まれた嵐の龍は北へ北へと飛ぶ習性があるんだってさ」

「龍?」

おとぎ話に出てくるあの?

「・・・先生~、それって迷信じゃないんですか?」

ベルルお姉ちゃんが疑わしそうな目でナビーを見たけど、

「いやいやっ、なんでもアトルは実際に見たことあるって言ってたし」

「えっ!?アトルが?」

「まあ、なかなか信じがたい話ではあるけどね。先生って人と旅してる最中に遭遇したことがあるって言ってたよ」

アトルは一体どんな旅をしてるんだろう?


「アトルと先生の旅話は面白話の宝庫だったからなぁ・・。話を聞いてる時は俺も年甲斐もなくドキドキしたもんさ。ウィカもアトルにあったら話してもらうといいよ」


「うん!」


楽しみ!



そうして、あたしとベルルお姉ちゃんとナビーを含む乗合馬車の乗客8人と御者のおじさん、箱馬車の主であろう3人の男は、嵐の中の退避所に閉じ込められることになった。

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