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傭兵の為に鐘は鳴る  作者: すいきょう
第一章 或る転生者のお仕事
8/87

蜘蛛

「クモの巣だな」


すぐ傍に若がいた。


異常を聞きつけ、最後尾の馬車から麓を一望できるここまで歩いてきたのだろう、道の端から睨むように麓を見ている。


来てたのに気づかなかった。

若は只でさえ小さい。馬上にいると周辺は中々察知しづらい。

しかし険しい目で麓を望む若の姿は百戦錬磨の気配があった。


「若も・・そう思いますか」


「え、若?、あの白いの、例のクモの”巣”ってことですかいっ!?」


ザイケンが驚いて声をあげる。


まあ、あんなのクモの巣には見えないよな。


「村を囲って逃がさないようにしているのか?・・・にしては・・・」


若は何やら考え込んでいる。


「じゃ、じゃあ村はもう・・・」ダナが悔しそうに言葉を詰まらせた。


絶望的かもしれない。だがそんなこと言っても仕方がない。


「・・・まだ生き残りがいる可能性もある。まずは俺の班で偵察を・・・」


ザイケンの班はゴリゴリの武闘派ばかりで、あまり偵察が得意じゃない。ダナは戦闘指揮はできるが慣れない人員の班での偵察は不慣れだろう。ハッジを全体の指揮に残して5人で行くのが最も手堅い。


「ダメだ」


反対したのは・・・若だった。


若は麓を見つめたまま、こちらも見ずに却下した。

三人そろって、若を見た。


「どうしてですか?」


こういう時の若の意見は傾聴しなければならない。それはザイケンもダナも身に染みて解っている。


「奴ら、こっちを待ってやがった」


若から感じる気配ともいうべき何かが、明らかに変わっている。偉そうながらもまだまだ幼く見える子供が、子供の姿をした“戦う者”に変わる。


「お前たち、あれが見えるか?」


若が、指で指し示す先は・・・村、じゃなく、村から少し離れたところにある森が・・・


「げっ」

「おあっ」

「うっ」


目をやると同時に、俺もザイケンもダナも、見たくないモノが見えた。

森の中に、周囲の木々よりさらに高く、押しのけるように、明らかに異質なものが見え隠れしている。

それは何というか・・・そう、赤と黒と黄色の斑のナニカでっかいモノが、緑の森に無理やり身を隠してる感じで・・

って、


「クモっ!でかっ!」


ザイケンが叫んだ。


そう、それはたぶんクモなんだろう。下の方は森で隠れて見えないが、見えてる部分は周囲から浮き上がっていて、正直なんで気づけなかったのか不思議なくらいだ。村の状態に目が行って不注意になってたのか。


奴は・・あのクモは、あれで隠れてるつもりなんだろう。巨大なクモであることは聞いていたが、直に見るとこれほどとは・・・。


「奴ら、なんで、あそこでジッとしてると思う?」


若が問いかけてくる。


「奴ら?」とダナ。


若はスッと、さらに離れた森と、その森と村を挟んでの反対方向にあった山を指す。


これは・・・


「でかいのは三匹だな」


若の声は、至極冷静だ。

遠くて分かりずらいが、離れた森には、最初のクモよりは、やや小さいクモ(それでも周りの木々より全然高い)が、山の方にはかなり大きな岩山があるのだが、その岩陰に身を隠すようにマダラ模様が見え隠れしていた。


あぁ、俺も、もう声が出ないよ。


ザイケンは「うへぇ」って唸ってるし、ダナは手を額に当てて天を仰いでいる。

それでも若の言葉は続く。


「手前の森の梢や枝の靡き方が、一定方向じゃないバラバラだ、おそらく森の中に細かいのもいるぞ」


・・・聞きたくなかった・・・


しかし、なぜだ?

なんであんなところに隠れて・・・あー・・


「・・・クモの巣・・・ですか」


若の言いたいことに思い至った。


「そうだ。奴ら、俺たちが救援に来ることを解ってて、巣を張ってやがる。村は囮だな、生死不明だがある程度生かしといて、助けに来る奴を狩る気だな。そうじゃないとこの状態の説明がつかない」


なぜ俺たちが来るのが解っていたのか・・は考えるだけ無駄なことは分かる。

俺は実際に出会ったことはないが、魔物の中にはそうやって人を狩る種がいるのは知っていた。誰に教えられたわけでもないのに「人は人を助けに来る」ということを解っているというのだ、魔物という種は。本能的に。


こうなると、先の話が変わる。先の俺の提案通り、俺の班が偵察に出てもおそらく何も異常はないだろう。奴らも出てこない。しかし、「異常なし」と判断して全隊を村に近づけた途端、三方から一気に包囲されるというわけだ。


(うっわー、あっぶねぇーっ!)


いかん、素が出た。


「いいか、生物は数が多いと、自然と間引かれるように出来てる。間引かれるから多く生む。クモの子は多いがそのほとんどは生き残れない。魔物でもそれは変わらない。でかくて数が多いからこそエサが足りなくなる。虫系は身内の認識も無いから共食いも起こるしな。人を食うのも兄弟食うのも同じ感覚だ、多くは生き残れない。故に奴らもそんなに数はいないはずだ」


「ホントですか・・・?」ダナが不安そうに尋ねる。


「あのデカいの3匹中心に、統率が取れてるのがその証拠だ。クモはアリやハチのような元々社会性のある生き物じゃない。魔物であることを加味しても大数での統制は不可能に近い。俺らに気付いてるのに、下っ端さえ見かけてない。統率されてる証拠だ」


経験則だが、と若が付け加える。


若をまじまじと見つめる。


これが齢8つの子供の思考だろうか。


「デカグモ一匹につき、せいぜい100もいないだろう」


それでも結構多いです。


「若は以前に、狩ったことが?」


「ああ、アレではないけど、似たようなクモは先生に狩らされたことがある。2年ほど前だったかな。バウロお前と出会う前の話しだな」


6歳でかよっ!とは声に出さない。言いたいけど。


「あの時のデカグモにも眷属はいたが、100もいなかった。しまいに共食いまで初めてな、正味50ほどだな。狩ったのは」


「・・・」

「・・・」

「・・・」


ザイケンもダナも、若を慈愛に溢れた、生暖かい目で見ていた。


きっと俺も同じような目をしていることだろう。

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