表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傭兵の為に鐘は鳴る  作者: すいきょう
第二章 或る旅人達の協奏曲
77/87

ウィカの旅①

◆ ファールエン・ベルナス神聖王国 国境の街タロン 宿屋<タロンの鹿角亭>


一晩泊めてもらった翌朝、女将さんが朝食まで用意してくれていた。

「しっかりお食べよ」と女将さんは言うと厨房へ戻って行った。


まだ朝早い時間なのに食堂はそこそこ人で埋まっていて、空いている席に座ると目の前の席には宿屋のおじさんがいた。


「おはよう、よく眠れたかい?」おじさんが声をかけてきた。

「うん。久しぶりによく眠れたよ。ありがとう」

本当によく眠れた。お布団はすごいね。


「そうか、それは良かった。直に関所が開門されるよ。一度関所を越えると戻れなくなるから、忘れもんはないようにな。通行書忘れると通れもできねぇけどな」

そう言っておじさんは笑った。


「・・・・。つうこう・・しょう?」

・・・って、何?

そう訊くと、おじさんが目を真ん丸にした。

「・・・なんだ、お嬢ちゃん。通行証、通行許可証・・知らないのかい?」

「うん」

「・・・・ってことは・・通行許可証、持ってないのか?」

宿屋のおじさんが呆れたように言った。


「・・・それが無いと通れないの?今までそんなの要らなかったよ?」

エイニスを出てからいくつかの町を通ってきたけど、そんな物を要求されたことは無い。

「そりゃ、国内通るのには必要ないさ。でもアルザントは国外だからね」

この国から出るのには許可がいるんだ・・。


「何のためにそんなのが要るの?」

「・・・さ、さぁ。・・・なんにせよ、国の外に出るにはお上の許可がいるんだよ」

おじさんも何故かは知らないのか、困った顔でパンを頬張った。

しかし、なんでそんな不便なことをするんだろう?

自由に行き来出来た方が皆便利だと思うんだけど。


「その許可書は、どこで貰えるの?」

「そりゃ、役所で言えば発行してくれるけど・・許可されるまで何日もかかるよ?」

「・・・そうなの!?」

「ああ、それに発行手数料も取られるし、関所通るには通行料ベルナス銀貨1枚かかる」


・・・。

ど・・・どうしよう・・・。

お金はまだ余裕があるからいいけど、今から数日もかかるのは問題だ。


「それにお嬢ちゃん一人で許可書はたぶん貰えないよ?」

おじさなんがさらに追い打ちをかけてくる。

「な、なんでっ!?」

おじさんに詰め寄る。

「だってお嬢ちゃん一人だろ?許可がでるのは成人してからだし、それ以外の子供なんかは保護者同伴じゃないと・・」


「なんだい、それくらいアンタが貰ってきてあげればいいじゃないのさっ」

いつのまにか厨房から女将さんが出てきて、おじさんに言ってくれた。

ここの会話が厨房で聞こえたんだろうか。

(凄い地獄耳・・)


「おいおい無理な事いうないっ!身内か教会しか後見人にはなれねぇって事くらいオメェもしってんだろ!嘘ついて許可書なんか取って見ろ、俺らの首がトンじまわぁ!」

おじさんが慌てて言い返した。

「なんだい、根性なしっ」

「なんだとっテメェ!!」

女将さんとおじさんが「ああんっ!?」「やんのかっ?」と顔を寄せ合って睨みあってしまった。


「ええ、あの、いいのっ!そうっ、向こうからねっ迎えの人が来るはずだからっケンカしないでっねっ?」

とっさにそんな嘘をついてしまった。

でも、あたしのことで二人にケンカなんてして欲しくない。


「・・・ああ、なんだ、そうなのかい?」

おじさんが安心した顔で言った。

「そりゃそうさ、女の子一人で旅なんて普通出来るわけないよ。あたしゃちゃーんと気づいてたね!」

「なんでい、テメェだって『一人で大丈夫か』とかなんとか、アレコレ心配してたくせにっ!知ったかすんじゃねぇよっ」


・・・また、睨みあいになっちゃった。

(けどこれも仲が良いってことなのかな?)

母さんも昔は父さんとよくケンカしたと言っていたし。

夫婦仲がいいのは良い事だよね。


(・・でも、困ったなぁ)

関所を越えるアテがない。


道の無い平原や森を行くのはすでに選択肢には無い。すでに散々な目にはあったのだ。アレは無理。

それに、どうせこの町近辺の国境は見張られているだろうし、下手に警備兵の目に付くことはしたくない。

他に通る方法は無いモノだろうか・・。


「じゃあこの人たちは皆通行証持ってるんだ・・・ちょっと載せてってくれないかな?」

食堂にいる旅人や商人を指して聴いてみた。

「ん、迎えが来るんだろ?」

おじさんが不思議そうに言った。


「・・・。こっちで待ってるより、向こうで待ってた方が分かりやすいかなって・・。

ホラっ、迎えの人がこっちに来るなら、通行証が何枚も要るってことになるじゃない?

迎えの人も、向こうで待ってるかもしれないし・・・」

しどろもどろ、考えながら答える。


「ああー、それもそうか。お嬢ちゃんをいつどこで待ってるとか聞いてないのかい?」

はう。

「ええっと・・国境で待ってろって言ってた・・気が・・するかなぁ・・」

後半が尻すぼみになる。

・・・ああ、変な汗が出てきた。


「あー・・確かにそう言い方で、すれ違いになってた冒険者居たねぇ昔、『国境の町で待ち合わせたのに来ない』ってねぇ、アンタ」

おばさんが思い出したように言った。


「ああ、そういえばそんな冒険者いたなぁ。タロンとアウべは関所を挟んで別の町ってこと知らねぇヤツ、昔は結構いたしなぁ」


「別の町?」

どういうこと?


「なんだお嬢ちゃんも知らねぇのか・・ってか、そんな有名じゃねぇのか。

このタロンはな、国境を挟んでこっち側にある町なんだよ。そんで、国境のあっち側にはアウベって王国(アルザント)の町があんのさ。関所はその真ん中にあって、人やら荷物やらの監視をしてる。

それでさ、国境を挟むように町があるから、知らねえ奴が見ると一つの町に見えちまうらしいんだよな」


確かに、そう見えるかもしれない。


「その上、こっちの国でもあっちの国でも“国境の町”って言い方しちまうから、タロンとアウベ二つ町があることを知らねぇヤツは勘違いしちまうのさ」


うんそれは分かりづらいね。


「・・・その冒険者の人はどうやって仲間を見つけたの?二つの町を行ったり来たり出来たの?」

「ああ・・冒険者はな、身分を冒険者ギルドが保障してくれるから、通行料だけで通れるんだよ。通行証がなくてもギルドの組合員カードがそれの代わりになるって話だな」


良い話聞いた!


「それじゃ・・!」

「おっと、お嬢ちゃんはどうみても15歳にはみえねぇから、冒険者登録は出来ねぇな」とおじさんは釘を刺してきた。


えぇ~・・。


「何言ってんだい。こんなお嬢ちゃんが冒険者なんかになるわけないだろうに」

女将さんが呆れたように言った。


(いい案だと思ったのになぁ・・)


そういえば、この国では冒険者の社会的地位は低いって師匠が言ってたな。


「とりあえずこの街で数日迎えを待ってみなよ。向こうが気づいてこっちに来てくれるかもしれない。なに、その間はウチの部屋を使ってくれりゃいい。

来ない様なら役所に理由を話せば、お上だって慈悲が無いわけじゃないだろ、きっと通行許可出してくれるさ」

「・・まあ、そうするしかねぇか」

女将さんの提案に、おじさんが仕方ねぇなぁと呟いた。

女将さんもおじさんも・・・とても良くしてくれる。


「うん。女将さん、おじさん、ありがとう」

・・・でも、私がいると迷惑をかける可能性が高い。

今は他に手が思いつかないけど、一刻も早く出て行かないと・・・。



宿屋の女将さんとおじさんには「とりあえず探しに行ってみるよ」と言って、関所の前まで来てみた。

すでに関所の前には大勢の人と荷馬車が列を作っていた。


(もちろんいる訳ないから、なんとか関所を越える方法を探さないと・・)


関所と呼ばれる建物は、大きな外壁に馬車が通れるほどの門が5つほど設けられた出入り口で、5つの門で荷馬車の出入りの検査をやっているのだそうだ。そう宿屋のおじさんが言ってた。


5つの大きな門の左隣には人が通れるくらいの小さな門が二つあり、そこは荷馬車などが無い、人だけの通行検査をする門らしい。

行列が出来ている荷馬車が通る門の方とは違って、こちらの方は何かの紙を係員に渡すとすぐ通してくれるようだ。


(あの紙・・あれが通行証かな?)


通行料金などは効率的な通行の為に、通行証発行代金に含まれている上乗せされているんだそうだ。

多分・・他人のものじゃ使えないよね。

身分を提示して貰うくらいだし、嘘ついて通る人間を見つけるくらいの仕掛けはしてるはず。


外壁を見上げ、周囲を確認する。

建物は皆外壁から一定距離離れたところに造られている。エイニスのように外壁の上までこっそり行けるようなルートはなさそうだ。


「壁を登るのは・・・やっぱムリそうだね・・」


この街の外壁には常に見張りが巡回しているし、国境の町ともあってなにがしかの魔術防衛もあるかもしれない。

町の外から回り込むのもムリ。ここタロンは谷間の町で、町の西側は険しい山と崖ばかりで魔物も多く、人が進めるような場所ではないらしいし、東側はなだらかな山と森が多いが、近隣住民からは“不帰の山”と呼ばれているくらいの場所らしい。


どちらにせよ、平地の街道からちょっと外れただけでも道に迷ってしまうあたしでは越えるのは無理っぽい。


(・・でも、他に方法が無かったらやるしかないけど)


とりあえず・・・関所の衛兵に話を聞いてみようか。子供だからお金だけで通してくれるかもしれない。


(男は・・苦手だけど、そんな事を言ってちゃこの先一歩だって進めないよね!)


ショウカンの中にだってダリア姉さんやベレーズおばさんのように親切な人もいれば、バナサやウルデのように意地悪な人だっていたのだ。

男の中にだって、アトルもいればそれ以外もいる。中には師匠のように頼りになる人や、宿屋のおじさんのように親切な人だっている・・と思う。


思い切って、人用の門の横で暇そうにしている若い衛士に話しかけてみた。

「ねぇねぇ兵隊さん、あの、あー・・通行証、落としちゃったんだけど、ここ通っちゃダメ?」

「・・・は?え、ああ、ダメだ。そういうのは規則に反する。落したなら再発行してもらえばいいだろ?」


一番真面目そうな顔の衛士を選んだら、思った以上に真面目な人間だったようだ。


「ええと、そう、アルザントの叔父さんの所に行く途中なんだけど、迎えの人が向こうにいるの。通行証貰ってたんだけど、落としちゃって・・・」

「親はどうしたんだ?」

「お父さんもお母さんも死んじゃったから、叔父さんの所で、暮らすことになったの。迎えの人が、向こうにいるから通行証貰えなくて・・」

つっかえつっかえ説明する。


「そうか・・・それは困ったな・・・」

若い兵士はしばし考えると、

「いいだろう、向こうの関所に連絡して迎えの人間と連絡をとってもらおう。お前さんが来るのが遅いと向こうの関所に連絡が入ってるかもしれない」


「え」


「それで、その迎えの人間の名前は?」


え。

ええええ。

どうしよう。

逃げたら余計怪しまれるよね。


「あ・・・アトル?」


つい、そう口から出てしまった。

衛士のお兄さんは覚える様に復唱した。

「アトル・・・氏は無いんだな?」


氏がある人間はあまり一般的ではないけど、アトルにはあったよね。


「えっと・・ラインレッドって・・」

「・・・アトル・ラインレッド?」

一瞬の間の後、確かめるように訊き返してきた。

「う・・うん」


「ラインレッド・・・はて、どこかで聞いたことが・・」

お兄さんが頭を傾げ始めた。

何の話?


その時、後ろから素っ頓狂な声がした。


「アトル!? アトル・ラインレッドの知り合いなのかい、お嬢ちゃん?」


振り向くと、知らないおじさんが吃驚した顔で、あたしを見てた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ