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傭兵の為に鐘は鳴る  作者: すいきょう
第二章 或る旅人達の協奏曲
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新人冒険者編⑧ アトル、尋問する

「あのー・・」

ドアをノックしてギルド職員の女性が入ってきた。

「早いな、もう連絡が付いたのか?」長髪さんがそう言ったが、

「いえ、あの、こちらにアトルという方は・・」


「はーい」手を上げる。

俺はここに居る。ここに居るんだよ。

「えっ、あ、ほんとに居たんだ・・。すいません、下にお客様がお待ちで・・って、ちょっとっ」


職員さんの身体と言葉を押しのけるように、シシットが議事室に入ってきた。


「アトルッ!お前なぁっ!下に話しぐらい通しとけよっ!?」

顔を見せるなりコレだ。

「随分時間が掛かったなぁ、シシット」

「掛かったなぁ、じゃねぇよ・・10分ぐらいこのお嬢さんと居るの居ないのの押し問答だよ」

「だって『このギルドにアトルがいるから呼んでくれ』って言われたら・・」

職員さんも不満顔だ。

「そりゃ、俺ここの職員じゃないしなぁ」

「いやいやっ、他の領のギルドならともかくドーマのギルド職員がアトルを知らないって、俺にとっちゃビックリ事実だぜ!?」

そんなにか?

「大体の人が知ってるからって、全員が知ってるとは限らないだろ」

「まあ、それはそうなんだけどさ・・まあいっか、お嬢さん案内ありがとね、お手間とらせたお詫びに、今度お食事でも・・」

「え、あ、はい、いえっ結構ですっ!」と言って職員さんは走って行った。


シシットは割合男前なのでモテる。

酒場のマスターしてるからかトークも軽快だ。

ちょいワル系ってやつか。

「シシット、擦りモゲロ」

「うぉ!なんでそういうこと言うんだっ頑張って仕事してきた人間に対して」

「うん。ありがとう。おつかれさま」

シシットが情けない顔になる。

「・・なんでお前はそういうとこ素直なんだ?・・なんかもうちょっとこう掛け合いみたいな感じがあるだろ?」

どうしろと?


「んで、成果は?」

「・・・上々。おーい連れて来い」

シシットが廊下から誰かを呼んだ。

なんとも“アッチの人”感全開の兄ちゃん二人が、一人の男の両脇を抱えて部屋に入ってきた。

以前の世界で見たことある捕獲された宇宙人の写真みたいだ。

「ご苦労。もういいぜ」とシシットが言うと、抱えたグレイ・・男を床に放り出して、無言で去って行った。棒をピカピカする黒服みたいだな。


床の上には、顔中に青痣作った中肉中背の兄ちゃんが、なんとも哀れなパンツ一丁で残された。

なんでパンツ一丁?


「ば・・バイト・・・さん・・?」

疑問形で問うラベル。

ムリも無い、顔の形が・・。


「シシット・・面通しするのに顔の形変えてどうするよ?」

「わりぃわりぃ。血の気の多い奴ばっかでよ。アジト吐かすのにもちょっとな・・」

そう言うと、封筒を差し出してきた。

「こいつらのアジトまで行ったんだぜ?・・・で見つけた」


封筒の中には何枚かの紙が入っている。取り出して、ヨムヨム。


「・・・しかしなんでまぁ、こんなの残してんだ?」

「・・・アジトの床にほっぽってあった」

・・・。

「こいつら・・馬鹿なの?」

「バカなんじゃね?」

シシットも呆れたように言う。

「・・しかし、シシット。こんな奴らを、お前ら見逃してたのか?」

半眼でシシットを睨む。

「おいおい、バカ言うなよ。俺らだって情報ぐらいは掴んでたさ。でもさドーマに来たのはここ四半期の間だっていうし、内偵してる最中だったんだよ!

でもなアトル、情報ギルドは正義の味方じゃないんだぜ?」


「・・・ア?」


「モ、モチロンッ!!確証掴んだらそれとなく騎士団に流すつもりだったサッ!俺らで潰してもいいし、なっ!俺らだって地元密着型のギルドなんだっ!お前の傭兵団と一緒!!地元の為にガンバッテル!!

・・そんな睨むなって、な?な?」


「・・・まあいい。今は目の前の事を片付けよう」

「そうそうっそれがイイヨッ!」


「・・・話は纏まったかな?アトル殿。ならば説明を求めても?」

ギルマスが切り出してきた。

室内のみんなが妙な顔でこっちを見てる。


「待たせてしまって悪かったね。こっちの男はシシット。・・情報通の男だ」

「・・・情報通の男って・・」

シシットが肩を落とす。

「【影に潜む目(シル)】の今のマスターだな?」

ギルマス知ってた。

「そりゃ、知ってるだろうよ。会ったことあるし」

先に言えよ。

「まあ、そんな情報通のシシット君に探してもらったてたんだよ。この、バイトさんを」

「頑なに変える気がねぇな・・」とシシットが呟くが無視。

「おーい、バイトさん。聞こえるかい?あなたは人攫いですか?」

「・・・」

寝てるの?


バイトの手をとって、捻る。


「うぎゃあっ!イッイテェッ!!」

「起きてた起きてた」

「な・・・なんだよこのガキは・・・」

「・・・」

「俺はなんにも知らねぇ!!突然そこの男に捕まってここに連れてこられただけだっワケわかんねぇよっ!」

「・・・あっちにいる5人の事は?」

「し・・知らねぇ・・そんな新人共なんて会った事もねぇ」

「どの五人の事だ?」

「へ?」

「あっちにはギルドの人間3人と新人5人、その他5人いるけど。なんで新人5人の事だと思った?」

「へ・・あ・・」

「それで、なんであいつらが新人冒険者だって知ってる?」

「・・そ、りゃ・・」

「あいつら、武装して無いと取り調べ受けてる一般人にしか見えないよな?なんで冒険者だって思った?」


「なぁ」

バイトの目を覗き込む。

「 ど う す る ? 」


「わ・・かった・・は・・・なす・・・」

洗いざらいな。


男が語った話はこうだ。

バイトとその仲間はもともと王都ウルダートの窃盗団だったらしい。しかし、仕事で下手を踏み指名手配され、逃亡する際にブローカーから話を持ち掛けられたそうだ。

「人を攫って、送ってくれないか」と。

仕事の場所として指定されたのはアイルゼン。飛行場があり、冒険者も含めて住民の“人間狩り”に対する警戒意識や対策が、他の地域より低いから・・と言われたそうだ。


ギルマス、怒ってる怒ってる。


普段は盗賊仲間と盗みの仕事や冒険者としての仕事をやりつつ、ブローカーの依頼があれば“冒険者狩り”をするらしい。依頼制なのか。

同様の拉致集団に関しては「・・・俺らの他にもいくつか居るとは聞いたことがある。どこにいるかまでは知らない」だそうだ。


「今まで何人攫った?」

「・・・10人ちょっとだ」


男の腕をとろうとしたら、

「22人だっ!!男15人っ女7人っ!」

何の意地でそんな嘘をつくんだか。

「手順と送り先は?」

「大体は眠らせてから攫うんだが、そっちの5人の中には薬草士がいるからやめた」

「それで森に?」

「そ、そうだ、今回は女だけの依頼がきたから、男3人はいらなかった」


いらなかったと言われた男子3人は、なんとも妙な顔をしている。


「あ、でも、商品に手を付けたことはねぇぜ?

傷モノは買わないって言われてるしな。

後でブローカーに文句言われちまうからな」

ヘラヘラと笑いながらバイトが言った。


笑えるような話、したか?


「で、今まで何人殺した?」


「・・・」


「騙して、殺した人数は?」

「・・・お・・おぼえt」


ゴギッ


「イッギィィィ!」

バイトの腕を(ひね)って、肩を外してみる。

ついでに捩じってみる。


「アッアッ、ガァァァァッッッ!」

無意味に足をじたばたさせてる。

喚く男の耳元で囁いてみる。

「・・・・人数は?」

「や、やめ・・アヒェウ・・じゅ・・じゅうさん にんくらい」

「本当に?」

腕に力を籠める。

「ほんとうだっ じんじでぐれっ!」

「全員、新人冒険者か?」

「しょ、そう だ・・抵抗 されて ころしたっ ウギッ」

「なんで子供や一般人を狙わなかった?」

「このまちは 騎士団の 目が 多い 街中で しごとは できなかった。それ に あるていど 育ったやつっての 依頼が おおかった からっ」

「育ったやつ?」

攫うなら子供が一番やり易いはず。

「ぞうだっ 魔術を つかえる やつの 注文が 多い 高く 売れる。

10歳以下の 子供はいらねぇ って話だっ」


ふむ。

手を離してやる。


「・・で?」

「・・・ウグゥ・・・ウッ・・送り先が どこかは知らねぇ。

ヴィンガーデンドまで行ったら、ブローカーに渡して、金を貰うだけだった」

「ブローカーの名は?」

「ニーフって 女だ。領都の倉庫街にある<沈む朝日亭>って酒場に定期的に現れる・・」

沈む朝日・・上がるのか下がるのか分からん名前だな。


・・・

・・

ニーフ?


「・・・じゃ、もういいや。寝てろ」

つま先で男の延髄に打つと、男がクタリと転がった。

こんな漫画みたいな技術も先生に教わった。

先生は盗賊相手に練習したって言ってたな、そういえば。


「さて、証言がとれましたー」と、皆の方を見ると、


・・・一気に引かれた。


なんでさ。

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