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傭兵の為に鐘は鳴る  作者: すいきょう
第二章 或る旅人達の協奏曲
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新人冒険者編⑥ アトル、煙に巻く

冒険者ギルドの玄関をくぐると、


「違うっ!本当にいたんだっ!嘘じゃないっ!」


知った声が聞こえてきた。


ドーマは大きい町なので冒険者ギルドのギルドホームも大きい。

玄関ロビーもとても広い。

人もいっぱいいる。


依頼掲示板の横の広報板にでかでかとポスターが貼ってある。


『甘い言葉はみんな罠。狩りはすれども狩られるな 冒険者ギルド広報部』


なんの標語だよ。


はてさて何処だと探す・・・必要もなく、・・・なんか冒険者達がみんな、奥の方に固まってる。


(それも雰囲気悪いなぁ)


周りを取り囲んでいる冒険者達が、

「お前ら俄か新人が・・(なんたらかんたら)」

「さっさと豚箱に・・(うんたらかんたら)」

「詫びにそっちの娘を寄越せ・・・(うんた・・は?)」

「女二人も羨ましいんだよ!」

「やめろよ!破けちゃうだろ!?」


・・とかなんとか、訳の分からん事叫んでる。最後のなんだ?どういう状況だ?乱闘か?


おっと、ごめんよごめんよ、と人混みをかき分けて最前列まで出てきた。


・・はぁ。


例の五人を冒険者が取り囲んで責めているの図。

ラベル達男3人がテプラとライラを庇うように立って壁際に追い詰められている。

テプラとライラはもう泣く寸前だ。ドンコウはもう泣いている。


責める冒険者も分からんではないが、これは弱い者いじめだな。

ギルドの職員は何してんだ・・と思ったら、詰め寄る冒険者を押さえられずにオロオロワタワタしている。

確か一階受付課の課長だっけ。

バーコードが寂しく揺れている。


ラベルが俺に気付いた。

「ア・・アトルさ・・・」


周りがうるさくて聞こえない。

ラベルに近づいて聞・・


「ラベ・・『なんだあのガキはっ!』こんな『このガキもコイツらの仲間か・・!』・・なに・・『こんなガキばっかだから・・』」


聞こえ


「ちょっと、『おいギルドのおっさん早く捕まえろよ』外野・・『賞金首なら俺が・・』静かに・・『あの女は俺が捕まえる!』」


あの


「話が『じゃあオレ右の子もーらい』・・・聞こえ『いや強制労働刑だろ』・・・ない『あーあ、メフィナ連邦みたいに奴隷制度があれば・・・』・・・」



「 やッ か ま し い わッ!!! ダ マ レ ゴ ル ァッッ!!! 」


バギャンッと、右足でロビーの石床を踏み砕く。

周囲5メールほどに蜘蛛の巣状の亀裂が入った。


「「「「 ・・・・・・ 」」」」


静かになった。


近くにあった椅子を引き寄せて座った。なんか疲れた。

「・・・ラベル。状況説明」

「・・は・・はぃ」


怒りに任せてなどいないよ?

ここの床材は、薄くて交換がきくこと知ってるしね。

演出演出、脳筋冒険者にはこうした方が話が早いんだよ?

ホントだよ?


「お前ら 静かに。 騒げば 潰すぞ」

そして外野への釘刺しも忘れない。


静かになったロビーで、ラベルの話を纏めると。

ラベル達5人は真っ直ぐ冒険者ギルドに来たらしい。ギルドに入った途端、ギルド職員・・さっきのバーコードが駆け寄ってきたらしい。んで場所も弁えず大声で「君らがサル頭を街道に引っ張ってきた冒険者かっ!!えらいことをしてくれたねっ!」と叫んだらしい。


(アホか)


傭兵も冒険者も或いは普通の商人もそうだが、“仕事”は積み上げた“信頼”の上で行っている。個人のだけではなく業界の社会的信頼の上で。

実際のところ冒険者の『魔物に追いかけられての街道への誘導行為』自体は、アイルゼン領だけでも、年に何件も何十件も発生している。原因を確認されていないものまで含めれば何百件かもしれない。


冒険者ギルドが率先して事の鎮圧にあたるのは何も責任を取ってだけの話ではない。

『冒険者ギルドという組織の社会的信用』にかかわるからだ。

規則で纏められない武力を所持した組織など、ただの無法者の集まりでしかない。そんな組織に誰が信頼を置き、仕事を任せ、金を払うだろうか。

アザレアの冒険者なら一度は言われたことがある・・という言葉がある。


『冒険者は信用ならねぇ。傭兵団に頼むからいいだ』


俺にとっては嬉しい言葉だが、冒険者にとっては仕事の前の問題である。


だから、冒険者は結構ナーバスなのだ。

冒険者が冒険者の信用を落とす行為に。

世間は個別に見てくれはしない。


・・・まあ、弱い者いじめも半分以上である気がするけど。

噛み付けるだけの相手を探してる輩も当然たくさんいる。そんな奴らにとっては、噛み付いていいのは所詮は魔物か弱い者かの違いだけだ。


バーコードを手招きする。


「あんた、こんな所で公にすれば、こうなることぐらい予想できるだろ」

「・・・そ・・それは・・っていうか、キミは誰だね!?ゆ・・床をこんなにして」

「このままでは私刑に及ぶかもしれない危険性があった。当方は鎮圧の必要ありとして示威行為に及んだ。当然、これはこの事態を誘引したギルド側にあると思うが如何か?」


煙に巻こう。


「え・・あ・・そ・・」たじろぐバーコード。


畳みかける。


「俺の名はアトル・ラインレッド。この5人の身柄を引き受けている。いわば保護者だ。この件の後始末も引き受けている。以降の話は俺を通してもらう」


「キ・・キミは子供だろうっ!?」

バーコードが・・・・ふわふわ上下してる。

吹き出しそうになったが・・なんとか堪えた。ふう。


「おい・・アトル・・ラインレッドって・・」

「“紅の鬼っ子”かっ!」

「俺は“魔人の落とし子”って聞いたぜ」

「え・・誰?」

「ホラッ・・去年、ここに雷角竜が来た事あったろっ!」

「あぁ!竜とガチで殴り合ったって子供かっ!?」


俺は使えるモノはなんでも利用する性質なので、自分の雷名だか二つ名だかを利用するのに抵抗が無い。遠慮も謙遜も余裕のある奴がすることだ。俺はなんでも全力投球がモットー。

っていうか、そのくらい言っとかないと「貴族の親戚とはいえ成人もしてないし冒険者資格も持ってない子供だからそんな口挟む権利ありませーん」と言われたらどうしようもないしね。

冷静に対処されないうちに押し込んどかないと。


「これ以上はこのロビーで話しても仕方ない。二階の会議室を用意してくれ。あとお茶とお茶請け・・甘いやつ!と話の分かるお偉いさん」

未だポカンとしているこの場の人間と雰囲気を強引にまとめ上げた。


(なんとかケムケムできたかな?)


アトルの『煙に巻く』スキルが1上がった!

自分でアナウンスしてみた。

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