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傭兵の為に鐘は鳴る  作者: すいきょう
第二章 或る旅人達の協奏曲
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新人冒険者編③ アトル、説教する

(なんか見物客が増えてるなぁ。街道が馬車や人で溢れてら)

俺がサル頭を始末して馬車に戻ってくると、一気に歓声が沸き上がった。


「やったぁ!」「すげぇ!坊主すげぇ!」「さすが紅旗つけてるだけあらぁ!」「今サル頭共ビクッってしなかった?」「おめぇ知らねぇの?なんとかって・・ナントカだよ・・」「知らねぇのかよっっ!?」「なんまんだぶなんまんだぶ」「なんだ何が起こったんだ?」「これが明日へと羽ばたく子供(みらい)の力か・・」「俺の方が上手く剣を扱えるんだ・・っ!」「だから坊やなのさ・・」「オメェつええなぁオラワクワクすっぞ!」


・・・。

なにやら妙な声も聞こえてくるが・・気にしないでおこう。

気にしたら負けだ。


「ぼうずーーっよかったーーーっ」と、おっちゃんが抱き着いてきた。

おばさんまで涙ながらにハグしてきたよ。

なんか照れるなー。

え、お前もか息子・・。

娘まで・・お前、半分寝てないか?

・・・エェー・・クーも?


元○玉ならぬ、行商人家族玉になってしまった。

あ、こら、娘、鼻水つけんな。うひゃあ。



「坊主、どこもケガはねぇのか?」

「ああうんないよ。言ったろ?俺は腕利きだって」

マッスルポーズ。


なんか気恥ずかしいので、茶目っ気たっぷりに言うと、

「おうおう、そうだったな、オメェはアルザント一の傭兵に違いねぇ!」

そう言ってゲハゲハ笑った。


いつまでもここに居ても仕方ないので、周りの人間に大声で言った。


「ホラ、みんな街道がつかえてるぞ。この先にサル頭が落ちてるから、皆で掃除していけ、一組一体だぞ!いる奴は持ってけ。あ、道路脇に置いてある二体はダメだぞっ!俺のだからなっ!」


「やったー!」と歓声が上がる。


サル頭は魔物としては値のつく部分は殆ど無いが、多少なり毛皮がとれるし、いくつかの内臓は薬になる。

害獣指定されているので、冒険者ギルドに持って行けば一宿一飯くらいの金にもなる。荷台にスペースがあるなら積んで損は無い。


皆が俺に「ありがとう」「たすかったよ」とお礼を言って先へ進んでいった。


「ふう・・俺らも行きたいけど・・・」

ちらりと街道脇をみる。


街道の脇に、5人の冒険者がぼけっと並んで座っていた。



「おら、お前ら、あの坊主に感謝しろよっ!」

通り過ぎる馬車から、街道脇でぼけっとしている5人の冒険者に声が投げつけられた。

あれ、今のおっさん、いの一番に逃げてた髭のおっさんじゃなかったけ?


まあ、一部始終を見ていたなら、誰にでもなんとなくの状況は解るんだろう。

今回は犠牲が出ていなかったので、みんなにサルを振舞ったから大目に見てくれたが、もし一人でも犠牲が出ていたらこんなものでは済まない。


街道への魔物の誘導は領の法で“犯罪”になる。

状況や被害によっては死刑もありえる重罪になるし、仮にやむを得ない理由があったとしても、一般人なら兎も角、冒険者資格を持っていたならあまり減刑されない、その事は冒険者の新人講習でも口を酸っぱくして言われているはずだ。


いくら領の法での重罪を免れることが出来ても、ギルド規約上、いくら被害が無くても“冒険者資格はく奪”という処分は十分にありうる。

さらに運よく資格はく奪を免れたとしても、仲間内では冒険者失格の烙印を押されてしまう。そうしたらもうほぼ仕事は回ってこない。


簡単に言ってしまえば『冒険者なら街道に逃げるくらいなら、戦って死ね』・・そういう世界なのだ。


この世界には人間の生活できる土地は少ない。滞れば干上がる。それほどまでにこの“街道”というものは国家にとって重要ということだ。



「おい坊主・・・あいつら・・・」

人の良いおっちゃんも、流石に奴らに掛ける言葉が無いらしい。


それも当然。たまたま俺がいなきゃ、おっちゃん家族は全滅していた可能性が高い。生まれたばかりの赤ちゃんも。街道を歩くものなら子供でも分かる。


「俺がちょっとシメとくから、おっちゃんあっちのサル頭2体馬車に乗せといてよ」

「おお、解った。きっちり絞ってやってくれよ!」と言って、馬車を先に進ませた。


はあ・・・。

めんどくさ。


未だ呆けてる5人組に近づいて、5人の前に腰を下ろした。

それなりの大きさの路傍の石を、わざわざ座るために持って来て。


「おい、まず事情を説明しろ」


成人してからまだそんなに立っていないだろう5人の中でも、一番リーダーっぽい男に問いかけた。

ちなみにアルザント王国での成人年齢は約15歳。約というのは、領や地方によって違うし、自分の誕生日が曖昧な人も多いためで、大体が数え年換算になる。


「・・・え」


目が泳いでる。

生きながらえたからか、安心したからか、

まだ呆けてやがる。


バチンッ


一発、頬を張ってやる。

「お前ら、自分が何したかわかってるか?」

男の目が見開かれる。

「あ・・あぁ・・あの・・すいませ・・」


バチンッ


「違う。何をしたか訊いてるんだ」


男涙目。

周りの4人も、おろおろとしだして、女二人は今にも泣き出しそうだ。

先ほど俺の【全力威圧】を受けているので、その恐怖もあるのだろう。

もうすぐ9歳に叱られる新米成人5人。

けど、俺はブレない男。


「魔物を・・・街道に連れてきて・・しまいました・・」

「どこから、なぜ連れてきた?」

「森の奥から・・バイトさんがサル頭討伐なら初心者でも出来るって・・」

「バイトってのは?」

「ダーマで知り合ったベテラン冒険者さんで・・」

「違う。そのバイトはどこにいる?」


この5人は見るからに若く新米だ。とてもベテランには見えない。


「・・・に・・逃げました」

「は?」

「サル頭の群れと出合い頭に遭遇したみたいになって・・数が多くて・・逃げたんですけど・・ライラを群れに突き飛ばして・・それで・・」


「ア゛ァ!?」


「ヒッ」


「・・・そいつはダーマの冒険者なんだな?」

「・・ハヒ」


アトデ ヒネリツブス。


「・・・それは今はいい。お前ら5人、皆新人だろ」


「はぃ」


「ベテラン一人に新人5人、おかしいとは思わなかったのか?」


ゲームや物語なんかでは、主人公やヒロインなど旅の初心者染みた、或いは毛の生えた程度のパーティが一斉に旅に出る。


んなこと出来るか!

・・と今なら言える。


旅の知識も知恵もない素人集団など、夢やら希望を持ってようが、勇者や賢者だろうが、即瞬殺即捕食される。無事なのはどれも虚構だからだ。


だからこそ傭兵団では一人の素人をプロに育てるのに何年もの時間をかけるのだ。何人ものプロが一人二人の素人を囲って鍛えて見守ってやっと・・、それがこの世界だ。一人で5人の素人の面倒を見れるプロなぞ存在しない。


「サル頭は弱い獲物だから・・成り立てでも問題ないって・・」

「自分で確かめもせず信じたのか?」

「はい・・」

「・・自分らが何したか分かってるなら、これからどうなるかもわかるな?」

「・・うぅ・・うぅう・・・」


5人全員泣き出した。


「お前らのミスは三つ。他人を甘く見た。自分を甘く見た。この世界を甘く見た」

厳しいけど、言っとかないと。


「今回は犠牲は出なかったが、あの群れの先にはお前らを含めて30人以上の人間がいた。この時期は商隊護衛も少ないし、おそらく“全滅事案”に相当する。お前らもあの商隊の人間達も死ななかったのは只の運だ」


「・・うぅ・・うぅーっ・・・」

杖を持ってるから女魔術士だろうか。

凄い勢いで泣き出してしまった。

でもそれぐらい悔いて反省してもらわないと。

この次は本当に死ぬ。


「お前らの身柄は一時俺が預かる。ドーマまでな。無論、そのバイトとかいう奴にも責任をとらせる」

絶対に。


「・・・説教はここまでだ。立て、これ以上は日が暮れちまう」


のそりと4人は立ち上がったが、魔術師の女の子だけは立てなかった。

そりゃまあそうだろう。

脚に怪我してるし。

見たとこそれほど深くないので手当は後回しにしたけど、失敗は痛みがある方が教訓として強く刻める。

もう一人の女の子が立ち上がらせようと手を取るが立てないらしい。


(仕方ない)


魔術師の女の子を抱え上げて運ぶ。

他の奴らはなんかフラフラしてるし。


「あ・・・あのっ・・」

「ケガしてんだろ。痛いのは生きてるってことだ。その痛みを忘れんな」


・・。


・・む。


・・クサイ!


思わずクサイこと言っちゃったっ!

顔から火が出そうだっ!ぬはーっ!

鉄面皮スキルオン!

全ての感情をシャットアウトします!

シャキーン!

クールな顔しながら、真っ赤な顔した魔術士を俺の馬車に座らせる。

(・・・わ笑いを堪えてるのかッ!?ムヒャーッ!?)

歩き辛そうな怪我人の3人を馬車に乗せ、残り2人は徒歩。


・・・俺は皆に見えないように身悶えしながら、おっちゃんが待ってる先へ馬車を進めた。

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