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傭兵の為に鐘は鳴る  作者: すいきょう
第二章 或る旅人達の協奏曲
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新人冒険者編② アトル、睨む

今日の午後と明日一日、ここで商売するらしい。


なんでも仕事は露店で販売するだけではないんだそうだ。

次はドーマまで行くので、そこで売れそうな開拓村の収穫物を買い付けてから行くらしい。

俺とおばさんが店番をしている間に、この村で懇意にしている猟師がとった獣の革だの肉だの薬草だのを仕入れてきた。

なるほど、さすが商人。道行に無駄が無いな。


おっちゃんが「どうせならドーマまで護衛してくれよ」と干芋くれたので、もちゃもちゃと噛みながら「いいよ」と帯同することになった。


うめー。干芋うめー。

サツマイモのようなカボチャのような甘さが、噛めば噛むほどジワリと出てくる。天ぷらとかにしても美味そうだ。

クーは干芋が噛みきれないのか、噛みながら転げまわっている。おいおい娘よ、お前まで転げまわらんでも。


その晩も行商人一家と夕飯を食べ、何故かコグマと4歳児に抱き着かれながら眠った。


次の日も行商人家族と店番しながら、なんともまったりとした一日を過ごした。



予定より一日早く行こうとして、予定より一日遅いことになる。

なんとも“旅”らしいではないですか。


俺と行商人一家の馬車は、開拓村を出て一路ドーマへと出発した。

他の行商人や旅人より早めに出発したので、街道上では馬車列の先頭を切るような形で進んでいる。


「・・・ドーマまであと1日半ってとこかな」


御者席からなんとも長閑な風景を、あくびを噛み殺しながら一望していた。

西に森林、東に平原、遠くに見えるは・・なんの山だっけ?

あれがオルバム山だから・・・あれはヤスーナだっけ?ルルダ?

あらやだ、ちょっと度忘れ。


回転の鈍くなった頭でアレコレ考えていたが、それさえも面倒になって後ろの荷台にいるであろう4歳児に「あの山なんだっけ?」と特に期待することも無く聞いてみた。


反応なし。


振り返ってみると、さっきまで姦しくママゴト遊びをしていた4歳児とコグマは遊び疲れたのか荷台で絡まって寝ていた。


(さっき昼飯食べたばかりだしなぁ)


一人と一頭は、荷台の上にある俺の荷物を、およそ目も当てられないくらい引っ掻き回してくれている。

幌の中で俺のパンツが何枚も吊るされているのは一体どういう所以によるものなのだろう。

4歳児、恐るべし。


(・・・俺も眠い)


瞼が重い。


「・・・・ふぁ・・あ?」


ん?


なにか聞こえた。


ちらりと荷台を見ると、眠気眼のクーと目が合った。


ふむ。


金属音。

これは。


現在、俺の馬車は行商人のおっちゃんの後ろを走っている。

護衛の観点で言えば、前を走る方が常識なのだが、何分馬車の重さから足の速さが違うので、前を走るとどうしても置いてけぼりになってしまうのだ。


「おっちゃんっ!!止まれっ!!」


速度を上げて前の馬車を追い越しつつ、おっちゃんに声をかけた。


「な・・なんだ坊主、そんな血相変えて?」


おっちゃんは訝しみつつも馬車を道の端にある退避場に寄せて停めた。おばさんも幌を掛けた荷台の中から顔を出した。


「前から何か来る。戦ってる音がする」


聞こえるのは金属音。

街道の進行方向左手には森があり、街道は森の側を迂回するように伸びている。

つまり見通しが悪い。


(剣、盾で弾く、重い足音、怪我か、軽い足音が多数、後ずさり、断続的、包囲するように・・・)


「・・チッ!」


撤退戦かッ!


「道の向こうから誰かがこっちに逃げて来てる、“サル”か何かを連れて」


街道で生きてるなら、それだけ言えば解る。

おっちゃんとおばさんの顔が変わった。

「おい坊主、それホントか・・」

おっちゃんが言い終わらないうちに、


キィン!!


甲高い金属音。


もう近い。

大分足が速いな。


「おっちゃん、結界杖の使い方は?」

「・・あ、ああ昔っ使ったことはあるっ!?」

上擦ってるし、なんで疑問形なのさ。

「じゃあ、結界張っといて」

俺は荷台から4歳児とクーのおもちゃになってた結界杖を取ると、おっちゃんに渡した。

「ん・・にゃーにー?」

おや、4歳児も起きてしまった。


「・・・」

杖を手に黙り込むおっちゃん。

おもむろに御者台から降りると、なぜか杖をくるくる回して、石突の方を上にして地面に立て、

「結界っ!」

と叫んだ。


「・・・」無表情の俺

「・・・」そっと目を閉じるおばさん

「・・・」スッと目を逸らす息子

「キャッキャイッ!キャッキャイ!」喜ぶ娘

「くぅ?」首を傾げるコグマ


「・・・知らないなら知らないって言いなよ・・」

「スマネェ!」とウィンクしてきた。

ムハー。

なんかおっちゃん余裕あるな。


おっちゃんから杖を取り上げ、石突を地面に突き刺す。

ヴゥンという音と共に簡易結界が起動した。


「絶対、この結界から出ないでよ。クー後はたの・・」

んだぞ、と言おうとしたら、もうすでに見えるとこまでにソレは来てた。


道の先・・もう80メールもない森の向こうから、


逃げてくる人間・・・5人。


それを追いかけるように・・

(あぁー・・やっぱり【サル頭】・・・20・・・30・・・エー・・40・・48!)


48匹のサル頭が現れた。


人間とサル頭、

その両方が、猛スピードでこっちに迫ってくる。



サル頭。別名サル。サル人。正式名・・あれ?知らないや。

魔物の一種。サルのようなでもちょっと違う何かの動物の頭部をしており、半人間のような胴体手足をしている。二足歩行で追いかけてくるが4足でもいける。

体長は平均1メール半から大きなもので2メール。世界最高記録は4メール超えの通称サル王が確認されている。

この世界にも普通のサルはいるのだが、こいつらは別。


性格は非常に凶暴で狡猾。人間と同様道具を使う知恵を持ち、人を罠にかけ大勢で襲って捕食することもある。

イメージで言えば、元の世界での話に描かれていたゴブリンが近いが、『人間の女を攫って・・』なんてことはしないし、人間は老若男女すべからく食料としかみなしていない。


ベテラン冒険者なら難なく倒せるし、新米でもそこそこ戦える最下級の半魔物ではあるが、群れとしての脅威度は驚くほど高い。

街道をゆくものなら『サルが出た』と言われたらすぐに思いつくほどメジャーな魔物でもある。

でもある、が・・・


「なんだ・・あの数」

思わず呟いてしまった。

通常、20頭以下で一つの群れを作るサル頭が40頭以上。

少数でとか森の奥とかなら兎も角、街道に近い部分にあんな大群なんて聞いたことない。


「うゎわ・・っ」

「ひぃ」

旅慣れた行商人一家も流石にあんなのは初めて見るのだろう、おじっちゃんとおばさんが息をのんだ。息子は前方を見つめたまま固まっている。


「ぼ・・坊主・・!にげ・・にげたほうが・・」


街道の後方からも続々馬車は来ている。

既に異常に気付いて馬車を捨てて走って逃げている髭のおっさんもいる。


「ダメ。結界の中の方が安全だよ。それに逃げるにはちょっと遅すぎるし“ネト”になるからダメだ」

おっちゃんがこの状況に混乱して結界から出られても困るから、少しの【威圧】を込めて言う。


こっちの言葉で“ネト”という行為。

前の世界で流行っていたネットゲームでいうところの『モンスタートレイン』だとか『モンスターPK』とかいう行為と大体同義だ。


こちらの世界には“ネト”という鳥の魔物がいる。そいつは器用にも自分を他の魔物に追いかけさせ、それをまた他の魔物にぶつけ、どちらかが死した後の死肉を啄むという習性をもっている。

つまり、自分を襲っている魔物に他人を襲わせて、自分は逃げる或いは火事場泥棒をする行為の事を指す言葉として、ネトが使われるようになったらしい。


以前、旅人や冒険者が「ネトってしまった」だの「ネトられた」だの言っていてビックリしたよ。ああうん、意味は解らないよ。子供だからね?


俺の馬車の周りも、前方の様子が分からない後ろから来た馬車の行列でダマになってきて、下がるにも下がれない。・・・まあ、迎撃するんだけどね。


「おぎゃーおぎゃー」

周囲の雰囲気を感じ取ったのか、おばさんの腕に抱かれた赤ちゃんが泣きだしちゃった。


(そうだよな、こんな周りが五月蠅かったらゆっくり寝れないよな)


「大丈夫大丈夫」

赤ちゃんのほっぺを触る。

ぷにぷに。


荷台から、まいでぃばいんそーどを取り出すと、

「クー、後は頼んだ」

そう言って、「ウキウギャムギーウキッ」と五月蠅いサルの群れに向かって駆けだした。



サルの群れの前を必死で走る5人の人間が見える。


男3、女2。


5人とも傷だらけで、内男一人と女一人はそこそこ深い傷を負っていた。

痛むんだろうけど、死ぬほどじゃない。必死で走っている。


恰好からすると冒険者だろう。


まだ若い。


それも身体と装備が馴染んでいない。


走り方がドタバタ。


(・・・全身を巡る【力】の流れが 稚拙(ヌル)いっ!!!)


流石に温厚な俺でも頭にくる。


(・・・新人(なりたて)かっ!!)


危険を承知で魔物狩りに挑むのはいい。死んでも自己責任の範囲だ。

しかし、切羽詰まってとはいえ一般人も通行する街道に逃げてくることは<冒険者>でも<魔物狩り>でも一番やっちゃいけないことだ。それも魔物の群れを。


・・・もし、この規模のサルの群れが街道に出たなら、即座に最寄りの町には警戒令が出され、街道は封鎖、討伐隊が編成される。

俺らはさっきの開拓村でサル頭の群れが出たとは聞いていない。噂すらも。


(・・ということは、こいつらが、森の奥から連れてきたということだ)


無謀な初心者の失敗談はよくシュナ達から聞いていたが・・・。


(間抜けどもが)


推測通りなら、正直こんな迷惑な初心者は魔物のエサになってもしょうがないと俺は思っている。

・・が、万が一にもやむを得ない事情が有るかもしれないし(それでも許されることではないが)、本当に偶然、彼らも巻き込まれたうちかもしれない。

あまり考えたくはないが、冒険者ギルドの過失という事も考えられる。


理由はどうあれ、それでも、

(・・・お前らは、冒険者だろうがっ!!)


走りながら迫ってくる冒険者とサルの群れに向けて、正真正銘の【威圧】を放つ。

いつも使ってるような、視線や雰囲気を強めた程度の“お遊び”や“威圧交渉”レベルの・・ではない。

視線や雰囲気と言ったなんとも漠然としたものに【巡る力】を乗せ、相手の【巡る力】を一時的に攪乱させる(わざ)としての威圧。


【戦闘用全力威圧≪貫きの眼≫】


魔術とは似て非なる不可視の力を、視界に移る全てに叩きつけた。


【全力威圧】を受けた全53体のイキモノは、全身が感電したように震えるとその場に縫い止められたように固まった。

無論、5人の冒険者も全て。


先頭で固まっている冒険者の横を通り過ぎると、サル頭48匹を即座に迅速に斬り伏せていった。


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