昔話 訓練場にて
「この世界は、良くも悪くも“ベツモノ”なんだよ」
先生はそう言った。
―――
一歩後ろへ退く。
半歩左に、横を向く。ちょっとお辞儀。
一歩前進、踏み出された脚を引っ掛けて転がす。
ごろごろごろ。
「ダメ―。剣に振られて体が泳いでる。素振り100回」
「違うー。点・線・面を考えて戦え。いつまでも剣を見るんじゃない、全体を見ろ」
「動きに切れ間を作るんじゃない。常に流れを意識しろ。いわんこっちゃない」
「チームの基本は同時攻撃と波状攻撃だ!突出するな死ぬぞ!見なくても反応しろ、周りの動きを感じ取れ、息を合わせろ、陣形の立て直し以外の個人に意味は無い!」
朝一から、フル装備ランニングと鉄剣素振りから始まり、
組打ち、捕縛訓練、集団模擬戦、多対一戦、連携確認、負けたら訓練場マラソン。
最後は俺・・じゃない【大魔獣アトルゴン】と騎士21人による捕獲戦×2。
・・大分、陽も大分高くなったな。
お昼の時間だし、俺も腹減ったので休憩にしてやるか。
「よしっ!昼休憩だっ飯食って来いっ!!」
訓練場にいた騎士42名が、その場に一斉に倒れた。ドサッと。
「ぐへぇ」
「し しぬぅ」
「かえりたいもうかえりたい」
「にとうきんが じょうわんにとうきんが・・」
だだっ広いアザレア騎士団訓練場には、ただ今42体の半死人が蠢いていた。
(この程度の訓練で泣き言とは情けない)
「・・マーカスも、ちょっと鈍ってるんじゃないか?」
「・・む 無理 言わんで 下さい よ。そうそう・・・若についていける 訳ないでしょうに・・・」
他の騎士と同じく、地べたに腰を下ろしてへばってる第5騎士隊長マーカスが息も絶え絶え応えた。
マーカス・ドルト。
何か月か前、結婚を機に傭兵団から騎士団に移籍した元傭兵だ。
どれだけ要領よくやったのか、騎士隊隊長にまで出世していた。
・・・やはり、前騎士隊長の娘を落したからか?
「昔のお前はもっとギラギラしてたのになぁ」
「そ・・れは、言わんで下さいぃー」
マーカスは悶えながら、仰向けに倒れ込んだ。
今日は騎士団訓練日。
俺の数少ない定期的なお仕事の一つで、月一で騎士団の連中に稽古をつけてやる日だ。この時ばかりは俺鬼教官。連中が死なないようにするためだ、心を鬼にするさ。決して少なくないお小遣いが貰えるからではない。(後でクーと“グリングリン”行くけど)
「死なないための訓練にやりすぎなどない!」先生もそう言ってた。
・・・アレ?
死なないようにする訓練で、俺、何度も死にかけたような・・?
記憶の中の先生が「気にスンナ!」と晴れ晴れとした笑顔で言った気がした。
・・・気にしても仕方ないな。きっと。
「今日は 一段と 気合 入って ますね・・・若・・・」
「あー・・、この間のクロワトの話聞いたか?」
尋ねてみる。
「えぇ 一応、報告は 聞いてます。若も 戦ったとか?」
「ああ、うん。結構強い奴ではあったんだけど・・・」
「なにか?」
「俺が鈍ってるのに、ビックリした」
「はい?」
「確かに、ここ最近のんびり過ごしてたからかなぁ?身体がイメージ通りに動かなかった。そのせいで、めっちゃ手こずった」
アザレアに来て傭兵団に入ってから、ほぼ命がけの修行も戦いもしていない。勿論、日々訓練はしているが、訓練はあくまで訓練。実戦における勘がだいぶん鈍くなっていた。
日常を脅かす脅威が無いのは悪い事ではないけど、自分の身体の鈍さにそこはかとない脅威を感じる。
出来てたことが出来なくなるのはなんとも・・・心もとない。
「若が手こずるって・・。よほどだったんですね。稽古つけてもらってる限りじゃ、鈍ってるなんて思えませんよ。大の騎士共が8つの子供に勝てないって・・普通トラウマモノですって・・・」
『前の世界では考えられんだろ?6つにもならねぇ子供が大の大人より強いって。どんだけだよ』
そういえば、昔、先生にそう言われたことがあったな。
なんかあの時より弱いんじゃないか、俺?
・・・ハッ!
「・・・毎日、お菓子食べてるからじゃ・・・ないよな?」
食べ過ぎ?
太った?
「太ってはいないですけど・・・どんだけ食べてんすか」
「・・・・二箱ぐらい?」
「箱?」
「クッキー、プリン、ケーキ・・・」
うへぇ・・とマーカスは舌を出した。
そういえばこいつ甘味がダメだったな。可哀そうな奴だ。
「若も成長期だから仕方ないかもですけど・・甘いモノばかりは・・」
「肉も大好きだ!」
ハンバーグ!
チーズハンバーグ!
煮込みハンバーグ!
「そんな連呼されても・・・俺も好きですけど・・そうじゃなくて」
花マルハンバーグ!
「ハナマ・・?・・・まあいいや・・・」
自己完結すんな。
「あ、そういえば、今日の食堂メニュー、チーズハンバーグだったような。良かったっすね、わ・・・わぁかぁ~~~~!?」
そうと聞いてはのんびりしておれぬっ!
全てのチーズハンバーグは俺のものだっ!
「いくぞっ!マーカス!チーズなハンバーグが俺を呼んでいる!」
「イタイッ!尻がやぶけ・・っ!?若?わかぁ!!??」
ズルズルズル。
マーカスの後ろ襟を掴んで、引き摺って食堂へと向かった。
―――
「前の世界では考えられんだろ?6つにもならねぇ子供が大の大人より強いって。どんだけだよ」
先生がそう言ったのは、いつだったか・・。
・・・そう、先生と、ある盗賊団を全滅させた時だ。
そうそう、雪が降ってた。冬だな。
その盗賊団は少しの食料を強奪するためだけに、ある村の住民たちを虐殺し、なんのためにか火をつけた。
村には避難施設があるのだが一番最初に盗賊たちに抑えられてしまったらしい。
虐殺から何とか逃げ延びたわずかな村人たちは、遠回りになる街道を避け、かなりの近道になる森に入り、隣村までなんとか辿り着いた。
そこに俺と先生が逗留していた。
辿り着いた村人から齎された盗賊共の蛮行に、その村は戦々恐々となり、討伐依頼と残された村民の救助依頼が先生にまできた。
その時の俺は、盗賊と言うものに対する憎悪と怒りが溢れていて、その話を聞くなり飛び出してしまった。
――
村人から聞き出した村への道を一直線に駆け抜け、村にたどり着く。
背中を切り裂かれた男。
身体に何本もの矢が刺さった母と子。
道沿いに点々とある、死体、死体、死体。
殆ど焼き尽くされた家屋が、まだすこし火をくすぶらせている。
もともと長閑であったろうその村は、嬲られ殺された死体が点々とする地獄に変わっていた。
(・・・煙)
村の中心にあるひときわ大きな建物の煙突から煙が出ていた。
雪が降ってきたからだろうか、盗賊たちはさっさと逃げもせず、暢気に宴会でもしているのか。
この時期と天候では騎士団などは来ないと高をくくっているのかもしれない。
見張りさえ立ててない避難所の玄関扉を開け中に入ると、
「いやぁーーーーーーっ!!」という甲高い声が聞こえてきた。
声が聞こえた、入ってすぐの部屋の扉を開けると、中にいる人間が一斉にこっちを見た。
食堂だろうか?広い部屋の中には暖炉があり、よくもまあこれだけと言うほど人がいた。
鎧を着た22人のクズ。
部屋の隅に6人の女の人が座り込んでいる。どの人も怯えて顔で蹲っている。殴られたのか顔が腫れている人もいる。泣いた跡もある。
そして部屋の真ん中、長机の上には一人の泣きじゃくる女の子がクズに手足を押さえつけられ、服の胸元が破られていた。
とても分かりやすい光景。
とても悍ましい光景。
「なんだぁ・・・?まだガキが残ってやがったのか?」
「途中で雪が降り始めたんで、まだ全部の家を見てませんぜ」
一番偉そうな男と小鼠みたいな男が声を出した。
「チッ、いいところだったのによ・・。しかたねぇ、ダズッ!上のガキどもの部屋に突っ込んどけ。泣かれるとビービーうるせぇからな!」
上の部屋に“子供”がいるのか。
扉の脇にいた薄らデカい男がこちらに手を伸ばしてきた。
「へい。オラ、ガキこっちへ・・」
「お前らが 盗賊か?」
「あぁ?」
「なんだぁこのガキ・・」
とりあえず、確認はしておく。何事にも万が一はある。
「ヒャハハハハッ」
偉そうな男が笑い出した。
「ああー・・面白れぇ。俺達が盗賊だって?
いーんや、違うぜぇー、俺らは“灰色の狼”傭兵団!!
このあたり一帯を魔物の魔の手から民を守ってやってる気高い傭兵団さぁ!!」
「傭兵団?」
「ああ、そうだ!俺らは常日頃か弱き民を守るために命がけで戦ってるっ!なら、か弱き民どもは、たまにはこうして俺らを癒してくんねぇと、割が合わねぇだろうっ!?なあ皆の者よ!!??」
「ガハハッ、ああそうだそうだっ!!」
「たまにはこんな役得でもねぇとなっ!!ギャハハッ!!」
「その団員とやらは、ここに居る22人で全部か?」
「・・・ぁあ?」
「まさかこの中に村人が混じってるとかない?」
机の上で押さえつけられたまま固まっている女の子に聞いてみた。いないとは思うけど。念のため。
「てめぇ・・・なにいって・・・」
「・・・いな・・い」
女の子が答えてくれた。
この女の子、部屋の隅で蹲ってる女の人たちより、目に強い光がある。
俺が女の子に近寄ると、押さえつけていたクズ共が手を離して一歩引いた。
女の子はすかさず破られた服を手で合わせて隠す。
「上に子供たちが?見張りは?」
「・・・多分、いないと、思う・・」
「じゃあ、あの女の人達と二階の子供たちの所へ行っててくれる?」
「・・・え。で、でも・・・」
「早く」
俺は悠々と歩いて部屋の隅の女の人たちの所へ行くと、「もう大丈夫だから、二階へ行っててくれますか?」と女の人達を立たせて、部屋から追い出した。
女の子は何度も俺を振り返ったけど、手でしっしってやって追い出した。
そんな悠長なことをやっている間も、
誰一人動けはしない。
本能で感じているのだろう、
今動けば“死ぬ”と。
・・・いや、動いても、動かなくても、死ぬ、と。
部屋の扉を閉めると、部屋中に満ちる男共を見渡しながら言う。
どの顔も、脂汗をだらだらと掻きながら固まっている。
「お前らの御託はいいんだ。聞いても仕方ない」
本当に。
抵抗だけはさせてやる。
後は、ただただ・・・
「 地獄へ行け 」
この世界にはあるのだろうか、地獄。
―――
「盗賊だって、犯罪奴隷として売れるんだぞ?もったいねぇなぁ」
先生が部屋を見渡しながら言った。
「そんな金いりませんよ」
「あぁ?誰がおめぇにやるんだよ。この村の賠償に当てんだろが」
ハッ!
「・・・・それも、そうですね」
言われてみれば、その方が良かったな。失敗失敗。
とりあえず先生が先発してきたらしい。「俺が飛び出していった」と村人が心配してくれたらしいが、先生はのんびり歩いて来たそうだ。
そういう先生だ。よく知ってる。
先生曰く、逗留していた村の、そのまた隣の村に運よく巡回騎士が来ていて、村人が呼んできてくれるそうだ。
この辺は谷が多くて村同士の間隔が狭いらしく「明朝には到着できるらしい」と、先生よりだいぶん遅れて到着した鍋や蓋で武装した隣村の村人が伝えに来てくれた。
「しっかしまあ、末恐ろしいガキだな、オメーは」
「なるべく汚さない様には配慮しましたよ」
部屋の中には22人の死体が転がっている。
血が飛び散るような始末の仕方はしていない。
砕いたり折ったり潰したり。
方法はどうあれ、気持ちのいいものではない。
「いやいや、この光景を作り出せる精神がだよ」
「慣れたくはないけど慣れました」
葛藤はある。
盗賊なんか皆死ねばいいと思ってるけど、俺にだって人を殺してはいけないという倫理観ぐらいはある。
命は誰にとっても尊い。
でも殺さないと代わりに誰かが死ぬ。
村人が死んでいた。
母と子が死んでいた。
過去にも俺が甘かったから、死んでしまった人たちがいる。
どれも取り返しがつかない。
そんなのばっかりだ。
覚悟はしていたつもりだけど、この世界はホントに優しくはない。
先生が下唇を突き出してブーと鳴らした。
「しっかし・・前の世界では考えられんだろ?6つにもならねぇ子供が大の大人より強いって。どんだけだよ」
椅子に座ったまま死んでいる一番偉そうだった男の死体を床に放ると、先生が後釜に着いた。前任者よりなんか偉そうだ。
「先生よりは弱いですよ」
「たりめーだっ!!俺が何年も掛って鍛え上げた力、簡単に超えられてたまっか!!」
実に子供みたいな先生だな。
「・・・しかし、お前の【巡る力】はこの世界の中でも、ちょっと見ないアレだなアレ」
アレってどれさ。
自分でやっといてなんだが、この世界の人間は容易く前の世界の人間の限界を超える。6歳の子供が100キールマラソンすることも鉄の大剣を振り回すことも、前の世界では到底不可能な事だ。
そんな世界の中でも、俺の【巡る力】はかなり強く大きいらしい。
【巡る力】とは体中のエネルギーを纏めた総称の事らしい。人間の随意不随意筋力、血の巡り、新陳代謝、魔力循環、果ては【意志力】と呼ばれるこの世界でも存在証明されていない力までを纏めて一つの力として操る、その力の和或いは積が【巡る力】ということだそうだ。
活性させると、体の中を“力”が巡ってる感じがするので【巡る力】と呼ばれている。
無論、一個一個意識して扱う類のものではないが、この世界の戦士なら感覚的にでも大なり小なり使えるのだそうだ。というか、使えないと戦士とは呼ばれないらしい。
先生の下で“生き残るため”の修業をするようになってもうすぐ半年。剣などの修行はしていない。先生が言うには「チビにはまだ早い」「俺の剣はほぼ我流なので、どうやって教えたらいいのか知らん」と言う事なので、とりあえず【巡る力】の基礎修練だけしている。
基礎。
それだけ。
ただそれだけで、武器も使わず武器を持った大人を“蹂躙”できるのだ。
人を。
命を。
「この世界は、良くも悪くも“ベツモノ”なんだよなぁ」
先生は部屋の奥に行くと、コップで水瓶から水を掬うとゴクゴク飲んだ。
よくこの部屋の中で飲めますね。
「【魔力】や【巡る力】があるからということですか?」
「いや、違う」
先生が即座に斬って捨てた。
「【魔力】も【巡る力】も違いっちゃぁ違いだが・・・そういう即物的な話じゃねえよ。
・・・オレからすりゃここは【神様がいると知っている世界】なんだよ。これだけで前の世界とは天と地の差だ」
「それはそうですけど」
「概念の一つが違えば、人間の考え方がひっくり返っていると俺は思ってた。例えば・・・そう、天国と地獄とかな。こっちの人間のほとんどがその存在を信じてやがる。俺らはあの世が有ることを知ってる」
「そうですね」
確かにかなりの違いだ。
死んでも行ける場所があることを知ってる。
存在を知ったうえで、祈らない人もいるけど。
ん?
知ったから祈らない、そういうこともあるのか。
「オレもさぁ・・良く分かんねぇんだよ。
ガキの頃さ、地獄があることが証明されりゃ悪事を働く奴なんていなくなるんじゃないかと思ってたんだ。でもなぁ、この世界の奴らは地獄があることを信じてるのに平気で悪事を働く。
世界はこんなにも違うのに、
これじゃ元の世界とそんなに変わんねぇ。
・・何でだろうな?」
「遠すぎて実感が無いんじゃないですか?」
死後のことなど考えても仕様がないと考える人間は必ずいる気がする。
そう考えると、神様がいることを知っていても、信じていなくても、世界が違っても、人はあまり変わらないのかもしれない。
「そうだなぁ。そうかもしれんな。
・・・こいつらは地獄に行けたかな?」
22体の死体を見ながら先生は言った。
「・・・どうでしょう」
さっきは「行け」と言ったモノの、こちらのアノ世事情は知らない。
あるなら、行ったんだろうか。
「オレらは地獄に行けるかな?」
先生は俺を見てニヤリと笑った。
「閻魔様が人の法で人を裁くなら行くんでしょうけど・・・。正義なんて時代や場所によっても違いますからね」
「どっかで聞いたようなセリフだなぁ」
俺もどっかで聞いたセリフですよ。
「死んでから閻魔様に『理由はどうあれ殺したから地獄行き』と言われたら、まあ仕方ないので地獄へ行きますよ」
でも後悔はしないだろうな。
生きてくことは“問答”ではないと思ったから。
生きてくことは“選択”だと思ったから。
何を選んでも、すべて俺の意志だから。
「まぁた、なんか難しい事考えてんな?禿るぞ?」
先生がニヤニヤこっちを見ている。
「禿ませんよ。禿させませんよ。ふさふさですよ。モフモフですよ」
失敬な先生だ。ほんと。
―――
「・・・んで、その後は騎士団が来るのを待ってから目的地に旅だったよ。その村のその後?さあ?すぐに中部諸王国連合に入ったし、もうユーベルニアの方には行ってないからなぁ」
騎士団の訓練も終わり、マーカスら騎士団の連中と茶を飲みながらの雑談の折り、東部に出るという盗賊傭兵団の話題が出た。
「若は実際に盗賊退治したことがあるんですよね?」と俺の昔の話をせがまれたので話してやった。
ラインレッドは治安がいいので、新兵連中はおろか中堅騎士の中にも、盗賊退治をしたことのない人間がいるのだそうだ。
ちなみに、こんな世界だ、『食料を盗む』という行為はすべからく厳罰になる。
元の世界でいう万引きくらいの罪でさえ、都市部でも年単位の禁固や強制労働は当然、田舎へ行けば行くほど厳罰化の傾向は強い。盗賊団などには、すべからく死刑以外の結末は用意されていない。
地域によっては強制労働刑や労働奴隷化やなどもあるのだが、アルザント王国は基本犯罪奴隷以外の奴隷所持を禁止している。
それに犯罪奴隷を持つにしても、まず税金がかかる。長期的には安上がりなのだろうが、管理の為に【魔術による枷】を利用するにも設備投資や維持する金も馬鹿にならないし、この魔術全盛時代にそうそう仕事があるわけでもない(ある程度の仕事までは、人力は結構効率が悪いらしい)。
ラインレッド領はあまりそういった労働力を必要としていない土地柄でもある。
あと、この世界の犯罪者には、人権思想のある現代日本社会のように“更生”という概念は念頭に置かれていない。
罪には相応の罰を、実にシンプルな社会だ。
「若・・・そんな歳からもう戦ってたんですね・・・」
マーカスが生暖かい目で見てきた。
「芸は身を助ける、だな」
「・・・戦闘技術は芸ですか?」
「似たような物だろ」
マーカスが「うーん」と唸って頭を抱えた。結構ロマンチストなやつだからな。戦いに理想を持ってるところがある。だから騎士になったともいえるのか。
「そういえば、さっき剣術は習ってないって言ってませんでした?話の中で」
まだ若い騎士が質問してきた。
「ああ、剣術なんかは正式に習ったことは無いな。先生に付いた2年ほど、ほぼ【巡る力】の基礎訓練だな。“訓練の仕方”を習っただけだ」
騎士たちがざわつく。
剣術習ったことも無い奴に勝てないんじゃ、騎士の矜持も立たんわな。
「・・・え。じゃじゃあどうやってそんな・・・?」
ふむ。
「戦わされた」
「戦わされた・・・って、何とですか?」とマーカス。
「先生に連れていかれた先々でなぜか人が待ってるんだ。んで唐突にこう言われる『こいつに一週間以内に勝て』って。それでほっぽり出される。んで地獄の一週間が始まるんだ」
「えー・・っと、誰なんですか、それ?」
「 ・・・・・・・。
<人外卿>クリュドナナフ、<日緋色の聖騎士>バルザンベル、<瑠璃羽の魔法使い>ルーウェル・ナスベル、<金門城塞>バーガンドー、<天道拳魔>オーバール、<最後の災厄>メルネル・ダバー、<腐り歌姫>ラランラーラ 」
指折り数えてみた。
「ギャーッ!!」
「グフッ、も・・もうだめだ・・・」
「若、可哀そう、若!!」
騎士が騒ぎ始めた。
「それって・・・あの・・・やっぱり・・・?」
マーカスの問いに、俺は肯く。
「・・マジモンの七星。人外の中の人外。最悪の中の最強。あの人らマジで人間じゃねぇよ?一勝どころかまともに戦えもでけんかった。
んで、勝てなかったら次って感じで連れていかれる」
くそう。
思い出したら悔しくなってきた。
「・・・その名前を相手に悔しそうにしてる時点で、若も大概ですよ・・」
「いつか、やつらを踏み倒しに行くのが俺の夢」
後5年・・・いや3年くらいで・・・。
「・・そ・そうですか・・」
マーカスが呆れた顔をする。
信じてないな?
アトルクンウソツカナイ!
「むはー!思い出したら腹立ってきた!!もういっちょ訓練するかっ!!??」
「「「「「 いえっ!!!もう結構ですっ!!!! 」」」」」
何故か騎士団の皆が一斉に叫んだ。
むう。
―――その頃のクー
「クーちゃん、今日は楽しかったねー」
「ぐぁー」
「ねー」
クリュネのたっての頼みで、ポーレさんを含むクリュネの仲良し5人組とデートしておりましたとさ。




