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傭兵の為に鐘は鳴る  作者: すいきょう
余話
56/87

友話 使い魔<友達

ぺろぺろぺろぺろぺろぺろ。


「・・・んー、わ・・かったよぅ・・起きるよう・・・」


クーが一生懸命、「あそぼー」と顔を舐める。


そんな日常。

変わった日常



クーと一緒に食堂に行くと、女将さんと料理番のロッソムが朝食の支度をしていた。

傭兵団が経営する旅籠“赤旗亭”は、一般的な旅籠業務と共に、傭兵団の施設として一部共有している部分がある。それが食堂だ。団員への食料供給と宿泊客への食事を一括して担っている。


食堂には何人かの宿泊客が早めの朝食を摂っていた。団員連中は・・・この時間にはまあいないだろう。仕事があるならもっと早い時間の出立になるし、傭兵は仕事が無いと途端に時間にルーズになる。俺も例に漏れない。


俺が席に着くと、女将さんが朝食を持って来てくれた。

トレーの上にはふわふわ焼きたてのパン5つと野菜煮込み、ムームーのホットミルクが乗っていた。


ムームー・・・一般的な酪農家畜なんだが・・・。牛・・・だとは思うんだが、ウシにシカのような角がついている生き物だ。うん。もう牛でいいかな。


「あんた、最近ちょっと早起きになったね。これもクーのおかげかねぇ」


「さすがに、顔中を舐められたら起きるよ。さすがに」


毎朝という訳ではないが、ベトベトだ。

基本、俺もクーもネボスケ三太夫なのだが(三太夫ってなんだ)、クーの方が早く起きると大概そうなる。俺の顔からはちみつでも分泌されているのだろうか。・・・あれ、想像したらちょっと怖いな。なんか想像以上に怖い。大丈夫か、俺の顔?


俺の気も知らず、クーは長机の上で一生懸命ミルクを飲んでいる。たまに俺のパンを食べたりしている。自分の分あるのにね。かわいいね。


クーを連れて食堂にいるのだが・・・この世界、割合動物が生活の身近にいるため、そんなにうるさい事を言われない。使い魔持ちは普通に連れて食べてるし、日本でならこうはいかないだろうなぁ・・・。ここは衛生観念が大分緩い。


クーがここに来て1週間経った。


コグマのいる光景は、だいぶん馴染んだものになった。

使い魔の8割は犬、猫、鳥と言われている。やはりこの世界でも最も人間に身近な生物は彼らの様だ。もっとも、生物としての細部は微妙に違うようだが。


コグマの使い魔は中々珍しいようで、当初はその愛らしさと珍しさから見物に来る者が後を絶たなかった。大勢やってくる人々に挙動不審だったクーも次第に慣れ、まるでパンダの如く愛嬌を振りまいては食べ物を貰っていたが、さすがに一週間も経つと落ち着いてくる。クーも腹を見せて満腹のポーズだ。


・・・騒がしいのが来た。


「くーちゃんくーちゃん」

食堂に入ってきたクリュネが、こちらに気付くと一目散に寄ってきた。そして一生懸命にクーの腹を撫でている。


「あんまり構いすぎると、ムッカみたいになるぞ?」と言うと、クリュネはしゅん・・としてしまった。


「今から仕事か?」


クリュネは旅装をしていた。


「ええー、この前言ったじゃないですかー。ルミネル達とカヴァンに行くって」


「カヴァン・・・」

そういえばそう言ってたな。

ドドのオヤジがしきりにクリュネに休暇を勧めてた。

まあ、偵察兵単体など今の傭兵団では運用のしようがないし、実際に疲れてるようだからいい骨休めだ。


カヴァン。


アザレアから南に進むこと一日半、カラヴァリナ山脈の麓にある温泉郷の名である。100年前、ここに領を貰ったラインレッド子爵が、未開の温泉地だったカヴァンを観光資源として開発し、近隣諸領からも湯治客が押し寄せるという一大観光温泉郷に仕上げたそうだ。

加えて、なぜかカヴァンには・・・というか、この世界の温泉地や火山帯には魔物などは寄り付かないらしい。硫黄かどうかは知らないが、なにか魔物が苦手とする成分があるのでは?と言われている。

近づけるのは火竜や溶岩蜥蜴などの脅威度Aの大物だけなのだとか。


ちなみに、俺も年3は行っている。冬場はずっとカヴァンに居たい。


(温泉か・・・それもいいなぁ)


「はい!女の子だけの小旅行なんですよ!ポーレも一緒に行くんです!」

とっても楽しそうだ。


「そんなに仲良くなってたのか?」

「話がとっても合うんです。とっても良い子なんですよ?」

「知ってるよ」

良い子って、向こうの方が年上だろうに。


「ホントは朝に出るはずだったんですけど、シュナが午前中どうしてもギルドに出ないといけないらしくて、午後からの出発になったんです」


ふむ。女だけの旅行か。シュナが行くならまあ危ないことはないかな。

この世界には結構盗賊が多い。しかし、このラインレッド領に置いては、ほぼ凶悪な盗賊団は出現していない。

なぜなら、このラインレッド領、なかなかの観光立国であるからだ。開墾地である西部はともかく、南部の温泉郷カヴァンと東部ラディア湖湖畔の別荘地は、観光地として莫大な税収を領に落としてくれる。


治安の安定はもろに領政に直結しているのだ。カヴァンやラディアへの街道は常に交通量はあるし、独立した街道警備隊が組織され巡回警備しているので、ポッと出の盗賊などなかなか出ない。無論、皆無ではないが。


「・・・若も行く?」


「むーん。行きたいけど・・・明後日、子爵にお呼ばれしてるしなぁ・・」


「子爵様にですか?」


「この前、行けなかったからなぁ」


先方に事情は説明したモノの、あそこの家族は押しが強い。行かないといつまでもコイコイコールが続きそうだ。


「むー」


「まあ、ゆっくりしてくればいいさ」


「・・・はーい」

そんな不服顔せんでも。


「あっ!そうだ若、シュナが呼んでましたよ?早めにギルドに来てほしいって」


「シュナが?要件は?」


「クーちゃんを登録してほしいそうです」


「あ、あー・・・」

(そういえば、そういう手続きあったな。失念してた)


午後からシュナはいないっていうし、午前中にギルドに行ってみるか。

甲斐甲斐しく世話を焼こうとするクリュネを制し、朝食を終える。


(・・・ふむ、ここはひとつ太っ腹なとこを見せてやるか)


「クリュネ」

「なんですか、若?」

「旅行のお小遣いやろうか?」

「・・・わ私の方がお姉さんなんですっ」


・・・え?そうだったの?




さてさて、やってきました【冒険者ギルド】。


アリアバラ通りにあるひと際大きい建物が、かの組織のギルドホームだ。

石造り7階建て訓練場併設、総面積120ヘリル。

なまじっか辺境領主の館よりも広いその威容に、流石のクーさんも興奮気味だ。

世にあまねく冒険者のほとんどが、なんらかの形でお世話になる組織。ある意味、国家よりも横に広い組織でもある。


その業務は、冒険者の仕事の斡旋や支援に始まり、冒険者同士の揉め事の仲裁やダンジョン経営の委託業務まで多岐にわたる。冒険者の生活に深くかかわる一方、金融事業や治療院の設置や各種災害の早期対応など、一般人の生活にも深くかかわっている。


結構、いろんなところに根を張っている組織なのだ。


玄関から入ると、冒険者ロビーと各種受付カウンターがあって、元の世界の市役所然としている。行ったことないが。あの世界のビルの中もこんな感じだったな。


ロビーには、未だ今日の仕事が決まってない冒険者でいっぱいだった。

冒険者ロビーの壁には大きなコルクボードが据え付けられており、様々な依頼が報酬と共に張り出されられている。

ちょっと覗いてみよう。クーも興味津々だ。


<庭の草むしり 100ゼル~>

<町内会ドブ掃除 道具貸与アリ 時給30ゼル>

<ミーミをさがしてください しろとくろのネコさんです はんどうかいちまい>


(・・・・これ、ホントに冒険者の仕事か?)

最後のは明らかに子供の字で書いてある。一応検印はついているので正式依頼なんだろう。


<討伐・素材収集コーナー>


<屋根裏にクモネズミが住み着きました退治してください 500ゼル>

<牧場に妙なオオカミが出ます。殺っちゃってください 800ゼル>

<大鎧蛇の皮急募 キュロ15000~ 状態鑑定アリ>


ぬー。

どれも微妙だが、大鎧蛇は結構実入りがいいように見えるが、脅威Aの獲物・・いったい何人が狩れるのだろうか?


ついつい俺が掲示板の前で物思いに耽っていると、いつの間にか隣に、いかにもベテラン冒険者風の兄ちゃんが立って掲示板を見ていた。

雰囲気で解る。こいつは中々の腕だと。


冒険者の兄ちゃんは掲示板をしばらく眺めた後、

<ミーミを~>を取って行った。


兄ちゃんと俺の目が合う。


兄ちゃんは少し肩を竦め「仕方ねぇよな」と言わんばかりに微かに苦笑(わら)うと、依頼票をカウンターに持って行った。


「世の中、まだ捨てたもんじゃないな。なぁ、クー」

ぐあ。

だよな。



「ごめんよ、シュナいる?」

馴染みの受付嬢のお姉さんに声をかけた。


さすがにココには何度も訪れているので、職員とは顔なじみだ。たまに難度の高い緊急案件がある場合、俺に話が回って来ることもある。その辺は融通つけ合う間柄なのだ。地元傭兵団と冒険者ギルドとは。

なあなあの関係と言ってしまえば、なにか裏っぽいな。ふへへへ。


「あ、アトル君。いま主任、会議中なの。あと・・半刻ぐらいで終わるから、ちょっと待っててくれる?」


「おっけー」


俺とクーが待ち合いのソファにちょこんと座ると、受付のお姉さんがお茶を持って来てくれた。クーの為にミルクとお菓子も持って来てくれた。さすが天下の冒険者ギルド、サービスが行き届いている。


「なんか随分人多いね」

世間話を仕掛ける。


「あーそうなのそうなの」と言って世間話に乗ってくれた。正面ソファに腰まで下ろして井戸端準備完全完了だ。あ、お茶二人分だよ、最初から油売る気満々だな。


お姉さんは「かわいいねぇ」と言いながらクーのお腹を撫でている。


「仕事いいの?」


「うん。今日はこっちあまり仕事ないし。丁度休憩の時間だし、ね?」


可愛くウィンクする。人生で二人目だ。結構いるのだろうか。


彼女の仕事は冒険者カウンターではなく、依頼者カウンターでもなく、登録カウンターだ。つまり冒険者になろうって人間が最初に来る受付だ。今は時期も時期だ、これから冬が来るって時に冒険者になろうっていう人間はあんまりいないらしい。聞いた話だが。


「でね?主任が会議に出てるのも、これと関係あるんだって」


ズズッ


「どういうこと?」


「ホラ、最近冒険者になる人が増えてるって聞いたことない?」


「ああ、新人も葬式も右肩上がりだって話?」


「そうそう。この間さ、新人パーティが二角兎に挑んでったって聞いた時、ビックリしたわよー!何考えてんだっ!て」


え。


「誰も教えなかったの?」


二角兎。

可愛げな名前とは裏腹に、恐ろしい速さでの移動と頭部にある二つの角での一撃は鋼鉄の盾をも容易に貫く、脅威度Cの凶悪なウサギだ。新人で何とかできるレベルではない。


「ううん。共同討伐の依頼だったんだけど、一緒に行ったアサットさんやバージさんのチームが止めたのに、抜け駆けで挑んでいったんだって」


アサット、バージ両方とも名の知れたベテランチームだ。


面倒見のいい奴らの事だ、経験を積ませてやるつもりで連れて行ってやったんだろう。


「案の定?」


「そう、案の定。アサットさん達が気づいて駆けつけた時には、新人パーティ全滅。皆お腹に大きな穴が開いてたんだって」


言わんこっちゃない・・・どころじゃないな。

そういう俄か冒険者が増えているとは聞いていたけど。


「ほら、あのダンジョンが見つかったじゃない?それで新人含めて有象無象の冒険者がアザレアに来てんのよ。ちょっと冒険して一攫千金って・・甘い夢見て」


あうあうとクーがお姉さんの手を甘噛みしているが、お姉さんも嫌がることも無く・・というか、嫌がるどころか聖母のような微笑みを浮かべてクーを撫でている。


「ん?じゃ、会議って例の話?ランク制入れるとかって?」

「あ、アトル君知ってたの?そうなの、今の無秩序な冒険者に一定のガイドラインを設けるんだって。冒険者規程・・・だったかな?」


冒険者にルールを設ける。以前から話はあったらしい。


俺が昔読んだ転生小説なんかの冒険者ギルドは、冒険者にも依頼や魔物にもランク付けがされていたり、魔法で説明できるのか出来ないのか、オーバーテクノロジー染みた不思議な冒険者カードにいろんな機能がついていたりとまあ、便利なようにいろいろあったわけだが、この世界にはそんなものない。自分のレベルも知らないから容易に人が死に向かう。


で、一部の人々が主張したらしい、『冒険者の実力を可能な限り精査し、実力にあった適切な依頼しか受けられないようにすべきだ』と。


『魔物・魔獣についても可能な限り分別し分類して、能力や危険度を査定して脅威度を割り出し、ランクとしてギルドで公開するべきだ』と。


なんとも、どこかで聞いたようなシステムだが、今までこの世界には無かったのだから仕方ない。

もう何年も前から準備されていて、そろそろ試験運用されるとは・・噂には聞いていたけど。


「じゃあ、そろそろ試験運用されるのかな?」

そう聞くと、お姉さんが急に声を落した。


「・・それがね、どうもココが選ばれたらいいの。その試験運用の場所に」

「え・・・ラインレッドが!?」


え、なんで?

こんな田舎で?


「これ、ちょっとだけ内緒にしてね。まあそろそろ発表されるらしいけど」

「うんうん」

内緒話大好き。


「そういう魔術システムを中央が開発してたんだけど、まずは小さな範囲で試験運転してからってなって、一番条件が整ってたのがココだったんですって」


「条件?」


「なんでも王都からそれほど遠くなくて、システムの経過観察がし易い狭い地域で、アクセスは良くて、冒険者が多くてデータが取れやすい場所・・だとかなんとか?」


「たしかに・・」この領に合ってると言えば合ってるな。


「具体的にどういうシステムなの?」

「・・・・それはね~・・・」

「・・・・」


彼女の後ろに人影が。


「リ テ ィ ~~~~!」


立ち上る怒気。


「あ、ひゅに、主任・・あっれ~会議はもう終わったんで・・・・」


グリグリグリグリ


「痛いっイタイですっごめんなさい~」


両拳で頭を挟まれグリグリされるリティ。


「なんでアンタはそう口が軽いのっ!情報漏えいは罰金だからねっ!」

「そ・・そんな・・・酷いですぅ~」


御愁傷さま。


「アトルもこの子から情報引き出そうとして!」


うわ、飛び火だ。濡れ衣だ。


「世間話の範囲内だよ?」


「機密は機密!その気になれば止めることだって出来たでしょ?」


ぬーん。


「お代官様」

「オダイカン?なにそれ?」

「今日、カヴァンに湯治に行くそうですな?」

「え、うん、それが?」

「実は、クリュネに小遣いを渡そうとしたのですが『子供からは受け取れない』と言われましてな」

「そりゃ、まあ、普通は・・・」

「しかし、クリュネは今回頑張ってくれたし、日頃世話になっている恩を少しでも返したいと純粋な子供の真心・・解ってくれます?」

「え、ああうん。どちらかと言えばアトルがあの子の世話してる感があるけど・・」

「そこでシュナにお願いがあるのですよ」

「え、何?なんか怖い」

「いえいえ、大したことではないのですよ。ちょっと、このお金を持って、クリュネにひとつ美味いモノでも食わせてやってくれませんか」


懐から金貨1枚取り出す。

4・5人で最上級コース料理を食べてもまだお釣りがくる。


「う・・美味いモノ・・?」

「カヴァンの・・今の時期ならフェール茸、カヴァン牛のコースなんかも美味しいでしょうな」

「・・・ゴクリ」

「ポーレさんもいらっしゃるのでしょう?クロワトでは大変お世話になりましたからね。恩返しがしておきたいのですよ。シュナも一緒に美味しい食事で楽しいひと時を過ごしてもらえれば」


すばやくシュナに金貨を握らせた。


「みんな大人ですからね、俺からのお金と言うと遠慮してしまうでしょう?だから、シュナに、ね?」

「え・・・でも・・」

「恩も普段から返せればいいんですけど、こういう機会でもないと、ね?ああ、お釣りでお土産でも買ってきてください。ギルドの皆の分も。俺はカヴァン饅頭でいいですよ?」

「う・・・うん、わかったっ!シュナがんばるっ!」


ニヤリ。

・・・成功。


「はわわわ・・見てはイケナイものを見てしまった・・・」とリティが震えていた。


なんだ?見てはいけないものって。

俺の真心の事か?



―――――



「おほんっ」

シュナが咳ばらいをした。


現在ソファには俺とクーとシュナのみ。リティは仕事に戻っていった。


「今日、アトルを呼んだのは他でもありません。クーちゃんのことです!」


そんな畏まって言われても・・・

クーを膝に乗せて撫でくり回しながら言われても・・・

満面の笑顔で言われても・・・


「おほんっ!・・使い魔は登録しないといけないって知ってるよね?」

「忘れてた」

「・・・でしょうね」


使い魔は概ね魔物か魔獣に属している。

通常なら危険な生き物という認識なのだが、使い魔となると話は別。その有用性に加え、使い魔を有してきた人類の歴史が使い魔の存在を肯定する。

ゆえに、一般の外敵と使い魔を分けるため、ギルドやお上に使い魔を登録し登録証を貰わないといけないのだ。そうしないと人界に紛れた魔獣と判断されてしまう。


「うん、だから登録しに来たよ」

「一週間も経ってから、ね」

「クーかわいいだろ?」

「破壊的にね」


そこでふと思った。

シュナはクーが神獣であることを知らないのか?と。


「この間のクロワト村での報告書は?降りてきてないのか?」

「ああうん。なんでか上が止めちゃってね。ポーレとかから事情を聴くことも禁止されてるの」


確かに、広めるには慎重になる内容だしな。

神獣が街中を歩いてるとか、冗談にしか聞こえない。


「んで、なんか書かないといけないの?」


シュナは持ってきたバインダーから一枚の紙を机に置いた。


「ええと、こことここ。アトルの名前と使い魔の名前を書いて」


「おっけおっけ」


サラサラ。


「うん。じゃあ、使い魔契約の種類は、何?」

「・・・種類?」

「・・・」

「・・・」

「使い魔・・・なんだよね?」

「・・・」

「・・・勝手に拾ってきた魔獣じゃないよね?」


あっれぇーー?


そういえば、使い魔契約して無いじゃないか。

ウィズに【神獣使い】って言われて、浮かれて見落としてたよ。


俺はクーを見て首を傾げた。

クーも俺を見て首を傾げた。


「この息の合いよう・・使い魔にしか見えないんだけどね・・」


だろうよぅ。


「具体的に契約ってなんなのさ?」

解らないことは聞いてみる。これ大事。


「そうねぇ・・・」


【使い魔とは?】

ヒトとケモノの【魂の共存契約】である。

つまり生きていくために協力して頑張って行こうって【契約】らしい。

主に【従属契約】【調伏契約】【共益契約】【約束】【友誼】の五種があるらしい。


【従属契約】

自分より力の弱い魔物や魔獣を魔術的契約により縛って使役する契約らしい。かなり弱い魔物・魔獣しか契約できないそうだ。眷属使役なんかもここに入るらしい。


【調伏契約】

闘って倒して相手に認めさせ契約するらしい。たまに反旗を翻されたりする人もいるそうだ。おとぎ話の竜騎士とかだな。


【共益契約】

ヒトとケモノ、ギブアンドテイクの契約らしい。つまり給料やるから働いて、と。会社みたいな感じだな。ウチの傭兵共もひょっとしたら使い魔なのか?


【約束】

かなり特殊な契約・・じゃなくて約束らしい。その約束を達成するために交わす契約なのだそうだ。


【友誼】

昔から飼ってる犬が猫が鳥が・・と、結構多いんだそうだ。長年一緒に居たりすると発生するんだとか。

厳密には契約ではなく、いわば両者に魔力のパスが開いている状態らしい。それを魔術で繋いで、【使い魔の魔術】を使えるようにするんだそうだ。【引き戻し】とか。


「これで言うと・・【友誼】になるのかな?」

他のはなんか違う。


「ぐわ」

「そうねぇ」


お友達契約。契約はおかしいか?


「友達友達♪」

クーの手を取って踊る。

「ぐぁうあう♪」


「あ、紙が飛ぶから踊らないでっ」

登録用紙をクーが蹴っ飛ばしてしまった。


「悪い悪い」

「ぐぅ」


「まあ、そうね【友誼】でいいわね。じゃあ、まだ魔術契約はしてないの?」

「してない」


俺としては契約という言葉が引っかかるなぁ。

クーは友達だ。

まさかフラウバンの主張を身をもって理解できる日が来ようとは。


「そんな事言ったって、しなきゃ【引き戻し】使えないわよ?【感覚共有】も」

「うーん」


確かにまあ、便利と言えば便利だけども。


なるほど。


俺、クーを使い魔として見てないんだなぁ。

友達としてみてんだな。

だから、違和感を感じるんだ。人間って勝手なもんだな。


「クーはどうする?」


クーはもうおねむの様で、俺の膝の上でウトウトしはじめている。


ん?

待てよ、そもそも本当に“出来ない”のか?

クーは念話を使って見せたぞ?

パスが繋がってるなら出来るんじゃないだろうか?


俺はソファの上にクーを置くと、部屋の隅に行って呼んでみた。

「クーこっちに“跳んで”ごらん。パッって」と言ってみた。


クーはウトウトしながらも手をワタワタさせていたが、暫くすると・・


「え」シュナが驚いた。

クーがパッと消えて、俺の頭の上に帽子のように出現したから。


「すごいスゴイ凄いぞ クー!」


クーを頭に乗せたままクルクル回る。

でもクーは眠そうなので、そっと回った。

回る意味があるかどうかは別として。


「なんていうか・・それでいいの?って、いつも思うわ。アトルを見てると」

溜息をつかれてしまった。


「いいんじゃないか?」


元の世界で有名なおじさんがよく言ってたらしい。


「これでいいのだ」ってさ。



―――



「んで、どうしたのさ?」


晩飯を食いに食堂に来たら、給仕に女将さんがいた。

毎食毎食美味しいご飯を用意してくれている。

ありがたいことである。

あ、ちょっと肉多めにしてね。


大きな肉が4つも入ったシチューをホクホク顔で食べながら答える。

クーは机の上で一生懸命シチューを食べている。

自分のがあるのに俺のシチューを食べたがるのは何故なのか。


「別に何も?【引き戻し】は出来るし、【感覚共有】は別にいいかなって」


それだけのためにクーに魔術契約を施すのもなんか可哀そうだ。

いや、フォッサとかが可哀そうと言ってるわけではないんだが・・。

・・・難しいなぁ。


「へぇ・・。あんたがいいなら、いいんだろうけど。じゃあ、あの赤いスカーフはなんなんだい?」

女将さんはクーの頭を撫でながら、その首に巻かれた赤いスカーフを抓んだ。


「ん。ホラ、あれさ、使い魔には登録証明のアイテムとかつけないといけないだろ?フォッサの首輪とかムッカのリングとかさ」


使い魔は一目で誰かの使い魔と解るような目印を付けないといけない。これは義務化されている。

勿論、【使い魔】の【引き戻し】は身一つ以外の物を一緒に引き戻せない。そこで【引き戻し】の転移判定に引っかかるよう、特殊な素材と魔術を施された【使い魔】専用のアクセサリーのようなものがギルドで販売されている。


「結構、高価(たかか)ったよ」

2500ゼル。聖剣より高価だった。


クーに首輪は「なんだかなぁ・・」と、多少おしゃれに見えるスカーフを選んでみた。赤か青か黄か悩んだけど、赤が一番似合ってた。

クーもなんだか気に入ってくれたようでご機嫌だ。ついでに俺もお揃いに赤いマフラーを買ってみた。もうすぐ冬だし。しかし、これが付けてみると結構恥ずかしかった。赤かぁ・・。


元の世界で、犬猫に服着せてる人見て「何やってんだこの飼い主は」とか思っていたけど・・・やってみると結構可愛いなぁ。服まで着せようとは思わないけど。


「ふふふ、買ってもらったの?よかったねぇ」

女将さんは楽し気にクーのお腹をわしわししている。

クーはお腹いっぱいになったのか仰向けになって女将さんの手にじゃれついている。


「クリュネはもう行ったの?」

「ああ。女五人で温泉旅行っていいねぇ。あたしも今度アリダ達誘って行くかね」

「仲良しおばさん五人組で?」


べしっ


「おばさんじゃない、仲良し娘さんっていいな」


「四十前を娘って・・」


べしっ


「ちょっとハシタナイデスヨ ムスメさん!」

「あら失礼」

と言って、女将さんは厨房に引っ込んでいった。



―――



さて今日も、がんばった。


何をがんばった?と聞かれても困るが、とりあえず何か頑張った。


後は寝るだけ。


俺はまだ子供で予備兵。よほどの緊急でないと、基本仕事は入らない。

この町では、ちょいちょい名が知られているので、たまに傭兵の仕事について行ったり、“赤旗亭”の仕事手伝ったり、冒険者ギルドの簡単な仕事を手伝ったり、戦闘訓練の教官依頼などを熟して暮らしている。

当然、それらの仕事にはすでに本職がいるので、あくまでも手伝いだ。

故に、明日も予定は無い。


俺がベッドに寝転ぶと、クーもベッドによじ登る。

俺が布団を被って寝ると、クーが布団に潜り込んで丸くなる。


クーを撫でつつ、

眠気に誘われつつも、

俺は思う。



「明日も楽しいといいな」

「ぐぅ」

「おやすみ、クー」

「ぐわっ」


今日も楽しかった。

明日は何して遊ぼうか。


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