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傭兵の為に鐘は鳴る  作者: すいきょう
余話
55/87

縁話 人生の速度

「本当に、ありがとうございました」

村長の娘さんが丁寧に頭を下げてお礼を言ってくれた。


「いえいえ、仕事ですから」

バウロが居心地悪そうに視線をさまよわせている。


ちらちらと俺を見てくるが、それはお前の仕事だ。


騎士団連中はすでにお仕事に言っている。見送りに来てくれたのは村人達だ。口々にお礼を言ってくれたし、オーダ達にもお悔やみを言ってくれた。地元民と地元傭兵団の関係は結構深いのだ。


今日、アザレアに帰還する。二日かけて。


村長のおっさんは、まだ予断を許さないが、意識があって自分で物を食べれる程度には回復している。見舞いに行くと「よう坊主、今日は蒸しパンやれなくてすまんな」と言っていた。次来た時に期待しとくよ、と言っといた。


この遠征隊の隊長はバウロなので、バウロが代表して報告やら交渉やらしている。俺はただただ虎の子その3と虎の子その4を消費しつつ、クリュネとポーレさんとお茶を飲んでいた。

村の人間からしたら、俺が戦ってたことも知らんだろう。傭兵見習のボンボンくらいに思ってるんじゃないだろうか。別にいいんだけど。


・・・。

バウロ、やたら丁寧にお礼を言われているな。

娘さんの視線が熱い気がする。


そういえば、前この村に来た時はバウロ班について来たんだったな。

その時もなんかこんな雰囲気だったような。

ふむ。バウロも、もういい歳だ。年頃同士、丁度いいかもしれん。

パッパラ団員を矯正し、身を固める手伝いをするのも俺の仕事。

家庭があれば仕事に身も入るし、地域密着型傭兵団“紅の旗”としては既婚率の上昇は結構良いことなのだ。そうなのだ。

結婚相手の職が傭兵・・うん、全然人気、ないんだけどね。


「お姉さんお姉さん」と娘さんに話しかけた。


「・・・え?あ、アトル君だっけ、何か御用?」


俺は懐から取り出して置いた、紙を差し出す。


「これは・・?・・・えっと・・花・・嫁・・・ぼ・・しゅう?」



~~~≪花嫁募集≫~~~~



幸せな結婚・・それは素敵な男性・女性、みんなの夢。

でも、実際のところは?

生活、環境、将来・・・いろんな事が悩みの種・・・。


本意でない結婚、勧められていませんか?

気に入らない許嫁、いませんか?

実家の都合で成金寡(やもめ)の後妻に追い払われそうじゃありませんか?


そんなあなたに、我が【“紅の旗”傭兵団】が提案します!

安定した収入。しっかりした危険手当。痒いところまで手が届く保証。

住宅手当に家族手当、子供が生まれればお祝い金まで!

勿論、いざという時にも殉職手当と見舞金が!(勤務期間・積み立てによる)


【“紅の旗”傭兵団】が、あなたの未来づくりのお手伝いします!


丈夫で溌溂とした戦士達が、貴女たちを待ってます!

新しい一歩、踏み出してみませんか?


~~~~~~~~~


(裏面)

基本給~・・・歩合~

危険手当~・・・

・・・

・・・



「ただ今、当傭兵団では独身団員の嫁を募集しております」

爽やか営業スマイル。


「安定した収入。年二回の賞与。住居手当、家族手当、子供手当、各種保証もしっかりしており・・・」

「若っ!若っ!?」バウロが慌て始める。


バウロが俺の口を塞いで言葉を遮ろうとするが、その程度の動きで俺を止められると思うなよ。


「是非今度、アザレアにお越しください。バウロ君に案内させますよ。なかなか良い男でしょう?結構モテるんですよ?こう見えて中々の有望株でね、将来の幹部候補でもあるんですよ」

中小企業の社長風に言ってみる。


「え?え?は、はぁ・・」

戸惑っているが、その目はしっかりチラシの表面を走っている。脈ありだ。


「若っちょ、ちょっと・・・っ!」

バウロが焦るが。

それでは俺は止まらない。



―――



半年ほど前、仕事以外パッパラしている団員たちを嘆いたおやっさんが、何故か俺に対処を丸投げにしてきた。


最初は「なんで俺が・・」と思ったが、そこは世話になっている身、なんとかしてやるかと色々考えた結果、

「結局、男ばかりでバカやってるからパッパラなんだ」と結論。


俺は町の引退希望の女冒険者や農家の娘さん奉公さんや女工さん後家さんなど、方々回って独身娘さんを集め、いわゆる“お見合いパーティー”を開こうとした。それも子爵家の別邸を借りて。(通常そんな理由で貴族の屋敷を貸してもらうなどありえない。伝手ってすごい)


なぜかその話が、いろんなところを周りに回って、町の職人や商人の独り者まで混じってきて一大お見合いパーティーになってしまった。


結果、男48人(内、傭兵23人)、女61人と女性参加者の方が多い事態に。

そして独身共のお見合いパーティーを、何故か8歳児が司会を務めるという混沌のパーティーに。


酒瓶も飛んだし、料理も飛んだし、酒屋の兄ちゃんも飛んだ。

粉屋の二枚目の若旦那を取り合ってキャットファイトが始まるし、

シングルマザーの薄幸そうな後家さん取り合って決闘も起きたが、

全て俺が強制的に黙ら・・じゃなくて丸く収めた。


そんなカオスパーティーでも、成婚25組、婚約17組、交際4組・・という成果は、俺の奮闘のお蔭と言っても過言ではないだろう。


俺がパッパラ傭兵を21人片づけたのだ。(残りの二人はまた今度)

よくやった俺!


・・・その時配っていたのが、これ、このチラシだ。


「まあ、まずは気楽に見学だけでも」

「えっと・・あの・・・」

「若っ、急にそんな事言っても困らせるだ・・・」


「農閑期でも・・いいの・・かな?」


「え?」驚くバウロ。


俺はそっと拳を握る。


「もちろん構いませんよ?あ、事前にお知らせいただければバウロの予定を調整しておきます」

「そ・・そうなんだ・・」


「え?」

バウロ、落ち着け、バウロ。


「連絡は巡回に来たウチの団員に言ってもらえればいいですし、時間は掛りますが巡回についてきてもらえれば旅費もタダですよ。予定さえあえばバウロを派遣しますし。宿の心配もいりません、着の身着のままで来てもらえればいいですよ?」


おお、舌が滑らかに回る。ひょっとして営業マンも向いてるのだろうか。

しかし、押しすぎもダメ。俺は敏腕営業マン。


「まあ、時間はありますし、今は村も大変ですからね。ゆっくり考えてみて下さいな。なぁ、ザイケン」


「ん、ああ、そうだなぁ・・それもいいんじゃないか?兄貴」

近くでポワッとしていたザイケンも賛成した。


「・・・はぁ」


なんか諦めたような難しい顔しているバウロだって、別に女嫌いな訳じゃない。それなりにモテるのは事実だ。ザイケンの兄とは思えないほど真面目な男なだけであって。


まあ、周りがやいのやいの言い過ぎるのも良くない。


「んじゃ、そろそろ行くか」

「・・・はい」

「うぃーす」


俺は村人たちに手を振って出発した。

村長の娘さんも、チラシ片手に手を振ってくれた。


道中。


「・・・若・・・本気ですか?」

「ん?別にあのお姉さんの事、嫌いじゃないんだろ?」

「・・・なんていうか・・・そういうのはまだ、早いかなと・・」

「むしろ遅いんじゃないか?」

「・・・それをいうならザイケンだって」

「・・・アレは上も下も奔放すぎる」


「・・・」


「俺らは死にやすい。遅いはあるが早いは無い」


「・・・そうです、ね」


そうだよ。


―――


その後、本当に村長の娘さん(他二人)がアザレアに来るのは・・また別の話。


まさか・・それがアザレア陥落の引き金になるとは・・・(嘘)



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