辿り着いた場所
スピー
スピー
スピー
んん
フガッ
アーー
・・・・朝?
窓の外は明るい。朝だ。あるいは朝のような何かだ。何だろう?
回っていない頭で、ふと横を見ると、俺の布団の隣が膨らんでいる。
どこかの漫画かなんかで見たような光景だが、そうでないことは先刻ご承知のアトルさん、である。
俺の隣のふくらみがもぞもぞと動くと、布団の隙間から可愛いものが顔を出した。
「おはよう、クー」
そう言うと、クーはぺろぺろと俺の顔を舐める。
くすぐったい。べとべと。ぬはー。
俺の顔はペロキャンではないよ。ぬはー。
なんとかクーを引きはがし、身を起こす。
クーはまだ寝たりないのか、布団を身体に巻き付けておねむの様だ。
(これは正にリア充だな)
毛玉布団魔獣クーの頭を撫でながら、俺はにんまりと笑った。
―――
昨日、アザレアに帰ってきた。
俺、バウロ、クリュネが、おやっさんと女将さん、ドドのオヤジに報告をする。
おやっさんとドドのオヤジは「そうか」と言ったきり黙して語らず。
女将さんはやっぱり泣いてしまった。
勿論、クリュネの伝書で知ってはいたんだろうけど。
ウリトンとか結構小さなころから面倒見てきたんだもんな。当然だ。
クリュネが5人の遺髪や遺品をおやっさんに渡す。
「明日、墓に入れてやるからな」とおやっさんがポツリと言った。
んで、今、墓地にいる。
【“紅の旗”傭兵団】共同墓碑
傭兵団に所属し命を散らした者の名を刻み、遺品を入れる墓碑である。広い石の台座の中央には結構デカい石板が鎮座していて、それを取り囲むようにそこそこデカい5つの石柱が並んでいる。
傭兵団100年の歴史だ。600名を超える名が刻んであるらしい。
多いのだろうか、少ないのだろうか。
おやっさんが中央の墓碑に触れると、どういう仕掛けなのか一番右の石柱が台座の上を動いた。石柱の下には空間があり、そこに遺品を格納する。
教会から連れてきた教父に【導きの祈り】と【葬送の言葉】を贈ってもらう。
おやっさんは墓碑に酒をかけ、女将さんは花を供えた。
ついて来た傭兵団の面々、わざわざ来てくれたポーレさんとウザン氏、治療術士のおっさんも祈りを捧げてくれた。
俺も。
祈る。
安らかに、と。
またな、と。
カラーン
カラーン
誰かが葬送の鐘を鳴らした。
―――
俺は、
俺も、
こういう風に、
送られただろうか?
人に惜しまれただろうか?
誰か泣いてくれただろうか?
花は手向けられたのだろうか?
そうだといいけど、
あの世界での俺は・・・
ちょっと、遅かったかな?
神様。
神様。
それでも、俺はこの世界が楽しいよ。
精いっぱい生きているよ。
もうすぐ空を飛ぶ魔術だって使えるようになるさ。
ムサイのが多いけど友達だって出来たよ。
クーだって友達になったよ。
もう神様に泣きつくことはしないよ。
後悔なんかする前に全力で全部手に入れに行くんだ。
今度の9年足らずの間は、俺の前の人生以上に波乱万丈だったけど、
俺、この世界に来て良かった。
ホントにそう思えるんだ。
もう会えないけど
また会いたいけど
「元気でやってるよ」
―――
まちのなかはたのしい。
うしろあしだけであるくいきものがいっぱいいる。
まえあしできようにあそぶいきものがいる。
きっとくーのまねをしているにちがいない。
きのみはおちてないけど
おいしいものをあちょるがくれる。
たまにもじゃもじゃしたものがさけんでる。
もじゃもじゃしてないものがあそんでくれる。
あちょるがおどってる。
ばんだがないている。
くりゅねがうたってる。
ざいけんがはいている。
ひとのにおい。
うまのにおい。
さけのにおい。
あしおと。
かーちゃんゆるしてくれーのおと。
まちにあるたのしいもの。
よるにもぐるふかふかのもの。
たのしい。
おいしい。
あちょる
あそぼー
――― 彼は、大変機嫌よく、町の中を歩いていた。
第一章 或る傭兵のお仕事 (完)