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傭兵の為に鐘は鳴る  作者: すいきょう
第一章 或る転生者のお仕事
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帰還

「ウルスが選んだ。我らにウルスの意志を覆す意思も権利も無い」


エルフィムのリーダー・ウィズがそう言った。

アラヴァを倒した後、森の中でのことだ。


エルフィム5人は、随分怪我をしている。死闘だったんだな。


(あのケガを覆っている水の膜はなんだろう。魔法かな?)


俺の疑問を露知らず、メルリリちゃんは「さあウルス、森に帰りましょう?」とクーを抱き上げようとしたが、クーは逃げ回って、俺の足下に避難した。

それでも連れて行こうとするメルリリを「ぐぅぅ」と威嚇すると、俺の足にしがみついて抵抗した。まるで駄々っ子だが。かわいいかわいい。


反対にメルリリちゃん、今にも泣きそうだ。俺でもなんか可哀そうになってくる。


「で、どうすんの?」


ウィズに聞いてみた。

その返答が、最初の言葉だ。



「君の名を聞かせてくれないか?」


「ん?俺?アトル。アトル・ラインレッド」


「君は、ウルスの意志が解るのか?」


「意志っていうか・・なんかこう漠然と・・・」


漠然と?


意志が?


それって・・・


「なんか、使い魔契約みたいだね」横で話を聞いていたギオニスが言った。


え?

使い魔?

クーを見る。

クーも俺を見る。


「マジデッ!?」俺が驚いたら、クーも驚いてひっくり返った。


なんか嬉しくなって、クーを抱っこして振り回す。ひゃっほう!!いぇー!!


「アトルアトル!ちょっと落ち着いて!」


ギオニスがなんか言っているが、そんな呪文俺に通用はせぬ!出直してまいれ!小童が!


バウロとザイケンはお互いを見て肩を竦め合っている。

女騎士殿は・・・なぜか驚愕の表情だ。なんでだ?


「そんなっ!ウィズ何を・・っ!?」

メルリリちゃんがウィズに喰ってかかっている。

他の3人も狼狽している。


「落ち着けメルリリ。恐らくだが、彼は【神獣使い】の素質がある。いや、ウルスに選ばれたのだ。己が友として」


「・・・そんな・・」


「ウルスを見ればわかるだろう。臆病で警戒性のウルスが、彼に全幅の信頼を置き懐いている。ウルスと我らの間ではありえぬ行動だ。その上、あのアラヴァを退けるほどの力を持っていて、ウルスと意志のやり取りも出来る・・・であれば、もはや疑う事さえ難しい」


「・・・」


そうなの?

まあ、クマって臆病な性格らしいからね。


「まさか、同じ時代に二人も・・」

「なにか・・この森に何か起きるのでは・・」

モブフィムたちが何かこそこそ言っているが気にしない。


「ウルスが君の下にいることを選んでいる以上、私たちは従うのみだ。だが、我らもウルスを崇める氏族・・折々ウルスの様子を確認することをお許しいただけまいか?」


ふむ。

確かに、我が子が遠いところに行くことを心配しない親がいるだろうか。

クーのお母さんも心配に違いない。

挨拶に行くべきだろうか?


「い、いや、すまない。氏族ではないものに、ウルスに会わせることは出来ないのだ。無論【神獣使い】であればその資格はあるが、会わせるとしても氏族に話を通す必要がある。時間が掛かるのだ、すまないが」


そうなの?

クーもお母さんに会いたいかもしれないし。


「小さなウルスが探索に出て何か月も帰ってこないことは良くあることなんだ。おそらく仔ウルスの母もいなくなったことを気にもしていない可能性が高い。それでも通常はエルフィムの監視が着くんだが、今回はまるで煙に巻かれたように見失ったと報告が来ている」


「随分長い散歩もあったもんだ」

バウロがひとりごちた。


「【神獣】も自然の生き物だからな。【神獣】は森神の加護がある。森の獣はおろか森の精霊も【神獣】行く手を遮ることは出来ない。【神獣】同士も【神喰いの儀】が発生しない限り、互いに争うことも無い。

普段ならばあまり【神獣】の心配などしないのだが、今回はアラダの森が滅びアラヴァが姿を消したと報告があり、早急に探す必要があったのだ」


「ちょっと待て」俺が遮った。


「アラヴァは、あと数年は【神喰いの儀】は起きないと言っていた。ならなぜクーを襲ったんだ?」


・・・。


エルフィム達はポカーンと口を開けて俺を見ている。

メルリリちゃんも先ほどまでの剣幕を忘れてあんぐりしている。


なんで?


「すまない・・ちょっと・・ちょっと待ってくれないか・・」

ウィズの口調が裏返って可笑しい。

おう。待つよ。待ったげるよ。


「・・・アラヴァが・・喋ったのか?【神獣使い】がじゃなく?」


ようやく気が落ち着いたか。


「念話だがな。神喰いは数年後だと言っていた。念話で話せることはどうも蜘蛛の主レーヤにも隠していたらしい」


レーヤとアラヴァとの顛末を語って聞かせた。

アラヴァが里を襲った理由も。

レーヤの出自とその最期も。


「そ・・んな・・・」

「まさか!嘘だっ!」


そういわれても・・。


「すまない、アトル殿。我らは【神獣】が話すということも聞いたことが無いのだ。君を疑う訳じゃないが・・・俄かに信じることが出来ない」


新しいことを知るとは、疑うことと同義だ。

知ったかぶりしてみた。


エルフィムの一人が、

「コイツの言うことはデタラメだっ!そんな・・エルフィムでさえ・・外の人間なんかに・・っ!」詰め寄ってきた。


バウロとザイケンがスッと間を詰めるが、俺は視線で止めた。


ちょっと思いついたので、足元でじゃれつくクーに、

「クーはお話しできるかな?」

と聞いてみた。


クーはじっと俺を見つめると、


「≪・・ぁ・・・ちょ・・・る≫」


と念話で返してきた。



・・・ひゃっほうっ!!!

賢いなぁ!!

可愛いなぁ!!

凄いぞウチの子天才だっ!!


俺はクーを持ちあげクルクル回る。

クーも嬉しそうだ。


その間、詰め寄ってきたエルフィムもそうでないエルフィムも、バウロもザイケンもギオニスも女騎士殿もみんな、



ポケーーッとしてた。




―――




「すまない。まだちょっとすまないが頭が回らないんだ。すまない」

すまないが多いな、ウィズよ。


結論、エルフィム達は氏族の住む森に帰って行った。


「今の我々では、判断がつかないことばかりで、申し訳ないが、一旦里に帰って氏族の判断を仰ぎたい」


うん。まあそれはいいけど。


「じゃあ、何かあったらラインレッド領・領都アザレアの“紅の旗”傭兵団に連絡してくれ」


一応有る名刺を渡しておく。俺の手作り。


「分かった。アトル殿の事だから心配はないとは思うが、ウルスの事どうかよろしく頼みます」


ウィズが畏まって頭を下げた。

メルリリちゃんは・・まあ不服そうだ。

モブフィムの一人がクーに「ありがとう」と言っていた。なにかしたのかな。

突っかかってきたエルフィムは・・なんかどこか遠くを見てる。


「勿論!うちの子狙う奴は“逆さ吊りベロンベロンの刑”に処してくれるわ!」


元気よく言ってみた。

皆の顔が妙に歪む。


・・・。


冗談だよ冗談。


ホントだよ?


“逆さ吊りベロンベロンの刑”は有るんだけどね。


―――



ウィズが言っていた。レーヤの顛末を話していた時のことだ。


【神獣】に身体ごと魂を喰われると、喰われた魂は【神獣】に吸収され、新たな魂の循環・・つまり【輪廻の輪】に乗ることは出来なくなるらしい。


『前にも後にも名は一つ』


あれは、そういうことなんだろう。きっと。



―――



俺ら傭兵団は、まずオーダ達が残した仕事を引き継がないといけない。巡回の事だ。オーダ達はこの後、北回りでレニエ村、バンナ村と巡回するはずだった。契約不履行は傭兵の名折れだ。これはダナとソロ組の班がやってくれることになった。


「あたしがやるよ。ちょっと仕事したい気分だし」

ダナはそう言って請け負ってくれた。


残りの団員は、明日帰途に就く。

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