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傭兵の為に鐘は鳴る  作者: すいきょう
第一章 或る転生者のお仕事
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残留

「んで、バックストンがのこんの?」


「・・・そうなるな」

石頭が不機嫌そうに答えた。


避難所の一室、村長宅の居間だったが重傷者の病室になり、再度居間に戻った部屋で、俺とバックストンは相対していた。

周りではおばさん達が忙しく部屋の掃除をしている。


そんな中に、俺とおっさんが二人、長机に陣取っていた。


アラヴァを倒してから、まる一日経った。


アザレア・黒華両騎士団は、昨日一日かけてクロトワ周辺を掃討し、随分大量の魔物を狩りだしたらしい。倒した分の処理がおっつかないので、しばらくは残って残務処理なんだそうだ。それに魔物の分布の空白は別の魔物を呼ぶ可能性もある。まだ警護は必要だ。


アザレア騎士団は天幕を畳み、避難所の部屋に移っている。


バックストンは休憩中なんだそうだ。

そこに俺が通りかかった。


「世話になったな」

茶を注いでやる。


「お前たちの為に来たわけじゃない」


「可愛げのない、おっさんだなぁ」

クッキーを一枚やろう。


「生意気な子供が何を言う」


文句を言いつつも食いやがる。甘党が。グリングリンでよく鉢会うのは偶然ではあるまい。


「まあ、後の事はたのんだ」


「これ以上は人民を守る騎士の仕事だ。傭兵の出る幕じゃない」


騎士の規範がこの男の行動原理。

騎士叙勲式で【騎士の剣の誓い】を「領主と領地の為に」でなく「領民の為に」と言い放った男だ。そこがいたく子爵に気に入られている奇特なおっさんだ。

なんとも頑固な理想主義者。


「へいへい。それは悪かったね」

茶を注ぐ。


「フン」

茶を飲む。


おばさんが行きかう。


そんな空間。

どんな空間だ。


―――


「・・・明日、帰っちゃうのかい?」

ギオニスが座って言った。


副官のカーンがバックストンを呼びに来て、出て行ったと入れ違いにギオニスと女騎士殿が来た。


二人に茶を注いでやる。


「ありがとう」

「かたじけない」

女騎士殿は、実は女武士なんだろうか。


「うん。明日帰る」


「・・・せっかく会えたのに・・」

ギオニスがしゅん・・と萎れる。

こいつが女なら、凄まじい破壊力なんだろうが・・・。


「なんか赤いの大変だったんだって?」


良く知らないが、黒華についてきた赤華の班が泣きながら帰ってきたらしい、と噂を聞いた。いくらなんでも泣きながらって・・・。


「・・・うん。そうらしいね・・・」


まじでか。


「私たちも詳しくは知らないが、私たちの後を追いかけるように出発したらしい」女騎士殿が後を受けてくれた。


「俺らの後を?」


「私たちよりも早く黒幕をつかまえると豪語して出て行った様だ」


「なんともまあ」

ご苦労なことだ。仕事熱心なんだね。


「でも、会わなかったな」

結構森の中にいたけど。行き違いか?


「途中で引き返してきたらしい。理由は、何故か固く口を閉ざして言わないんだ」

なんか、怖い目にでもあったんだろうか。


「難儀なことだな」


「いけ好かん奴なので、なんとも思わんな」

おやおや。女騎士殿に嫌われるとは。何をした赤華。


会話にも参加せず、ひたすらしゅん・・としているギオニス。

実に辛気臭い。


「・・今度、王都に行くことになるかもしれないから、また会うかもな」


「!?」

ギオニスの目が光った気がした。


「ホントッ!?あ、もしかして、魔術学院にくるんだね!?」


「そうだな。お前の母校だな」


「よしっ!やった!またアトルと冒険が出来る!!」

いやいや、お前もう騎士団員じゃないか。


「それはそれ!!これはこれ!!」


それもこれもどれだ?


黒華は元々1週間の討伐遠征で来ている。

これからオンデルの森で野外演習なんだそうだ。まだクモ残ってるかもしれないから、よろしく。復興を目指すクロワト村にじゃんじゃんお金を落していって欲しい。


「黄色い蜘蛛倒した後さ、急にクーが走って行っちゃったから吃驚したよ」


俺と共に戦いに来たんだな。愛い奴だ。ふふふん。


黄色い蜘蛛?

たしか魔法を食べる蜘蛛だっけ?


「そうそう。それをフェルニ殿がね・・・」

「オホンッ!」

何とも不自然な咳払いで女騎士殿がギオニスを止めた。


「・・ハッ!!」

女騎士殿はギロッとギオニスを睨んでいる。

ギオニスは両手で口を塞いで首をフルフルさせる。


何を隠しているかは知らないが、雰囲気はもはや夫婦漫才だな。

「いつ式あげるの?」とからかったら、

ギオニスは両手で顔を隠してフルフルした。


大の男がする仕草じゃねえよ。なんで様になってんだよ。


女騎士殿は・・

「・・・騎士叙勲式はもう済ましたが?」と言ってくれた。


「それは残念」

俺は心からそう言った。

道はまだ長そうだな、ギオニス。

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