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傭兵の為に鐘は鳴る  作者: すいきょう
第一章 或る転生者のお仕事
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寝る前の子供

事は急ぐ。


この世界の傭兵に楽観視は無いのだ。


知らせが来たのは正午を大分過ぎた時分だったが、今から人を集め遠征準備するにも半日はいる。

そうなったらもう日は沈んでしまうので、出立自体は明朝日の出とともにになる。

いくら緊急でも夜半に行軍する馬鹿はこの世界にはいない。向こうの世界と違って、電灯のない夜は本当に危ない。元の世界とは比べ物にならないほど、星も月も明るいが夜の街道が判別できるほどではない。

魔獣・魔物は夜行性が多い。元の世界で野生の獣に会ったことは殆ど無いが(ほとんど外に出れたことないけど)こちらの世界では、それはもう頻繁に接触する。


無論“魔”の文字の付かない獣がほとんどだけど、それだって危険な奴は多い。

ゆえに、この世界の大半の町や村は防護柵や防護壁などの防衛装置が施設されている。というか、無いと生き残れない。

そこまでやっても、一部の魔獣は侵入してくるし、虫系魔物はゆうゆうと越えてくるのでなかなか油断できない。


さて、気は急いても揉んでも、どうにもならない。


あれから、バンダから報告があっていくつか指示した後、女将さん達と晩御飯を食べて準備完了。


後は寝るだけ。明日は早い。


うん、準備出来ることは全て準備した。


女将さんには、「もう寝な」と食堂を追い出された。


時間的には21時前くらいなんだけどな・・・(この世界は24時間制。自然にそうなったのか、誰かが広めたのか・・・)

女将さん的には、傭兵として”命がけで魔物と戦う子”より、“夜更かしする子”の方が問題らしい。


(・・・・それもそれで、どうなんだろう?)



さて、後は日の出を待つだけだが、ここで傭兵の重要な特技が一つ役に立つ。


【どこでもいつでも寝れるスキル】(某ヌコロボ風味で


この世界には、いつかネット小説で読んだような転生モノの、ステータスだのスキルだのと言った便利なんだか不便なんだか分からないようなシステムは無いが、【どこでもいつでも寝れるスキル】は厳然と傭兵たち或いは冒険者達の中に存在する。ステータスウィンドウが見れたら必ず取得されていると思われる必須スキルだ。


俺も一端の傭兵の端くれ。(表現おかしいか?)


とりあえず寝る。


ベットに横たわり、掛け布団を肩までかけて、目を閉じる。


心と頭を空にし、今日干したばかりの布団と同化する。いい匂いだ。


あ、そういえば干した布団の臭いって・・・って・・・。


考えるな、寝るんだ。

さあ来い!睡魔よ!


。。。。

。。。

。。



(・・・・・うるさいなぁ)



下の階では、まだ準備をしているのか、ガタガタと音がしている。


ガシャン。バシャ。


・・・誰かコップかなんかひっくり返しやがった。

「あ~あ」とか「なにやってんだよ」とか聞こえてくる。

そして「アハハハハ」との笑い声。


傭兵や冒険者は、“緊急慣れ”している。


それはそうだろう。

人にせよ獣にせよ“敵”が想定された場合、常に不意を警戒しないといけない。常在戦場とかいう心構えだ。ゆえにかどうかは知らないが、命の危険が常に付きまとう職のせいか、意識のON・OFFが常に明確だ。気を抜かない状態と気を無理にでも抜いた状態を繰り返すためより顕著にみえる。

時に抜きすぎて、ちゃらんぽらんに見える奴も実に多いが。


・・・そういうことで、いいんだよね?元からちゃらんぽらんじゃないよね?


階下でコップが転がって笑ってる奴らも、気を張ってても仕方ないから、抜いてるんだよね?お年頃だもんね?(傭兵団平均年齢31歳)


楽しそうに喋って。

なに話してんのかなぁ・・・。


。。。

。。



この世界には目覚ましは無い。

明日、起きれるかな。

寝起き悪い方なんだよなぁ。

誰か起こしに来てくれるかな。


。。



とても静かだ。


ヒツジは飛ばないが、コグマが来た。あの神様のせいに違いない。

コグマが後ろ足で立って、木陰から顔だけ出してこっちを見ている。

手を振ったら振り返してくれた。

うわ、ちょううれしい。

一緒に昼寝しようとコグマが言った。気がした。

あの時の神様?と聞いたら。

小首を傾げた後、両手を上げて口を大きく開けた。威嚇だろうか?

とりあえずコグマを抱え込むようにして眠ろうとする。

コグマも大人しい。

そうだ、明日、子爵に会うとき、コグマを連れて行って見せてやろう。

きっと羨ましが・・・



あーーー!


明日、行くんだったよ。子爵んち。行けねーよ。明日。

参った、忘れてた。緊急だし、行けないのは仕方ないけど、一応報告の手紙位したためといた方がいいかな。今から書くのか。面倒だな。

とはいえ、これも礼儀。

ベットから身を起こすと、机に向かい手紙を認める。

「悪い。行けなくなった。また今度」をそれなりに修飾して。


子爵んちは、行くといっつも歓迎の用意して待っててくれるから、なんとなく行けなくて悪いなぁという気持ちもある。毎度美味しいものいっぱい用意しててくれるしね。


机の端にさっきバンダが持ってきた伝書がある。

伝書は一応、一定期日保管しておかないといけないので、文箱に入れておく。バンダめこんなくしゃくしゃにしやがって。ヒゲモジャのくせに。いやヒゲモジャだからか。

手紙は明日女将さんに渡しとけばいいか。忘れないようにしないと。


さて、寝るか。

ほんと、もう寝ないと。

。。







「だから、ズシャってなんだよっ!!」




もう寝れなかった。


俺は、一端の傭兵の端くれでは、ないのかも、知れない。

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