決着
(ヒトトハ ナントモ フカカイナモノヨナ ショウネン?)
「・・・喋れるのか?」
驚きだ。
(ネンワ ダガナ。ダテニ500ネン イキテオル ワケデハナイ)
「主とのみ意志のやり取りが出来るんじゃないのか?」
500年も生きてると、いろんなことが出来るようになるもんだな。
(アルジ?アノ ニンゲンノ コトカネ? アレハ アルジデハ ナイヨ)
「主・・じゃない?」
なら・・
(ソウ アレハ ワガチカラノ“カテ”トシテ エランダニスギヌ サトデイチバンチカラヲ モッテオッタ ユエニナ)
「選んだ」
蜘蛛がか?
使い魔では無い?
(ソウダ。 ワガイトデ オドルニンギョウ ダヨ ワレガ コウシテ ハナセルコトサエシラヌママ シンダ)
「・・・」
(スコシハ ツカエタガ オロカナニンゲンダッタ アレコレト ツマラヌカンショウニヒタッテ。アレハ モウイラヌ チカラモツキカケテイタ ユエニナ)
「なぜ、自分を祀る里を滅ぼした。本当に【神喰いの儀】のためなのか?」
一連の話の中、そこが一番引っかかった。
【神獣】とは何なのか。
(ン? ナゼ? ワガ コ タチガ ハラガヘッタト イッタカラダヨ ショウネン。カミクイマデハ アト スウネンホド アル)
「それで、自分の里をか」
(ヒトノ シンコウヲ ワレラクモニ オシツケラレテモ コマル。
ワレラシンジュウハ ワレライチゾクノミダ カッテニ ニンゲンドモガ マツッテイルダケニスギン)
「それが、お前らの理屈か」
(クモガ ケモノガ シンジュウガ ヒトニ慣レルワケ ナカロウ。ヒトガ ワレラヲ シエキデキルナド ゴウマンニモホドガアル!)
アラヴァの念に怒りが滲む。
(・・ダガ オマエハイイ スサマジイチカラヲヤドシテイル アノニンゲントハ クラベルベクモナイ
アノニンゲンモ サイゴニ カテニハナッタ。
ツギハ オマエダ。
ナニ マダクイハセヌ ワガ カテトナリ カミクイマデハ イキテモラウ)
「・・・」
(ソシテ アノ ウルスノコヲ クイ チカラヲタクワエ カミクイニテ カミクイヲナス。
ソシテ・・・)
「もういい」
神になるとか、
そんなテンプレ、
もういいから。
もういいから・・
「害虫が」
蜘蛛は益虫なんて言ったヤツ誰だ。
「駆除してやる」
―――
左手は使えないので、右手だけで剣を振るう。
(我が聖剣よ力を!)
・・・なるほど。
勇者のような護る戦いじゃないと力は出ないか。
流石は聖剣。
15000ゼル。
もう後は知らんとばかりの全力で、アラヴァに突撃をかます。
(ついてこられるもんなら、ついてきて見やがれ、こんちくしょう!)
剣でフェイントを入れて実は右足で蹴り上げる。
うん。クモめ、反応できてないな。フェイント入れた意味ないな。
頭部と脚が浮いて仰け反った腹に剣を突き入れ・・・られない。
即座にアラヴァの脚が内側に閉じてきたので、先に右脚8本を強引に斬り飛ばそうとするが4本で時間切れ。アラヴァの腹を蹴り飛ばして距離を作る。ちょっと蜘蛛足が右腕に掠ったが無視。
間合いなど必要以上に空ける必要はない。
(この距離では回避などできまい!)
引き抜いた暗剣を手加減なしの全力で投げる。
アラヴァは左脚で防御するが、左脚3本吹き飛ばして暗剣も砕けた。
(もったいない!)
が、その隙に足の砕けた左側に入り込んで、アラヴァの顔面に剣を突き入れる。
アラヴァの顔面を貫くつもりが、防衛反射で顔をずらされた。剣はアラヴァの口のワサワサを砕いて口の中に3分の一入った所で、アラヴァは急激な後方跳躍で避けた。
追撃をしようとしたが、アラヴァは事前に張ってあったのだろう尻から出た糸を巻いて、上空15メールの巣に逃げる。さっきの爆発でボロボロになった巣に器用に乗っている。あの爆発でも全部破れてないだけ凄い糸だな。
(ナント スサマジイッ!コノワレガ ハンノウスルノガ ヤットダトハ コレガ ヒトノチカラカッ!? オマエハナンダッ!?)
知るかっ!
「癇癪起こしてる子供だよっ!」
目の前に、アラヴァが投射した網が広がる。
奥の手その1。
「フォッサッ!!」
地面に射した俺の影から「ワオンッ!!」と反応があると同時に、聖剣と俺に火が灯る。【炎刃】と【火の加護】。
全力跳躍。網を切り裂いて、上空15メール差を一瞬で詰める。
(ヒトゴトキガッ!!)
アラヴァと俺の間に、先ほどここら一帯を吹き飛ばした白い光が生まれる。
(しかし小さいっ!)
聖剣をそのまま光に突き入れ、それごと蜘蛛の胸部を貫いた。
バンッ!
小さな爆発が起こり吹き飛ばされたが、先ほどの爆発と比べると涼風だ。
加護のおかげで炎症もない。
剣の遠心力を使って、空中で態勢を整えると着地。
(ぬ)
痛い。
右足になんか突き刺さってやがる。
針のような細い糸。
爆発に合わせて飛ばしやがったか。そういえば最初に使ってやがったな。失念していた。
(・・・毒か)
即座に右足の【巡る力】の循環を止め、ポーチから止血バンドを取り出して血の循環を止める。刺さった細い糸を慎重にかつ一気に抜くと、聖剣で多少傷口を切り裂き瀉血するが、剣に火がついているため傷口が焼けて痛い。再度ポーチを開き先生秘伝の“オレの毒消し・改ex”を飲み込んで、しばらく待つ。それから止血バンドを解くと、【巡る力】を身体じゅうに一気に循環させ、止血バンドで傷口自体を縛る。
応急処置終わり。薬が効くまでまだ若干かかるが。
とても痛い。半泣き。
一応視界の端で確認していたのだが、当然、手当中には若干隙が出来る。しかし、あのクモ野郎もタダでは済んでいまい。
処置を終えマジマジとアラヴァを見るとなんとも無残なモノだった。
中途半端に暴発させた魔法の余波を受けたんだろう、顔が半分が焼け焦げ潰れ、脚の大半を失い、体中から紫の液体を流している。
それでも奴は、こっちを見てる。
俺も奴を見てる。
(・・・オマエハ ヒトデハナイナ?・・・アルディナノコ カ?)
アルディナ?
「人だよ。至極まっとうな、ただの子供だ」
大人になれなかった子供だ。
強く在りたいと願った子供だ。
精いっぱい生きると大きな熊と約束した子供だ。
(タダノコドモ カ・・・マアイイ コンカイハ ヒコウ)
「逃がすとでも?」
(マダ ウゴケナイダロウ?)
その通り。あとちょっと。
アラヴァは尻から糸を飛ばし、上空に残っている巣の残骸に着けると上空へ登って行った。楽しそうにぶら下がってやがる。
(イマハヒクガ コノクツジョクハ ワスレヌ。 カミノケンゾクタル ワガイチゾクノホコリニカケテ イヅレオマエヲ クライニイク マッテオレ ショウネンヨ)
アラヴァの声に感情の起伏は無い。しかし、いちいちそんな事を言うってことは、そうとう頭に来てるんだろう。人間如きに追い詰められて。
アラヴァは残った3本の脚で器用に糸を伝って退却を始めた。
(いちいち口上を垂れる)
そういう油断が。
「命取りなんだよッ!!!」
・・・来たッ!
今来た、奥の手その2。
「クーッ!!!」俺は叫んだ。
「グァァァァァァァッ!!!!!」
凶暴な獣の、怒りの咆哮。
咆哮と同時に莫大な魔力がこの場に集う。
逃げるアラヴァの間近、撤退方向に巨大な熊が屹立していた。30メール以上もの巨大な熊。全身から土だの花だの木だのが生えているのを見ると、魔法で周囲の大地を巻き込んで作られたゴーレムのようなモノなのだろう。
スローモーションのように振りかぶられる右前足。
俺もアラヴァも動けない。
土の熊の両目が太陽の様に輝いた瞬間、
唸りを上げて振り下ろされる【神獣】の一撃。
莫大な質量と速度を伴った土の熊の一撃は、糸の上のアラヴァを尋常でない速度で地面に叩きつけた。
見ようによっては滑稽にも見えるその一撃は、発した衝撃波によって荒れた元花畑はさらに均され、大量の砂埃を巻き上げた。
(おお・・・すげぇ)
巻き上げられた砂埃が落ち着いてくると、土の熊もボロボロと崩れていった。
土の熊はやがて土の山になり、その頂上にひょっこりクーが現れた。
後ろ足で雄々しく立ち、猛々しく両手を上げて勝鬨を上げるかのように、
「ぐぁっ!」
と鳴いた。