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傭兵の為に鐘は鳴る  作者: すいきょう
第一章 或る転生者のお仕事
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VS 黄蜘蛛

「なんだ・・・あれは・・・」


ギオニスが見ている先。

後方の、我らが森に入ってきた道の先から、なんというか・・・山が来た。


「で・・・でっかい・・・」


ギオニスが気の抜けた声を漏らす。

しかしさすがにこれは・・・仕方ないか・・・。


それは、何とも巨大な、黄色い蜘蛛だった。


横幅20メール以上もありそうな、全身ピチカの実のような真っ黄色な巨大クモが、木々の間を縦になったり横になったり、なんとも器用に進んで来た。


(いやはや、なんとも奇妙な光景だな)


巨体が移動しているのに音がそれほどしないのを考えると、自重自体はそれほどないのかもしれない。重さを感じさせない速さでグングン距離を詰めてきた。


とりあえず、あの太い脚を斬って動きを止めねばな。


私は巨大蜘蛛の進行を止めるため、蜘蛛に向けて走り出そうとした矢先。


(おおっ!?)


跳んだっ!?

20メール以上あるクモが空中を舞った。奇妙を通り越してもはや奇怪。

そのまま巨大蜘蛛は結界面にのしかかるように取り付いた。


ギギギギギッ!


火花を散らしながら結界が悲鳴を上げている。なんか砕けそうな音だ。


「うぉわ!何、何なのこいつっ!」


ギオニスが慌てた声を出す。

何なのも何も、蜘蛛ではないか。多少大きいだけの。

と思ったら、この巨大クモ、奇怪なことに結界を食べていた。人の背丈ほどもある大きな咢が結界面を毟る様に食べていく。部分的に結界に穴が開くがすぐに修復され、また巨大蜘蛛が毟り喰う。


(どういう理屈なんだろうか?さっぱりわからん)


「フェ・・・フェルニ殿っ!こいつ【魔法喰い】だっ!結界が食べられちゃうよっ!」


なんと【魔法喰い】。魔法に疎い私でも、珍しい魔物の特性として聞いたことがある。なんでも魔力で構成された魔法現象を食べるのだそうだ。およそ魔力で出来たモノ、魔法も魔道具もみな食われるのだそうだ。結界も意味をなさないらしい。


ふむ。栄養はあるのだろうか。魔法に。

なんとも魔法とは未知の謎で満ち満ちているな。


私は、寄ってきていた小さめのクモの5匹を切り伏せると、すぐさま巨大蜘蛛のやたら太い脚を斬りつけた。


キィィン!


ぬ。

刃が通らない。

黄色い外殻にはじき返された。

二度三度斬りつける。

ダメだ。通じない。


これは・・・

「魔法耐性のある外殻か・・?」

魔剣をも弾くとは・・・なんとも厄介な。

これでは私の攻撃が通じぬ。


剣を弾かれたのが隙になったのだろう、巨大蜘蛛の脚の一つが器用にも私に向かって真横に振られた。


「グッ!」


なんという力か。

咄嗟に魔剣で防いだものの、4、5メール程吹き飛ばされてしまった。

受け身が間に合わず背中から落ちてしまい、呼吸が詰まってしまう。


「ハッ・・・ッ・・・」


左肩に激痛が走るが、構わずすぐさま身を起こした。

肺から空気が押し出されて胸も痛く頭もクラクラするが、暢気に寝ていて殺されては目も当てられない。


案の定、巨大蜘蛛の脚の一本が振り下ろされてきた。


まともに受けては潰される。

振り下ろされる脚に剣を当てやや軌道を逸らし、反動で後ろに転がって距離を取るが、ややタイミングが遅れてしまったのだろう、左大腿部に掠ってしまって裂傷になってしまった。


「ハッ・・ハッ・・ハッ・・」


・・・改めて相対すると、巨大蜘蛛は結界を食べるのをやめていた。

そんなにたくさんあって、私たち人間とどう違うのか良く分からない瞳でこっちを見ていた。


いや、

(・・・私の魔剣を見ているのか)


魔力を食べるこの蜘蛛には、美味しそうに見えるのかもしれない。


(やらんよ、蜘蛛如きにはもったいない)


私は右腕だけで魔剣を構えた。左手は痛いので使わない。左足も多少痛いが・・もう知らん。

しばし巨大蜘蛛とのにらみ合いが続く中、私は呼吸を整え、【巡る力】を引き絞り、【魔力】を練る。


「フェルニ殿っ!一時、結界の中に避難してくださいっ!」


私がよほど酷いサマなのだろう、ギオニスが叫ぶが、

「ならぬ。コヤツはそなたの結界を食うのだろう。結界はこの戦場の生命線だ失うことは出来ない」


そう。多勢に無勢のこの戦場で、なぜ少数の自分たちが戦えているのかと言えば、そこに結界があるからである。疲れれば休み、気息を整えられる安全地帯。それなくば、あっという間に押しつぶされてしまうだろう。


戦いが始まってすでに一時間ほど経つ。クモは他にも数多いる。中々の腕のギオニスとて魔力は無尽蔵ではない。必要以上に負荷をかけるわけにはいかない。


「僕ならまだ持つ!満身創痍の君じゃ無理ですっ!」


ギオニスの声から普段の気の抜けた雰囲気が消えている。随分真剣な顔だ。


(真面目になれば、なかなか見られんこともない)

うむ。騎士とは常に凛々しくあらねばな。

だが、


「ならぬッ!私はクーを任されたのだッ!!」


昨夜、発見されたクーは満身創痍だったそうだ。

今は元気で愛嬌をいっぱい振りまいているが、あのように幼いコグマが大勢の敵に追い回され、傷つけられ、一人ぼっちで痛くて寂しかったに違いない。

黒幕の事があるとはいえ、【神喰いの儀】なるモノは自然の営みの事。


甘いといわれればそうなのだろう。


自分でもそう思わないこともない。


(・・・しかしッ!)


あの日の誓いがそれを許さぬッ!


あの日の想いがそれを見過ごさぬッ!


「私の中のマリーが、それを許さんのだッ!!!」


私は、怒っているのだ。あの時のように。


魔力が満ちた。

魔剣をその場に突き刺す。

私に使えるたった一つの魔術であり魔法。


「≪あの日の 未だ誓いは変わらず胸に ならば全てを賜らん≫」


信仰系最上級魔法言語【神の言の葉】


「≪ 全ての小さく弱きモノ(マリー)の為に ≫」


神託によって、その個人にのみ与えられる奇跡と約束の言葉。

詠唱・発音・意味・発現は全て個人固有で、その力は神への誓いによって異なる。


持続時間にして28秒。


私の全てが『守護(まも)ること』に反応する。


巨大蜘蛛を無視し、結界に群がりつつある18匹のクモを素手で引き裂く。叩き割る。殴り飛ばす。蹴り砕く。

あと23秒。


反応が遅い巨大蜘蛛の、無駄に多い脚を引きちぎりながら投げ飛ばす。

同時に知覚する。

周辺のクモ共から、クモ糸の網と毒液のようなものが多数飛んできた。

息を少し吸い込むと、吹く。

吹いた息吹は烈風となり飛来してきた諸々を吹き飛ばす。

あと16秒。

そろそろ危ないな。


仰向けになってる巨大蜘蛛に最速で近づくと、持ってた蜘蛛足を顔面に叩きつける。蜘蛛の顔がひしゃげて吹き飛ぶ。

蜘蛛足なかなかの強度だな。魔剣では恐らく砕けてしまうから使えないのだ。この状態の時は。

あと14秒。


傭兵達は・・終わった様だ。口を開けてこちらを見ている。前を見ろ。

エルフィム達も・・・怪我人が出た様だが、大丈夫なようだな。

ならば、結界を『守護』するために、クモを減らすか。




「・・・あの・・・フェルニ殿・・・・」


「なんだ、もう動けんぞ?」


流石に疲れた。あの魔法は疲れるのだ。

残り時間、とりあえず周辺のクモを一掃した。14秒足らずだったが100以上は駆除出来ただろう。まあ悪くはない数字だ。


今は、結界内で寝転んでいる。指先も動かない。他に方法が無かったとはいえ情けないことだ。


「さっきの・・アレって・・・・」


アレとはなんだアレとは。


「私の魔法だ。我が誓いに反応し、身体機能に神が宿る。もっとも私の実力では効果にムラがあるし30秒も持たん、効果が切れれば俎板の鯉だが」

それに発動条件も厄介なのだ。おいそれとは使えない。


「それって・・・その・・・まさか、神の言の葉?」

「うむ」

「・・・・」

ギオニスが何とも形容しがたい顔をしている。


ふむ。これを聞いた人間、大体皆同じ反応をするな。それほど珍しいものだろうか。

あ、叔父上・・じゃなかった、副団長閣下には秘密にするよう言われているのだった。


「これは秘密なのだ。よいなギオニス?」


ギオニスは目を真ん丸くすると、何故か嬉しそうに、

「了解ですっ!フェルニ殿っ!」と言った。


ふう。

ちょっと疲れた。

すこし眠たいよ、

マリー。


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