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傭兵の為に鐘は鳴る  作者: すいきょう
第一章 或る転生者のお仕事
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マリー

―――準上級騎士 フェルニ・ノーノスノート


「さすがに・・・アレはマズイかなぁ・・・」


ギオニスがぽつりとつぶやく声が聞こえた。


(・・なんだ?)


私はギオニスが見ている方を見て・・・絶句した。


「なんだ・・・あれは・・・」



―――



私は結界に近づくクモ共を片っ端から斬っていく。

私の愛剣ヴィンデルゲイトも久しぶりの活躍の場に嬉しそうだ。しかし剣身は紫色の体液でベトベトに・・・ああもう、気にしても仕方ない。忘れよう。


しかし流石は魔剣。堅そうなクモの外殻を易々と切り裂いていく。なんでも剣身に魔法の高熱が発生し、熔かし斬るのだそうだ。なんとも物騒だ。しかし叔父上には感謝だ。


現在、ギオニスは半径10メールほどの半球状の結界を張っている。

最初の【罅割れた世界】には驚いたが、今は単なる遮蔽系結界なんだそうだ。つまり人間だけは通り抜けできる魔力の壁。


私はといえば、結界の外に出てクモを斬り払い、危なくなっては結界に引っ込み・・と、なんとも情けない戦法を取ってはいる。


が、マリーを守るためだ仕方ない。



マリー。


私が守り切ることが出来なかった友達。

彼女は生まれた時から私の傍にいてくれた。

いつも一緒だった。

何処に行くにも一緒だった。

彼女を抱かねば、不安で寝れなかった。

つぶらな瞳。

優しく微笑んだ口元。

ふわふわとした毛並み。

私が選びに選んで結んだリボン。

彼女はいつだって、私の一番の友達だった。


しかし、私は守れなかった。


まだ10歳にも届かなかった時、新年の祝いに親戚の家を訪ねた時の出来事だ。

あいつらもまた、来ていたのだ。その家に。


意地悪な従妹のリュミリー。そしてリュミリーが飼っている、憎々しい駄犬バズー。


「あら、随分汚いお友達なのね。洗ってあげるわ。バズー取ってきなさい!」

拒否する私を押しのけ、マリーは奴の狂猛な牙にかかってしまった。それでも助け出そうとしたら、マリーの右腕が取れてしまうという大けがを負ってしまったのだ。


「あらごめんなさい。ダメじゃないバズー。仕方ないわね、新しいお友達“買ってあげる”わ」


あの時のリュミリーの癇に障る高笑いと、駄犬王バズーの憎々し気な遠吠えが忘れられない。


しかし、その時なのだ。


私が、正義と力に目覚めたのは。


引きちぎれたマリーの腕を泣きながら抱きしめ、悪辣な存在の一人と一匹を見た時、私は俗にいう・・・キレた。


私の繰り出した拳は、マリーを咥えて離さない大型邪犬大王の邪悪な顎を容易に打ち砕き、それを見たリュミリーは失禁してその場に気絶した。


顎が砕けて気絶している犬と、

すえた匂いの水たまりに沈み込んだ従妹。

そんな凄惨な現場で、私は悟ったのだ。


理不尽な暴力から守りたいものを守れる力の必要性を。


制限なき暴力が齎す、やるせなさを。



右手を失い、駄犬のよだれでべとべとになったマリーは、その日、叔父の家を訪れていた叔父の友人の魔術士殿に魔術を使って綺麗に直してもらえた。右手も綺麗に直り、犬臭くもなくなった。感謝してもしきれない。魔術士殿ありがとう。


駄犬も魔術で治療され、リュミリーも手当を受けた。


しかし、あれからリュミリーも駄犬も私と目を合わせようとしない。自ら犯してしまった罪の意識に苛まれているのかもしれない。


私もマリーを助けるためとはいえ、我を忘れ恥ずべき暴力を振るってしまった。あまつさえ、リュミリーに従っていただけの駄犬の顎を砕いてしまったのだ。父上にも大変怒られた。


後日、「すまなかった」と駄犬に高級な肉を持って行ったが「クーンクーン」と仰向けになるばかりで食べてはくれなかった。

暴力だけでは何も取り返せない、解決しないのだ。

身に染みた。


ゆえに私は、騎士になった。


力を正しく使うため。

弱いものを守るため。

己が正義を貫く為。

私は誓ったのだ、騎士の誓いを。我が剣とマリーに。


マリーは今でも、ベッドの枕もとで私を見守ってくれている。



「マリーは、私が守るっ!!」


憎々しいクモ共、操られているとはいえ、力なき人々を襲った罪は消えぬっ!


「正々堂々と戦えクモよっ!黒華騎士団小隊ちょ・・・準上級騎士フェルニ・ノーノスノートがその罪切り払ってくれるっ!!」


近くにいたクモ、3匹纏めて切り払う。1メール程のクモを蹴り飛ばし迫っていたクモにぶつけ、もろともに突き殺す。


ふう疲れた。ちょっと休憩。結界の中に退避する。


近くにギオニスがいた。


「・・・フェルニ殿・・・マリーって誰?」


は?


「?。わが生涯の友、クマのマリーだが?」

なんで、ギオニスがマリーの事を知っているのだ?


「クマ・・?」


ギオニスが器用にも背負ったマリー・・・いや、クーだったな、クーと顔を見合わせた。


「いや、本当のクマではない。私の祖母が私の為に縫ってくれたぬいぐるみだ」


「くあぁ」


そう、いわば君の仲間だな。ぬいぐるみだが。同じクマなんだ、何か思うところもあるのだろう。


「へ・・へぇ・・そうなんだ・・」


ギオニスが妙な顔をしている。長時間結界の維持をしているのだ、さすがに疲れているのだろう。私も頑張らねばな!


「ふむ。そなたに話したことがあったかな・・?まあいい、クーの事頼んだぞ!」


私は再度戦場に駆けだそうとした。


「ああ、うん。頑張ってね」


その時だった、戦場に向かう私の耳に、ギオニスのその呟きが聞こえたのは。



「さすがに・・・アレはマズイかなぁ・・・」と。

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