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傭兵の為に鐘は鳴る  作者: すいきょう
第一章 或る転生者のお仕事
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VS 赤蜘蛛

「ぎっぐっあぁあぁぁあぁぁああああっ!」

オルトトが絶叫した。



唐突に目の前に現れた、真っ赤なクモがオルトトに向けて何かを吐きかけた。

(いけないっ!)

オルトトも優秀な戦士の一人だ。

咄嗟に反応し、なんとか回避するが、左の二の腕に少し浴びてしまう。


叫んだのはその直後の事だ。


―――


私を含め、気迫と戦意を取り戻したエルフィムの戦士たちは、連携し一体一体確実にクモを仕留めていった。決して楽観できる戦いではなかったが、それでも有利に戦局を維持していた。出来ていた。


この赤蜘蛛が来るまでは。


オルトトの左腕が、真っ赤に焼けただれていく。

強力な毒液なのだろう。


『クモ、ドクハイタヨ、アブナイアブナイ』


精霊たちが騒いでいる。


『精霊!水の精霊!オルトトの腕を清めてっ!はやくっ!!』

『イイヨー』


軽い調子の了解と共に森の中の水気が集まり、オルトトの左腕を覆った。戦闘中でなければ腕の毒を流し、治癒を促進させることが可能だが・・・


「オルトト!水の加護を掛けたけど無理をするな!退けっ!」

私は叫んだ。


しかし、襲った激痛の為かオルトトは動かない。


(・・・自力で来れないなら私が!)


結界を出ようとすると、

「来るなっメルリリ!己が務めを全うしろっ!」


ウィズに止められた。


(・・くそっ!!)


自分は・・・見る事しかできないのかっ!

仲間たちは、なんとか倒れたオルトトをクモのそばから引き離すことに成功するが、仲間たちが攻撃しようとすると赤蜘蛛は毒を飛ばして牽制し、間合いを取れば黒い蜘蛛ほどではないものの素早い動きで間合いを詰め鈎爪を振るった。


「ぐっ!」


トゥリが剣を取り落とした。右腕が切り裂かれている。かなりの深手だ。


再度、水の精霊を使ってトゥリの腕を覆った。出血は止まるはずだが、力は入らないだろう。でも、トゥリは左手で剣を取った。


・・・悔しさで視界が滲む。


あの少年は、あのアラヴァと戦っている。

あの傭兵達も、不気味なほど早く動く黒い蜘蛛と戦っている。

この結界を張ったあの騎士たちも、大きな黄色い蜘蛛と戦っている。


(私だけではないかっ)


私だけが戦っていないっ!

先ほどの無様な自分を思い出す。


(戦士として、こんな情けない思いをするのはもうイヤだ!!)


出来る事っ!今、私に出来ることはなんだっ!

仲間と赤蜘蛛の戦いをサポート出来ればいい。

赤蜘蛛は黒い蜘蛛の様に速くはないが、ある種の武術にも似た多彩な動きで仲間たちを翻弄している。

触れるのも危険な毒液を上手く牽制に使いながら立ち回り、少しづつ仲間を追い詰めていく。


ならば・・・!


『精霊よ!あの赤い蜘蛛の脚を止められる!?』

『ドウヤッテ?』

『・・・足を土で固めるとか・・・』

『アノクモノ!? メルリリニハ ソコマデノチカラハナイヨゥ』

『ぐっ』


ならば・・・ならば・・・


脚を止める。

毒を止める。


・・・囲む、のか。


『精霊!水を使って、クモを球状に囲めるっ!?』

『ンー・・デキナイコトハ ナイカナ』

『ならやってっ!はやくっ!』

『ハイヨー』


精霊が再度近辺の水気を集める。収集範囲に純粋な水気がないのか、周辺のクモの死骸から流れ出るなんか紫色の体液の水気まで集めだす。なんか気持ち悪いがそんなことも言ってられない。


「みんな、離れてっ!」

赤蜘蛛を囲んでいた3人が飛び退ると同時に、薄い水の膜が蜘蛛の周りを球状に覆った。

赤蜘蛛は唐突に現れた水の膜を振りほどこうと、飛んだり跳ねたり鈎爪で壊そうともがくが、魔法で形成された不定形の水の結界は破壊は出来ない。


(うっぐぅ・・・)


薄氷程の厚さの水の膜を維持するために、私の魔力が加速度的に消費されている。・・・もう3分も持たない。


「今のうちに早く!」


仲間たちが一斉に攻撃を仕掛けた。


移動すれば蜘蛛の脚を水の膜で滑らせる。

毒を吐けば水の膜で受け流す。

噛み付こうとすれば水の膜で仲間を弾く。


仲間たちの攻撃が、一つまた一つと、赤蜘蛛に傷を作っていく。


(もう少し・・)


水の膜でクモの行動を阻害することに集中する中、ふと赤蜘蛛と目が合った。


(・・・気づかれた!)


なんとなくそう思った。

赤蜘蛛は三人の仲間を振り切って、ターゲットを私に変え突進してきた。

水の膜が私の魔力で構成されている以上、私を殺せば水の膜は無くなる。


(でも、私は結界の中にっ!)


水の膜と結界で挟み込めば・・・奴は動けな・・・


え?


あれ?


いつの間にか、


私は、結界の外にいた


あ・・


水の膜を上手く制御をするため、

蜘蛛に近づい

蜘蛛の


口が


もう


「ヤラセルカァーーーーーーーッッ!!!」


横から、槍を腰だめにオルトトが赤蜘蛛に体当たりをした。


オルトトの槍は赤蜘蛛の脚の隙間から胸部を貫く。

しかし、強靭な蜘蛛の脚に巻き込まれたオルトトは数メール弾き飛ばされ・・・


その場に血だまりを作った。


ギィィ!!


その時、初めて赤蜘蛛が鳴き声のような声をあげた。苦しいのか、がむしゃらに暴れだす。


「うぉおおお!」

ウィズ、ミッシ、トゥリの三人が、一斉に赤蜘蛛に殺到する。

刺す斬る刺す斬る斬る刺す。

赤蜘蛛がその動きを止めるまで、一心不乱に攻め続けた。


「オルトト!」

私はピクリとも動かないオルトトに駆け寄った。


(意識がない・・・)


酷い状態だった。右腕の水の膜はすでに消えており、先ほどの蜘蛛の脚にだろう、腕や脇腹の太ももの肉が削れ大量の血が流れだしている。


『精霊っ!』

『ウーン モウムリダヨ・・メルリリニ チカラガモウナイヨ」


「そんなっ!?」


「どうしたっ!?」ウィズが駆けつけてきた。


「もう・・・魔力がなくて・・・」


こんな・・・こんな時に・・・


「諦めるなっ!魔法が無くても手当はできるっ!」

ウィズはポーチから紐や布を取り出すと、応急手当てを始めた。


しかし・・・


間に合わない。


血が止まらない。


力が入らない。


オルトトの顔がみるみる白くなっていく。


死んでしまう

誰か、

誰でもいい、


(・・兄さんを・・・兄さんを助けてっ!!)



「ぐわぅ!」



そう聞こえた気がした。

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