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傭兵の為に鐘は鳴る  作者: すいきょう
第一章 或る転生者のお仕事
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開戦

ここから少し離れた木と木の間に、体長1メールほどの白い蜘蛛が浮かんでいた。

いや浮かんでいるのではない、糸でぶら下がっているのか。


「やっとこ本命のおでましか?」

その白い蜘蛛に話しかけてみた。


俺以外は気づいてなかったのか、皆一斉に蜘蛛を見る。


「ア・・・・アラヴァ・・・」


ウィズが掠れた声でうわ言のように言った。

エルフィムの一人は尻もちをついてしまった。

バウロとザイケンも驚いている。

女騎士殿はクーをしっかりと抱きしめた。


(バウロの探査も抜けてきたのか)


白い蜘蛛から特別な気配は全く感じない。

しかし、何もなさすぎる。

そこにいるのにそこにいない感じがするのだ。


俺が奴に気付いたのは・・まあ、ただの勘。

『何もない感じが、そこにした』それだけの勘。


「≪ほんとに、お前ら、何もんなんだよ・・・≫」


白い蜘蛛が悠長に喋った。

以前の【声飛ばし】のような不自然さは無い。

エルフィムの5人は喋っているように見える【神獣】がよほど珍しいのだろう、それはもう驚愕の極致だ。劇画調だ。


「≪なんなんだ、今の魔術。せっかく増やしたクモが一瞬にしてパァだよ。全群で包囲して波状攻撃で分断して一人ずつ殺っていこうと思ってたのによ。初っ端からコケたよ。出鼻を挫かれたよ。自分の甘さを思い知ったよ。黒幕気取って実に恥ずかしいよ。やってらんねぇよ。穴があったら入りてぇよ。お前らに損害賠償と慰謝料請求してーよ≫」


情けないセリフを立て続けに吐く。

随分、若い声の様に感じる。


「気にすんな。今から死ぬ奴に金なんか必要ない」


「≪・・・おお、こえぇこえぇ。しかしな、俺だって伊達や酔狂でこんなことやってるわけじゃねぇ≫」


白い蜘蛛が、スーッと地面まで降りてきた。


みんな、動けない。


「≪もう面倒なのはヤメだ。これから、こいつでお前ら全員潰してから、やり直す≫」


その言葉と同時に、白い蜘蛛の“気配”が浮き出た。


(これは、なんとも)


なんとも禍々しい。


気配に色というものがあるとしたら、黒いマダラ。


気配に感触というものがあるのなら、ドロリ。


気配に感情というものがあるとしたら、不吉不安。


気配に欲が滲み出るとしたら、無機質な食欲。



バウロもザイケンもフェルニもウィズもメルリリもモブのエルフィムも、

誰も動けなかった。


動けたのは・・・


(本当に、すばらしいな!フォッサ!)

すでに俺の剣には【炎刃】が灯っていた。

フォッサはすでに“隠れている”。


誰も反応できていない刹那の間に迫ってきた網状の蜘蛛の巣を切り払い、

白い蜘蛛・・アラヴァの元まで走る。


恐ろしく細くて強靭な糸。かなり火にも強いようだ。最速で斬り払わないと、斬れないどころか纏わりつかれる。今のギオニスの【閉じた世界】では抜かれるかもしれない。


アラヴァに斬りかかる一瞬の隙間、いつのまにか首の高さに極細の糸が張られていた。

とっさに剣を首と糸との間に差し込み、踏み出した右足を軸に身をひねるように斬る。


(一瞬前まで無かった)

・・・ヤツが降りてきた糸か。


上空の糸を付けた部分を剥がして、鞭の様に振り回して横に張り替えたのか。一瞬で。ということは、コイツ糸の操作ができると見た方がいい。


俺が糸に気を取られた一瞬を突き、アラヴァが肉薄してきた。

口の鎌みたいな咢みたいな・・なんだ?そんなやつをギチギチさせている。

(噛まれたら痛いだろうな)

振り抜かれた前脚の鈎爪の一撃を、剣の腹で受け流すと・・・削れた。


(剣の腹が削れてる!俺の聖剣がっ!)


それもナニカが剣に着いている。毒かなぁ。毒だろうなぁ。かすっただけでもやばそうだ。


斬り下げ、斬り上げ、右払いの3連撃、変則突きで繋いで更に4連撃、悉く脚と外殻で受け流され躱された。いや、白い外殻にいくつか薄く線が走っている。俺でも手ごたえに気付けないほど僅かな線だが。


木を使って立体的に動くアラヴァが突然、糸を針の様に飛ばしてきやがった。剣で立て直している暇はない。5本の内4本は身を捻って躱す。残りの一本は手甲の金属部分で針の側面からそっと軌道を逸らす。あのまま躱したらメルリリちゃんに当たる。結界あるけど信用しない。


俺がつま先で弾いた高速の石つぶてをアラヴァは弾けるように跳んで躱すが、俺がすぐに懐に入り込んで腹を割く斬撃を放つと、アラヴァは目に見えない糸に引かれたように不自然な軌道を描いて木の上に消えた。


木の上に上がったアラヴァを追いかけて、俺も木を駆け上がる。


(釣られているな)


この場から俺を誘い出すつもりだ。しかし俺とて追わないわけにはいかない。こいつは俺がやらないと、皆死ぬ。


(まだ下の奴らを、甘く見てんのか)


おそらく、俺を引き離して残存戦力で下の奴らを包囲する。


それで、俺がそちらに気を取られた隙に殺る気か。


いくつか検討するが、一番可能性が高いのがそれだ。


(そんなんだから、いろいろ失敗するんだよ。その目算の甘さで)


決して事態は甘くない。


アラヴァはとても強い。


状況は易しくない。


しかし・・・



(教えてやるよ。俺の縄張りに手を出したらどうなるかを)


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