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傭兵の為に鐘は鳴る  作者: すいきょう
第一章 或る転生者のお仕事
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接触

「クモの気配、ありませんね」


バウロが探査魔術を使って、森の周辺を確認する。


「襲撃にしてももっと森ン中だろうよ!自分では戦えねぇ腰抜けっぽいしな!」


それもそうだ。

クモで包囲するならどうしたって森の中の方が都合がいい。俺らがクモの主を狩りに来てることは重々承知のはず。森に十分に入り込むまで待っていると考えるのが普通だ。


「クー、離れると危ないぞ」


近くの木の根っこで用を足していたクーがこっちを見る。もっと遊びたいのだろうけど今は我慢してくれ。

クーを抱き上げると持ってきた背嚢に入れる。

クーは首から上だけを外に出して不思議そうに周りを見回している。

さて、俺が背負ってもいいけど・・。


「ギオニス」


「はいはい」


ギオニスはさっと背嚢を受け取って背負った。

もともとギオニスは純粋戦士ではない魔術士なので騎士用の鎧ではなく、魔術士用の黒い革鎧しか着けていない。バウロもザイケンも女騎士殿も背嚢を背負うにはちと辛いだろう。


「クーは敵の目標なのだろう?この男に預けて大丈夫なのか?」


女騎士殿が不審な目でギオニスを見た。もしかして自分が背負いたいのだろうか?


「フェルニ殿はギオニスの魔術知らない?」


「・・・そういえば、聞いたことないな」


どこまでギオニスに興味ないんだ。そしてギオニス、そこは照れる所じゃない。


「それはもう・・・どんだけーってほどコチコチの防御特化だよな」とバウロ。


「さすがにもう攻撃魔術の一つぐらい覚えたんだろっ?なっ?」


「・・・・」


目をそらすな、ギオニス。


「・・・・まあ、ギオニスの周りにいる限り、滅多なことでは死なないよ」


魔力の尽きが命の尽きでもあるけれど。

魔術の適性は、本人の希望や願望がもろに出る。

ギオニスの場合はとかく『身を守る』『危険を払う』に全てのリソースが注ぎ込まれている。どんだけ怖がりなんだと。どんだけ自分大事なんだと。


「そう!結構、剣の練習したんだよっ!そこそこ使えるようになったんだよ!?」


「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」


バウロは、一応確認してみることにしたらしい。


「んで、その使えるようになった剣は・・・どうしたんだ?」

「へ?」


ギオニスが「え?あ?ふ?」とか言いながら、自分の体をまさぐる。流石に股間には無いだろう。いやあるか。危険なやつが。


「わ・・・忘れたっ!」


ギオニスの腰には魔術士用のマジックワンドとポーチのみ。剣はどこにもない。ギオニスが魔術士であることを知ってるから、帯剣して無くても不思議に思わなかった。


「それをヘマってんだっ!」とザイケンが拳骨を落した。


ほんと、以前よく見た光景だよ。これ。




「ん?」


なんか来る。


「・・・・若」


「ああ、わかるか?」


「おそらく5人です。魔術を遮断するようなマントかなにかを着てますね。かなりの速度で近づいてきてます」


魔力遮断。

それがヒヒリュウシカの革マントなら・・・

「エルフィムかな」


「ですかね」


「確かこの森、氏族はいなかったよね?」


「ああ、一番近い氏族でアシャの森の民だ。それでも滅多にここまでは来ない」

ギオニスの質問にバウロが答えた。


「黒幕の手下かなんかですかね?」とザイケン。


「今ここで出てくる必然性がないな。可能性で言うなら・・・」


ギオニスが背負ったクーを見る。眠たいのかウトウトしている。ああ、俺が背負えば良かったかな。いやいや、俺が背負うと寝顔が見えないじゃないか。うんそうだそうだ。


「クーを追ってきたクーの氏族の方が可能性が高い気がするな」


「なるほど」


「クーを返すの?」


「・・・・」


やべっ。それは考えてなかった。当然返せって言われるよな・・・。返したくないなぁ。どうしよう。やっぱ返さなかったら怒られるかなぁ。

これ、誘拐になるのか?


うう~む。


「あ、悩んでる悩んでる」ギオニス。


「ありゃあ、返す気無い顔だな」ザイケン。


「無論返さねばな。それが道理だ」女騎士殿。


ギオニスの背嚢から顔を出した眠そうなクーが、実に無垢な瞳でこっちを見た。


「ウチの子になるか?」と言ってみたら、

「ぐぁ!」と言ったので、うちの子になることになりました。


「えー」バウロが呆れたように。

「えー」ザイケンは楽しそうに。

「えー」ギオニスは笑いながら。

「なんだそれは!」女騎士殿が呆れている。


「だって、いま『いいよ』って言ったし」

言ったよ?


「おぉ、久しぶりに若の我が儘見たぜ」


「こういうとこ、まだまだ子供なんだよなぁ」


「大丈夫、世話はする。できる。たぶん。きっと。なぁ?」


「ぐぅ」


「ほら、クーも『がんばる』って言った」


なんとも生暖かい眼で見られたが、そう聞こえたもんは聞こえたのだ。

うちの子けってーい。



「すまないが、それを私たちは認めることはできない」


来たよ。

エルフィムさん。


俺達の前に、5つの影がとても静かに現れた。

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